「桂屋商会」発足?

ニューヨークは、本当に暖かくなった。

先月日本から帰ってきた食後に震災が起きて、その後Asian Art Weekが始まり、直ぐ自分のオークションの下見会、そしてセールと震災復興支援活動も始まって忙しく、しかしやっと生活も落ち着いて来て、今回紹介する非常に興味深い一冊も、読了することが出来た。

その一冊とは、朽木ゆり子著「ハウス・オブ・ヤマナカ 東洋の至宝を欧米に売った美術商」(新潮社)。

著者の朽木さんと筆者とは、此処ニューヨークではお互い旧知の間柄。その朽木さんは、「フェルメール全点踏破の旅」と云う著作でも知られた方だが、茶道武者小路千家ニューヨーク支部「随縁会」の代表としても活躍されている方で有る。

そしてこの著作、力作且つ素晴らしい読み物と為っていて、戦前アメリカに於いて一世を風靡した東洋古美術商「山中商会」の、今迄知られていなかった「全貌」を知ることが出来る。

さて、オークション会社に勤めていると、時折売る作品の辿って来た「来歴」を知る事が、必要且つ可能になる事が有る。眼の効く有力なコレクターや美術館、そしてディーラーが嘗ての所有者だったと為ると、買う方も安心して買えるからで、例えば或る粉引の徳利を「桂屋孫一が持っていた」と云うよりも、「白洲正子が持っていた」と云う方が、格段に信頼が置ける云う訳だ(比べる事自体、大変失礼でした:笑)。

そんな中、オークション出品作品に付いている「日本人ディーラー」の来歴で云えば、カタログの「Provenance」欄に記載されるべき名前は限られていて、その代表格と云えば、「Mayuyama & Co.」(繭山龍泉堂)、「Fugendo Co.」(不言堂)、「Kochukyo Co. Ltd.」(壺中居)、「S.Yabumoto」(藪本宗四郎氏)、そして「Yamanaka & Co.」(山中商会)であろうか。

その東洋美術オークションでの「来歴最大手」、山中商会の米国進出とそのビジネス拡大の秘密、そして第二次大戦に拠るビジネス縮小と米国政府に拠る摂取迄を、社会情勢やロックフェラー等の米富豪との付き合いなどを通して、手に汗握るドキュメンタリーとして描かれる。何と云うか、NHKとかでドラマ化したら良いのでは?と思った程である(山中定次郎翁は、例えば大滝秀治か…それとも…:笑)。

そんな手に汗握るドキュメントの最後、筆者が思わず涙しかけた箇所が有って、それは本書の最後の最後に書かれた、「…しかし美術商には、美術品固有の価値を広く普及させるという大きな役割がある…日本や中国の文化を普及させ、いわば民間文化外交官の様な役割も果たした。」と云う所である。これは、21世紀の今尚、筆者が仕事をする上で最も念頭に置いている事で、この仕事を20年近く何とか続けている理由も、要は日本美術品と云う物を「媒体」に使って、「日本文化」「日本」の価値を世界に知らしめたいと、唯々思っているからなのである。

この著作を読むと、山中商会のみならず「美術品」と「ビジネス」の歴史をも学ぶ事が出来る、非常に読み応えの有るお勧めの一冊…お勧めしたのは、某日本美術史家の先生が書かれた「波」と云う雑誌の中の書評で、「東洋の至宝を売りまくっている男」と呼ばれた男でした…。

「桂屋商会」(House of Katsuraya)でも興そうかな(笑)!?