役者は揃った!:9月の日本・韓国美術セール「スニーク・プレビュー」。

何しろここ数日、「なでしこ」が劇的な勝利をして以来、此処ニューヨークで会う人、メールする人(外人である)毎に「Congratulations!」と云われ続け、ウチの会社の某セキュリティーに至っては、「Thank you very much!」等と云う…「何で、Thank youなのだ?」と聞くと、オッズの高い日本に賭けていて大儲けしたそうだ(笑)。成る程、日本は今迄アメリカに一度も勝った事が無かったのだから当然である…今度コーヒーでもご馳走して貰おう。

そこで、そのセキュリティーが何を警備していたかと云うと、今日(ニューヨーク時間20日)の夜7時から開催される、「BEATLES ILLUMINATED: THE DISCOVERED WORKS OF MIKE MITCHELL」に出品される写真の数々で有る。

この「イヴニング・セール」で売却される46点の写真は、ご存知ビートルズが1964年に初のアメリカ・コンサートをした時に写された作品で、当時ティーン・エイジャーだったマイク・ミッチェルが、有ろう事か50年近くに渡ってキャビネットに入れた侭、忘れていた作品なのである!

これらには、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの各メンバーのポートレイトや集合写真、ステージ風景、イメージ・ショット等が含まれていて、若々しい野心満々の在りし日の彼らを見る事が出来る…今から結果が楽しみである。

さて皆様に於かれましては、このダイアリーを読む限り、遊び呆けている様にしか思えないと思うが、何を隠そう筆者は今、来る9月14日開催の「日本・韓国美術オークション」のカタログで「昼」はてんてこ舞なのだ。

そこで今日は、その280点を超える作品の中からの「スニーク・プレヴュー」をお届けしようと思う。

先ずは「EDSON」印籠コレクション。このコレクションは柴田是真のコレクションで名高いエドソン・ファミリーの持物で(三井記念美術館での展覧会を覚えている人も多いだろう)、エドソン氏の死後、大概の作品は某アメリカの美術館に渡ったが、個人所有の中々質の良い「古満」や「是真」作品を含む、60点以上の印籠・重箱を含む漆工品のコレクションで有る。

また今回は「能面」も、個人コレクションを含む20点以上の出品が有り、古くは室町後期ー桃山と思われる物から江戸後期まで、種類も「曲見」等の女面から怨霊面の「痩男」や「泥眼」、「弱法師」「邯鄲男」等の男面や鬼神面の「大飛出」迄全て異なり、多彩を極める。これ程多くの能面が一度に出るのも本当に珍しいので、下見会に来る人も多くなるだろう。

コレクションと云えば、数は10点と多くは無いが、「茶道具」も個人コレクションからの出品が有って、こちらは遠州の一重切竹花入や消息、宗旦の竹花入と茶杓石川丈山の詩軸や宗哲の棗等々。

最近勉強して力を入れている明治の工芸分野では、陶磁器では宮川香山の大名品のペアの瓶(これは、本当ーに凄い「これでもか!」作品)、七宝では濤川惣助の皿、漆工芸ではパリ万博に出品された川之邊一朝の漆棚等、再び「超絶明治」がの技巧を観る事が出来る。

また、仏教美術も忘れてはならない…藤原も早い時期と思われる「木造大日如来坐像」や鎌倉期の「木造阿弥陀如来坐像」、繭山が嘗て扱ったと云う鎌倉期の金銅菩薩立像等、何れも名品である!そして絵画では、メチャメチャ書込みの良い「桃山有るだろう?」と思われる「合戦図」や、珍しい「仙がい(「がい」は「崖」の「山」の無い字)さん」の名品絵巻物等々。

しかし何と云っても今回のセールの目玉は、最近の東博の展覧会でも大好評だった「写楽」…「謎の絵師」東洲斎写楽に就いては、拙ダイアリー「しゃらくさい、『写楽』」を参照して頂きたいが、今回は何と「第一期の『大首絵』」が5枚、しかもその中には、最も有名なデザイン且つ、売買出来る作品が極端に少ない「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」(60万ドル)が含まれて居るのだ!

ハッキリ云って、写楽の「第一期・大首絵」がオークションで一度に5枚揃う等と云う事は稀中の稀で、マーケット的には当に「役者は揃った」なので有る。

その他の作品はと云うと、「三代目坂東彦三郎の鷺坂左内」「初代市川男女蔵の奴一平」「三代目澤村宗十郎の大岸蔵人」「三代目佐野川市松祇園町白人おなよ」(因みに「白人」とは外国人の事では無く、祇園の「公娼」の事である)で、宗十郎と市松は、寛政6年5月5日初日の都座での「花菖蒲文禄曾我(はなあやめぶんろくそが)」、しかも同じ祇園の茶屋の場面で共演。

彦三郎、鬼次と男女蔵は同年同日初日、しかしこちらは河原崎座での「恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな)」、しかも劇中鬼次扮する江戸兵衛が金子300両(!)を奪うのに際し、男女蔵扮する一平が抜刀して抵抗しようと云う「敵同士」の場面で共演、そしてこの2作品はその構図も2枚「向き合わせ」で楽しむ様に作られている(との説が有る)のである。

経営破綻した江戸三座中村座市村座森田座)の、各々の「控櫓」として存在した「都座」「桐座」「河原崎座」に取材した写楽…この辺に写楽の突然の登場の大ヒントが隠されていると思うのだが、そんな「ミステリー」を象徴するかの「第一期」の名品達に一度に会える…だからこの仕事は止められないのだ(笑)。

最後になったが、韓国美術セクションにも、世にも美しい18世紀李朝の「染付山水梅竹文角瓶」、朴壽根や金煥基(200万ドル!)の近現代美術の名品が出品される。

カタログの表紙は、当然写楽の「鬼次」…東博の「写楽展」展覧会図録と間違われない様にしようか、間違われる様にしようか、今頭を抱えている最中である(笑)。