完璧なる「前衛」の為の、6ヶ月間。

昨日、20度も有る日本に来た。

が、東京の家に着いた途端のニュースで、再び福島第一での海への汚染水漏れを知った…しかし「こんな事」も管理できない連中に、本当に「再稼働」させて良いのだろうか。

しつこい様だが、これを自殺行為、いや「他殺的行為」と呼ばずに、何と呼べば良いのだろう?…原発再稼働を許す、野田首相始めとする政治家や東電関係者は皆、或る意味殺人未遂と殺人教唆共謀罪で有る。

こんな「自殺的」母国に、筆者はこれで今年に為ってから4度目の来日…毎月ニューヨーク⇔日本便に乗っている訳だが、その度に12、3時間を過ごす機内で観る映画は、筆者に取って大変貴重な示唆を含む場合の有る、貴重なメディアだ。
そんな訳で今日は、昨日乗ったNH009便で観た、或るドキュメント作品の事を記そう。

さて数年前、筆者の友人のジュエリー・デザイナーが、マンハッタンの街角で或る男性に声を掛けられた。
その男性は、友人が偶々着ていたTシャツを見て声を掛けて来たらしいのだが、話をしてみると、その男性はフレンチのシェフだったそうだ。

そして友人と彼とで、そのTシャツに「名前」がプリントされていた或る「レストラン」に関して立ち話をしていたら、途中で何故か筆者の話になり、お互いが「Oh my god, you know Magoichi as well !?」と盛り上がったらしい。

後で聞くと、その男性とは筆者の「食い倒れ友達」で、ユニオン・スクエアに在る筆者の愛するレストラン「Tocqueville」のオーナー・シェフのマルコ、そして友人のTシャツにプリントされたレストラン名とは、「EL BULLI」で有った。
少しでも料理に興味の有る人ならば、「エル・ブリ」の名前位は聞いた事が有るに違いない…そう、革命的シュフ、フェラン・アドリアの「世界で最も予約の取れないレストラン」の事で有る。

バルセロナから車で約2時間、カタルーニャ地方ロセスのカラ・モンジョイと呼ばれる入り江に在る、たった45席しか無いこの三つ星レストランには、何と年間200万件の予約が殺到する。

そしてこのドキュメントは、それまで4月頭から秋迄だった年間の営業期間を、初めて7月からに変え、冬をピークに置いた営業にする為の、準備期間の「6ヶ月」間を取材する。

閉店中、アトリエではフェランを始めとするスタッフが、柚子や梅干等の日本の食材や特別な茸類、オブラートや氷、魚や牛の特殊な部位を使用したり、「真空調理法」や「液体窒素」等の科学的調理法をも用いたりして、「新作料理」の開発に苦心する。

しかし、その苦悩を伴う創作の究極的目的は、飽く迄も「客を驚かす」事と「前衛的で有り続ける」事にこだわり続ける事…此処にこそ、単なる料理人に留まらない、フェランのアーティスト性が有るのだ。

そして、このドキュメンタリー中で観る事の出来る、フェランや「クリエイティヴ担当」のフェランの右腕オリオールに拠る、新料理開発途中の試行錯誤や喜怒哀楽、終には新メニューが出来て7月に開店するその瞬間等は、当に「芸術の誕生」と呼ぶに相応しい!

「完璧なる前衛」料理を創造する為の、この6ヶ月間こそが「エル・ブリ」の世界的「名声」の原点で有るのだと云う事を確認出来た、非常に示唆的な一作であった。