「南蛮」の夢と妄想。

天皇陛下の御容態を、甚だ心配している。

入院以来、未だ39度の熱が下がらず、退院の目処も立たないとの事。大事が無ければ良いがと心から思うが、今年は剰りにも大きな事が起きすぎた…陛下の1日も早いご回復を御祈りしたい。

さて日本での初日は、時差ボケの「朝4時」から始まった(涙)。

未だ「アッメーリカ!」な胃は、早朝だと云うのに狂った様に食べ物を欲しがり、「餓鬼」と化した筆者をコンビニへと走らせる。
腹拵えが出来ると、今度はその朝からの激烈なる食欲に対する「贖罪」の為の散歩に出掛け、暫く歩いた末に神田明神に着くと、町内会らしき老人達が境内に集まっていた。

彼らは丁度、朝のラジオ体操を始めたばかりの様子だったので、勝手にジョインし一緒に体操をする。見馴れぬ筆者の巨躯は、一斉に彼らの注目を集め、「おぉ、何で『ぐっさん』が来とるのか!」と思われ…無かった(笑)。

「ラジオ体操第2」を老人達と終了し部屋に戻ったが、未だ7時前…早起きは三文の得と云うが、この時点で既に相当疲れてしまったのも事実で有る。

そしてその数時間後、来日後最初の訪問先に選んだのは、「月曜開館」が素晴らしいサントリー美術館…現在開催中の、「南蛮美術の光と影:泰西王候騎馬図屏風の謎」展を観る為だ。

そう、震災直後の今年3月のオークションで伝狩野内膳の南蛮屏風一双を、日本絵画としてはークション史上最高額の480万ドルで売った身としては(拙ダイアリー:「世界が求めた『日本美術』」参照)、この展覧会を見逃す訳には行かないので有る。

会場に入ると、既に結構な人が来ていたが、ゆっくりと観る事が可能な程の混み具合で、嬉しい。すると、いきなり神戸市博蔵(以下「K本」)の重文、内膳の南蛮屏風が登場し、注視する事に。

先ずは「構図」。両作品共、マカオらしき空想上の異国からの出船と長崎の港への入船を描く両隻、略同じと云って良い。

次に作品の状態。ウチで扱った作品(以下「C本」)と比べると、これはK本の方が数段宜しい…K本の状態は、1600年前後の絵画としては完璧と云っても過言では無いレヴェルなので有る。

そして絵のクオリティはと云うと、此れは当時下見会等で云われて居た程両作品に差が有るとは、正直殆ど思わなかった。

実際良く観てみると、「親バカ」に思われるかも知れないが(笑)、人物描写や動物の描き方は略同レヴェル…だが「画中画」として登場する、イエズス会の教会に飾られる「イコン」の描き込み等は、K本の方が明らかに素晴らしい。

が、二艘の船のマストや南蛮人の衣装等、C本に多用されていた「盛上」はK本には余り見られず、数有る南蛮屏風の中でもC本にしか見られない、非常に印象的な「白波」の詳細な描き込み等を考えると、その手の込み方からして、C本の方が明らかに「豪華版」と云えると思う。

そして総合的個人的見解を云わせて貰えるならば、K本の方が恐らくC本よりも早い制作年代が想像されるが、「世代」が異なる程の差は無く、美術作品としてのクオリティも殆ど差が無い。

また、K本が重文になっている大きな理由の1つに、内膳の落款印章が入っている事も勿論有るので、作者(工房)がハッキリしていると云う美術史的重要性と云う点では、当然K本の方が高いに決まっているが、新出C本は、何十年に一度巡り会えるや否かのクオリティの作品で有った事は、疑問の余地が無いだろう。
しかし、あの作品がたったの480万ドルとは…買った顧客本人も云っていたが、本当に安い買い物だった様に思う。

「親バカ」話はこれ位にして(笑)、再びサントリー所蔵等の他の南蛮屏風を観ていると、背後から「孫一さん!」と女性の声が掛かり、ビックリ。

振り返ると、其処にはついこの間、村上隆とクリスティーズが開催したチャリティー・オークションで会ったばかりの、ニューヨーク在住I女史の姿が!「異国の地」での偶然の再会で有った。

さてさて、この展覧会の他の出展作品も、勿論素晴らしい!

妙心寺春光院の重文「IHS紋入り銅鐘」、九博蔵のマジ素晴らしい聖龕や、書見台等の螺鈿を多用した南蛮蒔絵、メトロポリタンのサムライ展でも観た、紀州東照宮所蔵の重文「南蛮胴具足」、そして有名な「ザビエル像」等を含む数々の「初期洋風画」の名作の中でも、最も迫力とパンチが有り、一番「欲しいっ!」と思ったのは、やはり「泰西王候騎馬図屏風」、それも特に神戸市博本の方で有った!

現在、四曲一双と四曲一隻と云う具合に仕立て分けられた、この元は対で有った「桃山バワー」全開の逸品屏風に就いては、今回の展覧会図録で様々な研究成果が報告されていて、興味が尽きない。

そして筆者に取っては、特に神戸市博本に描かれた「王」達の方により力強い「動き」が有り、屏風自体の迫力を倍増させていると思うのだ。

また、表具に使われている紋章を象った金具(一説には、旧蔵者の池長孟氏のエンブレムとの説も)も、派手で装飾的、且つ超クールなので有る!

こんな屏風をベルベット・デコレーションされた部屋の壁に掛け、1人孤独にマーラーかバッハでも聴きながら、遠い昔、自分が一度は誰かに愛された事を想い出しつつ、余生を楽しむのもシブイと真剣に思った筆者は、異常だろうか(笑)?

「南蛮」の夢と「妄想」は 、尽きる事が無いので有る。