「黒船来航」、或いは「幽霊」と「幸福」。

昨日は朝から、毎年恒例、一年一度の「人間ドック」。

今回は、何時もの「一泊」では無く「1日ドック」にしたのだが、胃の内視鏡を始め、幾つかのオプションを付けた。昨日中に判った各種結果を元にした、ドック・メニュー最後の医師に拠る問診では、体重が増えた事、悪玉コレステロールが高目で有った事、逆流性食道炎、を指摘される事に…要は「食い過ぎだ、痩せろ」と云う事だ(笑)…やりますよ、今年は(笑)!

そして夕方からは、古美術商を2軒訪ねて、情報収集と四方山話。

作った本人である筆者も未だ見ていなかった、出来立ての「日本・韓国美術」オークション・カタログを一緒に見たのたが、今回の表紙は、ヴェヴェール旧蔵、パレフスキー・コレクションからの歌麿の錦絵、「針仕事」。この作品は状態も素晴らしく、世界でたった2枚しかその存在を知られていない逸品である(もう1枚は、メトロポリタン美術館蔵)。

う〜む、何と素晴らしい出来のカタログなのだ!(笑)と自画自賛したりしていたが、古美術商との話は、行き詰まった現在の日本古美術業界を、如何に改革するかと云う話へ。

最近若手や、老舗の鑑賞系一流古美術商と会うと必ずこの話になるのだが、腕と眼、広い視野を持つ彼等程、この期に及んでも「公開オークション」を決してやらない今の美術倶楽部に、多大なる危機感を感じているのだ。

聞くと、今週末か何かに、東京のホテルで中国人の業者がオークションを開くらしい。そして既に、130人以上の中国人が東京に来ていて、日本橋や京橋、青山の骨董街を闊歩していると云う。また「日本海オークション」と云う新しい組織も出現し、外国人業者も参加できる所謂「現金会」が、中国美術のお陰で大盛況、倶楽部の会の売上を凌ぐ事も有ると云う。

美術倶楽部は、何も業者の市を止める事は無い。春夏年二回でも良いから、公開オークションを開催して一流の作品を出品し、中国・アメリカ・ヨーロッパから客を呼び寄せ、東京や京都に来て貰う。そうすれば、彼等は地元の骨董屋にも寄るだろうし、新たなビジネス・チャンスも生まれる筈だと思うが、如何だろうか?

今の日本の古美術業界の、この閉塞感を打破する為には、この方法若しくは、我ら「黒船」の来航しか無いのでは無いか…勿論一朝一夕に行くとは思わないが、エジプトやリビアを見ていると、改革とは、要は「ヤル気」である。既得権益はもう捨てて、未来を、しかも直近の未来を見据えての、美術倶楽部の早い動きを期待したい。

「美術倶楽部」は、歴史的にも、またその経験値も、我が国の古美術界に取って、今でも非常に重要な存在なのだから。

さて、古美術商達と熱く語った後は、代官山の「Y」で気の合う友人達とディナー。

昨日のメンバーは、谷中に在る「幽霊画」のコレクションで有名な禅堂のH住職と、日本美術ライターのH女史…皆で好き勝手云いながら、季節の美味しいおばんざいを楽しんだ。

先ずの話題は、今年の夏芸大で開催される「うらめしや〜:幽霊画展」…此の展覧会はH住職の禅堂のコレクションが中心と為る物である。

芸大での展覧会関連イヴェントとしての、例えば観覧者が一人一人が懐中電灯を持って見て廻る、「肝だめし@Night in Museum」や、芸大から禅堂迄の墓地巡りツアー等の架空企画をゲラゲラ笑いながら云い合っていたが、或る時住職が真顔になり、我々に尋ねた。
「『幽霊』と『幸福』の共通点は、何だと思います?」

ウ〜ム、何だろう?H女史と首を傾げていると、住職はこう答えた。「どちらも『見える様で、見えない』って事です」

幽霊も幸福も、良く見えないからこそ、見てみたいと思う。が、「幽霊の正体見たり、枯れ尾花」とは良く云った物で、この両者はそもそも、自分勝手な「幻想」に過ぎないのかも知れない。

己を直視する事を怠って、自分が作り上げた「幻想」と「現実」のギャップに悩んだりしてはいけない。展覧会を通じて、そんな事を伝えたいと、H住職はニッコリと微笑みながら、我々に語った。

耳が痛い話で有ったが、襟を糺す良い晩であった。