「玉座」に座る権利を持つ男:Jay-Z and Kanye West @M.S.G.。

筆者の「ヒップ・ホップ歴」、と云うか「ラップ歴」はそれなりに長い。

生まれて初めて「ラップ」為る音楽を聴いたのは、高校生の時に流行っていた「シュガーヒル・ギャング」と「カーティス・ブロウ」だったと思う。

シュガーヒルの「Eighth Wonder」や「Rapper's Delight」、カーティスの「The Breaks」等は、当時本当にカッコ良くて、歌詞を必死に覚えてレコードと一緒に歌ったりしたもので有る。そう云えば今思い出したが、ちょっと新宿ノリだったが、トムトム・クラブの「おしゃべり魔女」なんて曲も有った。

そして昨晩、本当に久し振りにラップ(ヒップ・ホップ)を聴きに、ゲルゲル妻と向かったのは「マジソン・スクエア・ガーデン」…Jay-Z & Kanye Westのコンサート「Watch the Throne」で有る!

今思い出す事の出来る、自分が最初に行った「ヒップ・ホップ」のコンサートは、確か80年代半ばにニューヨークに遊びに来た時に行ったWhodiniか、当時「White Lines」と云う曲を大ヒットさせた、Grandmaster Melle Mel(Grandmaster Flashのコンサートだったかも) では無かっただろうか。

それから何と30年近い月日が経ち、ラップ・アーティストが「M.S.G.」で、しかもこれだけの数のファンで立錐の余地が無い迄に、この巨大会場を一杯にする時代が来ようとは…当に夢の様だ。

さて昨晩のコンサートは、7時半開演…どうせ遅れるとは知りながらM.S.G.には略定刻に着き、Tシャツを買って階を上がり席に着いたが、前座も誰も出ない侭時間だけが過ぎ、やっと始まった時間は何と9時半。しかし、それからアンコールを含めての、この2人に拠る2時間半はもう「怒涛の攻撃」の体を為し、熱狂の連続で有った!

そもそも筆者は、Jay-Zの方に大変な興味が有って、それは彼がヒップホップ界の所謂「王」だからで、見るからに根性の有りそうな面構えと体格、そして「王」には「王妃」が相応しいのは必然、ビヨンセをモノにした「風格」有る男だからである。実際コンサートを観てみると、敬三(Kanyeの事:笑)の曲も雰囲気も売れ線では有るが、余りにも軽く筆者の好みでは無い…その点Jay-Zの、根性の入ったラップとその「風格」有る出立ちとは、雲泥の差を感じたので有った。

また、昨晩のコンサートのセットはと云うと、思いも掛けず非常にシンプルで、これはかなり洗練されていた。各々反対側に向き合って設えられた、2つの巨大キューブが2人を乗せてかなりの高さまでせり上がり、キューブ側面の液晶画面には時には赤や青のネオンが、また時には鮫やドーベルマンが映し出される。ライティングもシンプルなレーザー光線のみだったが、その軌跡が描き出すイメージは大層美しい。

さて今回のコンサートを観て思ったのだが、ヒップ・ホップのコンサートとは、意外と金が掛からないのでは無いかと云う事である。バンドもほんの数人がキーボードとターン・テーブルを操る位で、仕掛けも花火とレーザー、せり上がる舞台だけ…通常ミュージシャンが、コンサート活動で「元を取る」事は殆ど不可能で有ると云う事は知ってはいるが、これだったら…とも思う。

そして、昨日のコンサートで残念だった事の1つは、ゲスト・ミュージシャンが「誰一人」出演しなかった事だ。

前回彼らがヤンキー・スタジアムで開催したコンサートでは、星の数程ゲストが出て来たと云う事実を知っていた者としては、この2人の熱烈なファンだったとしても、ノー・ゲストの昨晩はかなり物足りなく感じたのでは無いだろうか?

Jay-Zと敬三以外で、唯一会場を騒がせたのは、客として来場したパフ・ディディだけだった…コンサート中、リアーナやビヨンセの曲のイントロが掛かる度に「もしや!」と思ったのは、我ら地獄夫婦だけでは無かったに違いない(涙)。

また、アンコール曲をやり過ぎて、昔の曲をやる羽目になり、その時に敬三が歌詞を忘れて何回もやり直しをしたのは、お慰み。

しかしそれでも、スゴい物はスゴかった…結果からすると、若しかしたら昨晩のM.S.G.で「最も年を取った人間」の1人だったかも知れない筆者ですら、伸ばした両手の親指と人差し指で三角を作り、膝を曲げながらその両手を上下に振って踊り狂っていたのだから!

お陰で今日は朝から腰が痛い「最年長」の筆者には、当に「玉座」(throne)なる物が必要なのだが、そんな椅子に座れるのは未だ未だ先の事(って、何時か座れるのか?笑)…しかし現在のヒップ・ホップ・シーンの「玉座」に座る権利を持つ唯一の男、Jay-Zのライヴを観た事は、筆者に取っての「一生に一度」の思い出、また経験と為ったのでした。

公演終了後、帰るすがらM.S.G.の楽屋口の脇を通ると、真っ白い巨大なロールス・ロイスが停まっていて、如何にもJay-Zが乗りそうな車だった…こんな車からJay-Zビヨンセを連れて、毛皮のコートかなんかで出て来られた日には、もう平伏すしかないだろう(笑)。

しかしJay-Z、マジ格好良かったなぁ(溜息)。

これからオレの事は、オークション界の黒幕「Katz-Z(かつ爺)」と呼んでくれ…(笑)。