残酷な「ダイヤモンド」:Kathleen Battle@Blue Note。

一昨日、滔々ニューヨーク州で「同性婚」が認められた。

そんな訳で昨日のダウンタウンは、今日行われている「Pride Parade」(ゲイ・パレード)の準備で街中「レインボー・カラー」で彩られ、世界中から集まった「老若美醜」(笑)入り混じったゲイ達で溢れ返って居たのだが、その彼らの熱い視線をかわしながら、先ずは遅いランチをチェルシーのピッツァテリア「C」で。

天気の良い遅い午後のこの店は、人も少なく最高で、「こんなにシンプルで、何故に此れ程旨いのか!」の「Shiitake Pie」を食す。その後は腹ごなしに散歩がてら近所のギャラリーを幾つか廻り、最終的に何を血迷ったか、久しぶりに寄った「CDG」で目茶目茶カワイイジャケットとパンツを購入…「Bargain」の文字と数字、そしてゲル妻のお世辞にヤラレてしまった。

そして夜はこの日のメイン・イヴェント、キャスリーン・バトルのステージを観に、久々の「ブルー・ノート」へ。

ご存知キャスリーン・バトルは、その小柄ながら美しい歌声と美貌を以ってオペラで鳴らした「Black Diva」で、筆者も1992年レリースのカーネギー・ホールでのライヴ盤、そしてその中に収録されたヘンデルの「Ombra mai fu」に魅せられてからのファンで有るが、彼女のライヴを観るのは実は今回が初めて…しかも「Blue Note Jazz Festival」の一環として、「聖地」ブルー・ノートでピアノ伴奏のみで歌うと云うのだから、期待(と、或る種の不安)も高まろうと云う物だ。

7時半にブルー・ノートに着くと既に超満員だったが、テーブルを予約していたので端の方にやっと座る事が出来た。そして暫くするとバトルとピアノのサイラス・チェストナット(何と云う名前だろう!)が登場…バトルはシンプルな黒のドレスに、このコンサートに協賛していると云う「ブルガリ」の美しいダイヤモンドを鏤めたリング、ブレスレット、ネックレスを着けてのゴージャスな装いである。年は取ったが、その可憐さは健在の様だ。

そしてステージが開幕。先ずはゴスペルからのナンバーを4曲。エンジンが未だ掛からない様だったが、「Give me Jesus」等は高音が美しく、中々感動的で有った。次のセレクションはラテンからの選曲で、セルジオ・メンデスの曲等を歌ったが、これもソコソコの出来で「フーム、どうした物か…」と思い始めたのだが、次のガーシュウィンのセクションで、バトルは流石の本領発揮をした。

「Porgy & Bess」からの「I Loves you, Porgy」と「Summertime」の2曲、特に「サマータイム」はナラダ・マイケル・ウォルデンのアレンジ曲で、大変に素晴らしかった!余談だが、このドラマー出身のナラダ・マイケル・ウォルデンは筆者の高校時代、「アイ・シュダッ・ラブ・ジャ!」(「I Should Loved Ya」)と云う曲がディスコ・ヒットしていたが、その後名プロデューサー&アレンジャーとして活躍した人である。

その後のバトルのステージは、ラグタイムから最後のデューク・エリントンのパートへと移行したが、残念ながら彼女のたおやかな声と個性の強いブルース系のピアノとの相性や、クラシック出身の為か乗り切らないグルーヴ、そして「ブルー・ノート」と云う会場にもそぐわなかった感が強い。「キャスリーン・バトルが、『ブルー・ノート』で」と云うチャレンジは、此方側の「『Ombra mai fu』の様なアリアを歌うのでは?」と云った期待が強かった所為も有るかも知れないが、個人的には全く以って「イマサン」の結果に終わってしまったのだった。

帰るすがら、バトルが身に着けていた「ブルガリ」のダイヤモンドがステージ上で眩く煌いて居た事を考えると、それを着けた、峠を越してしまった(かに見えてしまった)「誇り高き歌手」が、少々悲しく思えて来た。

「ダイヤモンド」は、時に、余りに残酷である。