「小さな巨人」:PRINCE@M.S.G.。

イヤー、久し振りに興奮した…血沸き肉踊るとはこの事だ!とマジに思い出させてくれた昨晩のコンサートの事を、今日は記そう。

行った会場はニューヨークの「聖地」、通称「M.S.G.」(マジソン・スクエア・ガーデン)、行ったコンサートはプリンスの「Welcome 2 America Tour」。7時半の開演に間に合わせる為に、カタログ中のオフィスを静かーに抜け出し(偶には良いだろう…笑)、一度家に帰って急いで着替え、家から車で5分のM.S.G.へと妻と向かった。

M.S.G.に着くと、思ったよりスムースに会場に入る事が出来、巨大会場の中にやっと我々の席を見つけて座ったが、7時半に為っても人は疎らで、空席も目立つ…それは前座のステージが有ったからなのだが、豈はからんや、この前座の女性ヴォーカルをフィーチャーしたファンキー・バンド「Sharon Jones & the Dap-Kings」の歌と演奏は、たった30分間の演奏で一昨晩のキース・ジャレットの「リヴェンジ」を十二分に果たせた程、本当にスゴ素晴しかったのだ!

そしてこのバンドが惜しまれながら引っ込むと、続く40分間は嘗てのR&Bのスター達、カーティス・メイフィールドティナ・ターナー等の昔の映像が大スクリーンに映し出され、気づかぬ内に超満員と為って来たM.S.G.が、否が応でも興奮で揺れ始める。しかしこのM.S.G.は非常に良く出来たスタジアムで、前の人が全く邪魔にならない…ニューヨークに長い癖に、未だバスケットボールの試合も観た事がないので、観てみるのも一興だろう…そう云った事も含めて、この会場でコンサートを開く事が、そのまま世界のトップ・ミュージシャンで有ると云う事を証明すると云うのも簡単に頷ける程、この会場のカリスマ性は高い。

さてその会場には大きな縦型のスクリーンが吊るされ、中央にはプリンスの「トレード・マーク」を象ったステージが作られている。束の間そのエッジのライトが点滅したりしていたが、急に会場の全照明が落ち、割れるようなそして地響きの様な大歓声が起こる…そしてこのスーパー・スターの著名なる曲の「イントロ・メドレー」の後、8時40分、ついにプリンスがステージに登場し、「KISS」でコンサートは幕を上げた。

もうそれからは怒涛の「2時間20分」、ほんの少しの休憩を挟みながらも当年取って52歳(!)のプリンスは、筆者が高校生の時に彼を初めて知った曲「I Wanna Be Your Lover」や、後にチャカ・カーンに拠ってリヴァイヴァル・ヒットした「I Feel For You」の頃と何一つ変わらない声量、ダンスのキレ、力強いギター・プレイで歌い、弾き、踊り、そして叫び続けたのであった!いや、正確に云えば、1989年に東京ドームで彼を観た時と比べれば、正直「股割り(をして直ぐ起き上がる)ダンス」の回数が激減し、整形したと思われる右目が少しおかしく見え、左の頬にニキビが有ったとしても、それが何だと云うのだ!

そして大熱狂のコンサートは、筆者のディスコ全盛時代の曲、例えば「Controversy」や「Raspberry Beret」等を経て、遂に「Purple Rain」を歌い始めると、この広大なM.S.G.が観衆の「Woo〜woo〜wo〜」と声を合わせ手を振る動作で揺れ動いた…もう、涙無くしては歌えないでは無いか!その後の大興奮の「アンコールのアンコール」では、「Let's Go Crazy」から「1999」と云うゴールデン・メドレーが演奏され、ステージ上にはセレブも上げられて踊り捲くり、コンサートは締め括られた。余談だが、途中ふと気付いて客席を見ると、一箇所だけ灯りが当っている場所があり、良く見ると1人のオバサンがステージに背を向け、客席に向かって何やらジェスチャーをしており、そしてそれは「手話」であった…プリンスのコンサートでは、こんな光景も見る事が出来るのだ。

あんなに巨大な会場で、あんなに体の小さい50過ぎの男が、あれだけの人数の観衆を熱狂させ、バラードではベッドと化したピアノの上に寝そべり、およそ1万人と云う女性達を瞬時にノックアウトする。偉大なアーティストは、小柄でもステージ上では大きく見えると良く云うが、これはプリンスの為に有る賛辞と思って良い。思い返せば、プリンスが世界の音楽シーンに登場した時、当時多くの人が「何だ、コイツ」と思った筈で、彼はブラック系からは「ロックじゃねえか」と云われ、ロック系からは「所詮ブラックだろ」と疎まれていたからである。

それは、このアーティストの音楽が余りにも新しかったから。そして、それ迄のR&B・ソウル・ファンクから境界を越え、ディスコ、テクノ、そしてロックを融合し、新しいポップ・ミュージックを創造したプリンスの功績は非常に大きかったのは事実だが、或る時期迄「MJ」の影に隠されていた事も事実であろう。しかし、この「エロティック」「アーティスティック」「両性具有的」、延いては「変態」とも呼ばれる、しかし非常に計算されたプリンス像は、何よりも彼のギター・プレイに顕れる「ロック魂」に集約されるのだと、MJ亡き後、昨晩ヒシヒシとそれを感じたのだった。因みにプリンスは、昨晩あれだけ動いたM.S.G.の公演後、ウイリアムズバーグでのアフター・パーティーでも、プレイしたそうである…何と云う52歳なのだろうか!

小さな巨人」の真髄を堪能した、ファンタスティックな夜でした!