「偉大なる声」:Earth, Wind & Fire@Beacon Theatre。

ニューヨークは穏やかな気候だが、今日で今年も半分終りかと思うと、何故かゾッとする。そして「バースデー・マンス」の7月は、カタログの締め切りと幾つかのバースデー・イヴェント、そして暑さで倒れない様に気を付けねばならない。

さていきなりだが、今月16日の帰米後から続いていた個人的「音楽週間」、或いは「ファンキー・ウイーク」が昨晩終了した。帰米後翌々日のチャカ・カーンから始まり、キャスリーン・バトルブーツィー・コリンズと来て、昨日の「トリ」は待ってましたの「Earth, Wind and Fire」…と冷静ぶっているが、これは単なる「疲れ」の為で、昨晩のエキサイト振りが旨く伝えられるか少々疑問だが、辛抱強くお付き合い頂きたい。

遡る事数日前から、ゲル妻が「予習しなくちゃ!」等と云うので、昔作った「Best of E.W.& F.」と書かれたカセット・テープを探し出し、ラジカセで聞かせた上に、歌ったり踊ったりもみせたが、その効果は判らない侭(笑)、8時開演と云う事で昨日は一回家に帰り、T-シャツとジーンズに着替えて準備万端…シアターでの公演なので、早めにアッパー・ウエストの「Beacon Theatre」へと出かけた。

着いて見ると、ビーコン・シアターはもう大混雑で、NBCの有名アナなどのセレブの顔も見えるが、それもその筈、何しろこのコンサートは、アースの「デビュー40周年記念コンサート・ツアー」のニューヨーク公演の最終日(2日目)なのだった。先ずは売店に並び、記念T-シャツをゲット…黒字にアースのロゴ、そしてその周りに懐かしのレコード・ジャケットが印刷されたモノで、中々カッコ良い。そしてシアターに入ろうとすると、つい数日前に取材を受けたばかりの某全国紙の記者さんとバッタリ…お互いに「アース、良いよねぇ…今度飲みに行きましょう!」と興奮し、いきなり親密な間柄になってしまった…これもアースのお陰である(笑)。

超満員の中席に着くと、司会らしきブラザーがステージに登場、この公演が「KISS-FM」で放送されるとのアナウンス。そして序にバック・ステージ・パスを$100で売っていて、これが有れば楽屋でアースのメンバーと話せて写真も撮れると云う…マジ悩んだが、モーリス・ホワイトが居ない事も鑑みて止めて置いた。そう、もうアースには、モーリスおじさんが居ないのである…モーリスはパーキンソン病に罹っているのだ。

大げさに聞こえるかも知れないが、中3か高1の時にアースの武道館での初来日公演を観に行き、広い意味での「ブラック・ミュージック」と云う筆者の人生に於ける「新しい音楽」を知って以来、アースは筆者の人生と共に有った。それは、銀座NOWで初めて「宇宙のファンタジー」を知り、ディスコで歌い踊り、バラードに涙した青春時代のバック・グラウンドには、常にモーリス・ホワイトフィリップ・ベイリーの声が有った。そして、その片方である「モーリスの声」の無いアースの曲を聞くのは、コンサート、レコード、CDを通じて今回が初めての経験だったので、一抹の不安もあったのだ…モーリスの居ないアースは、まるでクリープを入れないコーヒーの様なモノで有ろうから(若い人には、判らんだろう)。

アナウンスから暫くすると照明が落ち、愈々開演…1曲目から何と「ブギー・ワンダーランド」で、いきなりの観客総立ち状態、観客は一気に興奮の坩堝に落とされ、筆者の「不安」は木端微塵に砕け散った!もうその後も、「ゲッタウェイ」「セプテンバー」等のダンス・ヒット・ナンバーの連続、隣の白人のオバサンはノリノリで踊り、反対側の黒人女性は歌い続けて、少々疲れて来たかなと思うと、其処は流石のアース、絶妙のタイミングでジャズ・フージョン系の曲やブルースを演奏、年齢層の高い観客を座らせて休ませる(笑)。そしてバラード・コーナーでは、フィリップが甘い声で「アフター・ザ・ラヴ・イズ・ゴーン」等を熱唱、その後も「ファンタジー」や「レッツ・グルーヴ」等の大ヒット曲で観客は踊り狂い、歌い続けたのであった!

しかし今回のライヴでも思ったのだが、何しろ彼らは演奏が上手い。特にキーボードやギター、ホーン・セクション(「フェニックス・ホーンズ」が懐かしい!)の腕は超一流である。が、それにも況して驚いた事は、何を隠そうフィリップ・ベイリーの声であったのだ!

フィリップの声、特に「ファルセット」はアースの「命」、若しくは「宝」と云っても過言では無い。それ程に重要なるが故に、年月が経ち今年60歳になったフィリップの声がどうなっているか、開演前は半信半疑であったのだが、その不安が恥ずかしくなる程に彼の声と歌唱力はそのまま、と云うよりも、昔よりも一段と素晴らしくなっていたのだった!これは恐らく年齢を重ねた人としての深み、長い間の丁寧なケアと節制、そしてモーリスが居なくなった後自分がアースを背負って立たねば、と云う責任感の賜物なのだろう…もうその歌声の美しさと力強さに、不覚にも涙が出そうであった。

「アース・ウインド・アンド・ファイヤー」…この偉大なるバンドは、他のメンバーの生演奏と一緒に歌って居るかの様に演出され、スクリーンに映し出された若き日のモーリス・ホワイトと共に、未だ生き続ける…偉大なるフィリップ・ベイリーの「声」が、続く限り。