「一味神水」:今こそ読むべき、「もしも利休があなたを招いたら」。

9月のオークションに向けての出品作品集めも、そろそろ佳境に入って来た。

毎回思うのだが、良くも此れだけの数が集まる物だ(現在230点程)…我ながら呆れてしまうが、今回も素晴らしい屏風や版画(写楽!)、明治の「超絶」工芸(漆や焼物)、アメリカ有名コレクターからの「印籠コレクション」等、バラエティに富んでいる。〆切迄後一ヶ月、もうひと踏ん張りだ。

そして先程迄全く忘れていたのだが、今月の12日を以ってして、このアート・ダイアリーが「2周年記念」を迎えていた…。

何とも驚く時の早さで有るが、それと共に自分の「筆」(「指」か?:笑)が未だ保っている事にも、自身正直驚きを隠せない。しかしこれも、「外人枠」日本美術スペシャリストの、独断と偏見に充ちた「アート日記」を読んでくれている人々が居たりするからで、誠に有り難い事だ…此処に感謝の意を示しておきたい。

閑話休題

さて昨日、武者小路千家家元後嗣である千宗屋氏の新著、「もしも利休があなたを招いたら-茶の湯に学ぶ“逆説”のもてなし」(角川Oneテーマ21)を読了した…が、この「読了」は実は二度目で有り、其れ程迄にこの著作は「今」味読すべき書なのである。

この「もしも…」は、当然「茶の湯」の心得や作法を語りつつ、其れを通しての鋭い現代日本社会論・日本文化論に為っているのだが、しかしそれに留まらず、史上最大級の震災を経験した日本人に取っての、「これからの生き様」を指南する格好の一冊と為っている。

文中に登場する例えば「即今」、「調身・調息・調心」や「伝燈」等の言葉の数々は、読む者の心を鋭く射抜き、その本来の意味を気付かせる。また「囲い」や「独服」の思想は、21世紀の現代に生きる我々の生活の中にもするりと入り込み、其処に腰を落ち着かせる事が容易に出来ると云う事を実感させる。そしてこの「言の葉の力」は、勿論氏の文章力にも由縁するだろうが、その思想の強さ故の賜物で有り、今特に精神生活に於ける「伝燈」を喪いつつ有る日本人を、容赦無く一喝してくれるのである。

一味神水」…「中世の一揆などの際に行われた儀礼で、連判状を書き、その誓紙をを焼いて灰にしたものを神前に供えた神水と混ぜ、その水を入れた盃を全員で回し飲みをした…思いを一つにした水を飲む事で、決して誓いを破らない事を約束し、結束を固めた」と云う。

茶の湯に於ける「濃茶」が当にこれに当たると思うが、この「結束」こそ今の日本人に最も必要なモノなのでは無いだろうか。

今、日本人が読むべき「第一級」の著作である。此処に多くを語る必要は無い…是非のご一読をお勧めする。