「『1日』有れば、本当に沢山の事が出来る」。

昨日、日本に来た。

2週間振りに降り立った日本は思ったより寒く、東京に着いて荷を解いた頃には、雪がちらつき始めて居た。

昨日は父が亡くなって丁度ひと月、「9.11」や「3.11」、況してや一個人が此の世から消えても、「時間」は何事も無かった様に刻々と過ぎて行く…そう、全ての「蝋燭」は「時間の問題」なのだから。

そんな人間の「寿命」と「時間」をテーマにした興味深いSF映画を、昨日の日本行きANA009便で観たので、今日はその事を。

その作品とは、2011年度アンドリュー・ニコル脚本・監督作品、ジャスティン・ティンバーレイク主演の「In Time」(邦題「TIME/タイム」)。

監督のニコルは、ジム・キャリー主演の「The Truman Show」や、トム・ハンクスの「The Terminal」等の作品が知られているが、筆者的には何と云っても、大好きな彼のデビュー作「Gattaca」(「ガタカ」)だろう。

この「In Time」は、その「ガタカ」同様、人類誕生以来存在し続ける「富」や「血統」に因る「不平等社会」を、近未来を舞台にする事に因って、現代の「格差社会」に生きる我々に鋭く突き付ける。そしてその映像、セット、衣装等も非常にファッショナブルで、センス抜群な作品なので有る。

時は西暦2161年、人類は寿命を25年と定められ、それ以降は、自分の持つ財産としての「時間」を「貨幣」として使って生き延びて行くしか無くなって居る。そしてそれは、「時間」と云う「富」を持つ者は25歳から年を取る事も無く、若く美しい侭不老不死の「永遠の人生」を楽しみ、貧しき者は自分の「時間」が尽きた時にアッサリと死んで行く、と云う事を意味する。
例えばバスに乗るには「2時間」、高級ホテルに一泊するは「1ヶ月」分の自分の「寿命」を支払い、強盗は他人の「時間」を盗み、銀行は「時間」を蓄え、質屋は高利で「時間」を貸す…そうして「富」としての「時間」は、現代社会に於ける金同様、当然「1%」に集中する事に為るのだ。

そんな中ストーリーは、スラムで生活するジャスティン扮するウィルが、酒場で自滅的行動を取る「富豪」を助けるのだが、富豪はウィルに自分の持つ「116年」と云う時間を与え、自殺してしまう事から始まる。
「時間」を貰い、一瞬にして「富豪」と為ったウィルは、この「時間」格差社会を糺そうと、「富豪」だけが住む事の出来る地域に単身乗り込み、其処で「時間銀行」のオーナーで有る大富豪と知り合う。が、「タイム・キーパー」と呼ばれる警察に逮捕されそうに為ったウィルは、その美しい娘シルヴィアを人質に取り、其処から2人の逃避行が始まるのだが…と云う具合で有る。

ジャスティンはご存知ポップ界のスーパー・スターだが、この作品でのウィル役が非常に合っていて、中々良ろしい。ま、た誘拐される娘シルヴィア役の新進女優アマンダ・サイフリッドも、不思議でキュートな雰囲気と抜群のスタイルが魅力的だ。

そして、センス溢れる建物やインテリア、ファッション等のプロダクション、絶妙のキャスティングの脇役を含めた、男女共にモデルの様に若く美しい俳優逹(この映画には、25歳より上の年齢の人物は、一切登場しないからだ!)も見逃せないが、本作品の「ミソ」はやはり何と云っても脚本とプロットだと思う。

今身近に感じている現代社会問題を、近未来エンターテイメントに置き換えてキチンと描きながらも、後半何度も「タイム・アウト」に為りそうに為るスリル、そして「ボニーとクライド」的(この辺が素晴らしい!)アクション&ロマンスも楽しめる本作は、「ガタカ」と共に筆者に取っての「My favorite S.F. films」の仲間入りを果たした!
最後に、劇中印象に残った台詞が2つ有ったので、それを記して、今日はお仕舞い。

それは、自分の持つ「時間」を与え自殺する富豪が、ウィルに書き置く文字通りの意味での「俺の『時間』を無駄にするなよ」(Don't waste my time)、そしてウィルがシルヴィアに幾度か云う「人は『1日』有れば、本当に沢山の事が出来る」、で有る。

当に正受老人が悟り、弟子の白隱慧鶴に伝えた、「一大事と申すは、今日只今の心也」では無いだろうか。