「メタボ」は増殖する。

月曜から、東京での仕事が始まった。

顧客に会い続け、良いモノ、悪いモノを見続ける…今回も新出の歌仙絵や仏像、新版画コレクションや某有名寺院旧蔵の襖絵等、面白いモノも多い。

そんなここ数日の夜は、夏→冬時間(−1時間)、ニューヨーク→西海岸(−3時間)、西海岸→日本(−17時間)と云う、3段階に亘る酷い時差ボケと闘いながら、顧客との食事も続いているのだ。

月曜のディナーは若手骨董商との「ラムしゃぶ」を初体験、火曜日は後輩社員を伴って、顧客K氏と銀座の割烹。「まる(鼈)」や「ぐじ(甘鯛)」、シメジや松茸ご飯等を頂き大満足だったが、食事が終わる頃から、何しろもう眠くて眠くて仕方が無い。

そして2軒目3軒目とも為ると、その「トリプル時差ボケ」に因る眠気と満腹感で、その店に如何な美人ママが居ようとも、ピチピチのかなり可愛い子が「ねぇねぇ、アタシ、ニューヨーク行きたぁい!」等と、如何に猫撫で声を上げようが、眼を開けてその綺麗なお顔を見詰める事すら、甚だ困難になる…そして堪え切れずに瞳を閉じると、瞼の裏にはゲルゲル妻のご尊顔が…(笑)。

そんな夜を送った翌朝は、早くから定期検診。

何を隠そう筆者は「血液検査フェチ」で(拙ダイアリー:「ムチムチで、サラサラな私」参照)、来日の度に検査をしているのだが、こんな(食)生活では結果が思いやられると云うモノだ。

検査後は、顧客に会う為六本木に向かったが、その前に、或る意味その「検査結果」の予兆とも思えるタイトル(笑)の付いた展覧会、森美術館で開催中の「メタボリズムの未来都市」を速攻で観に行った。

建築に疎い筆者だが、「メタボリズム」の名称だけは何とか知っていて、それは丹下健三黒川紀章菊竹清訓磯崎新等の名と共に有る。

何故ならそれは、初めて彼らの名前と「メタボリズム」思想を知った時、その「『都市』とは、新陳代謝を行いながら『自己増殖』すべきで有る」と云う点が、当時非常に新しく思えたからで有った。

そして、実際に邂逅した建築物で云えば、父親が教えていた為、何度か訪れた事の有る「立正大学熊谷校舎」や、友人の結婚式で数回行った事の有る「東京カテドラル聖マリア大聖堂」、学生時代のデート・コースでも有った「代官山ヒルサイド・テラス」や、高速道路から見えた、異様では有るが、「ブレード・ランナー」的未来都市を感じた「中部カプセルタワービル」等が、筆者の生活の中に仄かに、しかし確かに存在していたからで有る。

展覧会は、数々の美しい都市計画や建築の「モデル」や映像等で彩られていて、眼にも楽しく、「万博」コーナーでは、幼い頃の思い出が蘇る楽しみも有り、自分は高度経済成長期の日本と共に生きて来たのだ、と云う実感も得る事が出来る。

また、今と為ってはこの「メタボリズム」思想には異論反論も有るが、しかしこの様な都市論を「今年」論じる事に、大変な意義が有る事は間違いが無い。

それは、破壊された国土と「原子力エネルギー」の是非をも含めた、国家環境デザイン、或いは再構築の為の多くのアイディアが、今こそ、そして緊急に必要とされていると思うからだ。
展覧会を観終わり、「未来都市構想」と共に、ワタクシ自身の「メタボリズム」を熟考しながら(笑)、感慨深く六本木ヒルズを後にすると、先日新しく桂屋家の「家宝」と為った作品を抱えて、以前これも個人的に非常に大切な天明屋尚作品の額装をお願いした、飯倉近くの「KEIJI FRAME」へ。

KEIJI氏と超カッコ良いフレーミングの打ち合わせを済ませ、「家宝」を預けると、今度は写真家U氏のステュディオにお邪魔し、近くの有名蕎麦屋「M」でランチ…近く開かれる氏の展覧会や近況報告を話し、来月のU氏ご夫妻との再会を約すと、骨董通りの顧客の元へと急ぐ。

骨董商での査定を終えオフィスに戻り、個人顧客から持ち込まれた鎧や蒔絵を観終えると、眠く為り始めた眼を擦りながら、友人のクリエイティブ・ディレクターA氏とのディナーの為、いそいそと神楽坂の「来経」へ。

A氏と「鯛茶」等を食べながら、最近観た仏像や今旬の女優は誰か(武井咲、或いは石原さとみか?)、如何にズントーやシュナーベルが格好良いか等を語り、場所を神保町のベルギービールの店「B」に移すと、数ヶ月振りに行った「B」の店長K君が、何と辞めていてビックリ!

「六代目店長」を襲名した、可愛いらしい後任の元店員のAさんや常連逹と共に、深夜零時に「解禁」のボジョレー・ヌーボーをクラッカーと共に開け、皆で乾杯したが、その直後ふと時計を見ると、時計の針は未だ11時過ぎを指していた様な気がしたが、単に酷い時差ボケのせいだろう(笑)。

筆者と共に食べ続ける、グルメな顧客逹や友人逹…そう、丹下や黒川は確かに正しかった。

「メタボ」はこの街で、ワタクシに因って「増殖」する運命(さだめ)に有るのだから(笑)。