「女殺油地獄」。

ル・テアトル銀座での二月花形歌舞伎の内、「女殺油地獄」を観た。

今回の出演は、「河内屋与兵衛」に市川染五郎、「七左衛門女房お吉」に市川亀治郎の若い布陣。

筆者に取ってこの「ル・テアトル銀座」は、もう20年も前に為るだろうか、嘗て此処が「セゾン劇場」だった頃、例えばピーター・ブルック演出のシェイクスピア真夏の夜の夢」等の、素晴らしい観劇の想い出が有る場所なのだが、それ以来来た事が無いかも知れない。

さて、この「女殺油地獄」は、云う迄も無く近松門左衛門晩年の作、実際に起こった事件を題材に、人形浄瑠璃として1721年に初演した作品だが、当時の評判は全く以て芳しく無く、江戸時代には一度も再演されなかった。しかし明治に為り、坪内逍遙に因って、その心理描写等の近代性が再評価され、歌舞伎狂言となり、名作となった作品である。

場内に入ると、客席は略満員、しかしその殆どが女性客である…これは良くも悪しくも最近の歌舞伎の傾向で、役者や演出に対して厳しい眼を持つ女性が居ないとは云わないが、批評精神の強い、男性の「通」が減って来ているのも確かなのでは無いか。

劇場内部は、劇場の仕様上花道が短く舞台も狭いが、バルコニー席も桟敷の様で、何処か江戸期の芝居小屋を彷彿とさせ、悪くない雰囲気。

そして「女殺油地獄」が開幕、肝心の舞台はどうだったかと云うと、染五郎の気の良い遊び人振りは、少々やり過ぎで鼻に付き、亀治郎も気っ風の良さの表現がまだまだ…。反面良かったのは、殺される女房の夫豊嶋屋七左衛門役の市川門之助、そして母親役の片岡秀太郎であった。

また、この狂言の売りである「油滑り」の殺しの場面も、何処かピリッとせずイマイチだったのだが、救いはそれでも染五郎で、彼の演技は鼻には付くが、コロコロと気が変わり、気が弱い癖に「超自己チュー」で不安定、そして今で云う所の「キレる」若者の役が、意外に染五郎に合っていて、ちょっと往年の孝夫の雰囲気が、彼の将来性を感じさせた。

ご存知の通り、海老蔵がこんな状況で、染五郎には或る意味千載一遇のチャンスな訳だし、「蟹蔵」の高くなった鼻を潰すライヴァルに為り得るのは、最早染五郎菊之助しか居ないと思う。

染五郎の(亀治郎もだが)小中高の先輩として、そしてお父上九代目幸四郎の結婚式を、母校チャペルで見学した者としては(笑)、七代目には早くもう一皮剥けて欲しいと思っている。

ガンバレ、後輩(たち)!