「お姫様の誕生会」。

昔々、亜米利加と云う大きな国の中の紐育と云う村に、「エリザベス宮殿」と云う世にも美しいお城がありました。

そのエリザベス宮殿には、一人の可愛らしいお姫様と一匹の可愛い「チャイナ」と云う名の猫が住んでいました。因みに「チャイナ」と云う名は、宮殿の近くに中国から来た人達が沢山住む、「中華街」と云う村が在ったからと云う伝説が今でも残っています。

或る時、そのお姫様に好きな人が出来ました。伊太利亜と云う国から葡萄酒を売りに来ていた王子様と知り合い、仲良くなったのです。最初は別々に住んでいたお姫様と王子様も、2人の愛が深まるに連れ、何時しか一緒にエリザベス宮殿に住み始め、チャイナと共に、2人と1匹で仲良く暮らす様になりました。

そんな或る年の、夏の暑さも大分収まった9月、お姫様の誕生会が、村一番のハンバーガーを食べさせると評判の「素敵な一日」と云うお店で開かれました。

この「素敵な一日」と云うお店は、エリザベス宮殿から程近い、「宮殿通り」沿いの「王子様の通り」と「春の通り」の間に在る、こじんまりとしたお店です。このお店の名物は、ハンバーガーの他にも鳥の唐揚げや枝豆のディップ等が有るのですが、中々美味しい食べ物を沢山出す、村人達にも大人気のお店でした。

さて、何時ものお姫様の誕生会は、村人達が色々な催しを考えて、お姫様を驚かしたり、笑わせたりしてお祝いをして居たのですが、この年の誕生会は、お姫様に取って大事な大事な「40回目の誕生会」だったので、お姫様が自分で催しを考え、食事やケーキの手配をしたのでした。

残念にも雨降りになってしまった誕生会の当日でしたが、夜になって、お姫様と仲の良い村人達が、大雨の中ぞくぞくと「素敵な一日」にやって来ました。その中には日本人や墨西哥人、亜米利加人や波蘭人等も居て、村人達のお仕事も宝石や服を作っている人、骨董品を売っている人、建物を造っている人や髪を切る人、歌を歌う人や文章を書く人等本当に様々で、お姫様の広い交友関係が窺われます。そういう村人達にお姫様は凄く人気が有り、これもお姫様の気さくで気取らない人柄のせいでしょう。

村人達は美味しい料理を食べたり、お酒を飲んだりして、賑やかに楽しんでいます。そして勿論その中に、お姫様も王子様も入って飲んだり笑ったりしています…何と楽しい夜なのでしょう!そうして暫くすると、村人の中でも一際体の大きい、プロレスラーに良く間違えられると云う大男が立ち上がって乾杯の音頭を取り、皆嬉しそうにグラスを掲げて、口々にお姫様の誕生日をお祝いしたのでした。

そうして、お姫様が注文したケーキが配られる時間に為りました。

お姫様の為にケーキを作ってくれたのは、凄く綺麗なのに、なぜか「歌舞伎」と云う日本の演劇に出てくる役者さんにそっくりな女の人で、お姫様自身の今年の年に因んで、40個の「モンブラン」と云うお菓子が村人達に配られる事に為っていました。

運ばれて来たモンブランを見ると、お姫様の顔を忠実に写したクッキーに、モンブランが髪の毛として付いていたり、チャイナの顔が付いていたりしていて、食べるのが惜しくなる程です。プロレスラーに良く間違えられる大男は、隣に居たこれも体温が高そうな大男と一緒に、モンブランを食べて見る事にしました。さてさて、一口食べてみると…うわぁ、何て美味しいのでしょう!

それをきっかけに、お姫様も王子様も村人達も、美味しい美味しいと云ってモンブランを食べましたが、実は此処からが「お姫様の誕生会」が一番盛り上がる所だったのです。何故なら村人達が、実はお姫様の知らない所で、歌舞伎の役者さんに似ている女の人に、「もう1つのケーキ」を作って貰っていたからです。そしてそれは苺のショート・ケーキの上に、綺麗な「鳥」の絵が描かれているケーキなのでした。

そのケーキの上に描かれた鳥の名前は「四十雀」、「しじゅうから」と読みます。そう、お姫様がその年40歳になったのを記念して、「人間、40(しじゅう)歳からが本番」との意味を込めて、村人達が考えたものでした。村人達による「ハッピー・バースデイ」と云う歌の大合唱に乗って、「シジュウカラ・ケーキ」がお姫様の前に運ばれます。お姫様は、ちょっと吃驚した様ですが、嬉しそうに「お願い事」をした後、蝋燭の炎を吹き消しました。皆、大喝采です。

ケーキの後は、今度は村人達がお姫様の為に少しずつ持ち寄った花を40本纏めた、「花束」の贈呈式です。花束をお姫様に差し上げるのは、勿論王子様の役目…本当は王子様には膝間付いて欲しかったのですが、そこはご愛嬌です…お姫様も本当に嬉しそうでした。

村人達からの贈り物も、本や服、香水や食べ物など心の篭った物ばかり。しかし時の流れるのは早く、「素敵な一日」での楽しい「お姫様の誕生会」も、遂に終わりの時間を迎えました。村人達は三々五々、お姫様にお祝いとお別れを云い、帰って行きます。

たくさんの贈り物を抱えたお姫様と王子様は、村人達に手を振ってお別れをしました。でも、彼らはまた直ぐに会えるのです…何故なら、お姫様も王子様も村人達も、皆本当に仲の良い友達なのですから。

「素敵な一日」を出ると、夜の紐育村に降っていた雨は、大分上がっていました。乾杯の音頭を取った、プロレスラーに良く間違えられると云う大男は、「友達が居ると云う事は、本当に幸せな事だなぁ」と思いながら、何と無く嬉しい気分で、奥さんと一緒に「お姫様の誕生会」を後にしたと云う事です。

目出度し、目出度し。