「黒紋付き」の夜。

あっという間に、「春分の日」も過ぎてしまった。

此処ニューヨークは、連日20度を超える暖かさで、オフィス迄毎朝30分程歩いて通っている筆者の額には時折汗が浮かび、道々の木々もその花を咲かせつつ有る。

そしてワシントンD.C.では、この暖かさでポトマック河畔の桜が早くも満開となってしまい、来月に予定されている「桜植樹100周年」の記念行事の数々の時には、もう葉桜に為ってしまって居るのでは、との危惧も出ている程だ。

が、これは寒けりゃ寒いと文句を云い、暑けりゃ暑いと文句を云う人間の云い分に過ぎ無く、花は咲く時には咲くし、散る時には散るので有る…。

さて、下見会も終盤戦と為り、今回のオークションの目玉商品、「洛中洛外図」や尾形乾山作「銹絵獅子香炉」等のプロモートに勤しむ…オークションでは、出品される200点近くの作品の6-7割が売れて行く訳だが、目玉商品が売れないとやはり困るからだ。

そんな中、一昨日の夜はプラザ・ホテルのボール・ルームで開催された、アジア・ソサエティのベネフィット・ガラ・ディナー「Celebration of Asia Week」にゲル妻と出席。

インヴィテーション中のドレス・コード欄には「Black Tie」と有ったが、「National Festive」「Asian chic」とも並記されていたので、夫婦揃って和服で出席する事に…そう、筆者の出で立ちは「紋付き袴」、しかも「黒紋付き」だったので有る。

筆者がアメリカで「紋付き袴」を着用するのは、これで2回目だが、これは元「能役者」のゲル妻の助け無くしては、決して実現しない。能役者時代、自身略毎日着物や袴を着用していた経験から、正式な紋付き袴を筆者に着付ける時間も、ものの10分と掛からないのだから、忝なさに涙が零れる(笑)。

プラザに着くと、既に着飾った老若男女500人近くが集まっての大賑いで、知り合い達との挨拶頻り。ディナー前にはジャズ・パフォーマンスや、マチュピチュやケンタッキー・ダービー旅行や有名レストランでのエクスクルーシヴ・ディナー、宝飾品等の「ベネフィット・サイレント・オークション」も行われ、場を盛り上げる。

指定されたテーブルに着くと、左隣には有名中国絵画コレクターのR、右隣には某美術館トラスティーのJ、斜め前にはこれも東西海岸の有名美術館からの優秀なるキュレーターのHやC、上海の美人中国人ジャズ・シンガー、そして友人コレクター夫妻のCとR等、楽しくも勉強に為る面子に囲まれた。

そして話題はディナーやオークション、最後に登場したインド系美人DJの事も然る事ながら、紋付き袴の出で立ちの為、筆者も多くの人から質問を受ける立場に。

「この服の素材は何だ?」「どうやって着るのか?」等々…しかし、外国人達が一番関心を示したのは、黒紋付きの胸と背中に白抜きされた「家紋」で有った。

特にヨーロッパ系の人は矢張「エンブレム」に関心が有るらしく、「同じ家紋を持つ、他の家族は居るのか?」「この丸の中の植物は何なのだ?」、また「何故、刀を持って来なかったのか?」(笑)等のジョークも飛び出し(持ってくれば、良かった!:笑)、「黒紋付き」のお陰で「アジアの中の日本人」としての面目躍如の夜と為った。

が、実はもう一点面目躍如な事が有って、それは「Onimasa」(映画「鬼龍院花子の生涯」の英語版タイトル:拙ダイアリー『ONIMASAーA Japanese Godfather』を観た」参照)を観たと云う人に、「You're just looking like Onimasa !」と云われた事で、その事は筆者の結婚式当日、同じく黒紋付き袴を着た今は亡き父と某ホテルの廊下をノッシノッシと歩いていたら、向こうから来る人々が皆壁に背中を張り付けて、我々に道を譲った事を思い出させた(笑)…この手の話には事欠かない筆者の(拙ダイアリー:「孫一、危機一髪の巻」参照)、これこそ面目躍如で有った!

下見会も昨日で終了し、今日は午後から愈々オークション本番。

昨日入って来た、気の重い数々の「悪いニュース」を払拭出来るや否や…で有る。