「屋久杉」と「桜」の現代茶会。

成田に着いた翌日の金曜は、早朝何とかベッドから這い起き、新幹線で出張に出る。

新幹線を降り、ローカル私鉄の特急に乗り替え、迎えの車で小一時間走ると、やっと顧客宅に着く。

其処でふと時計を見ると、成田に着いてから未だ19時間しか経って居ない事に極度の疲労を覚えるが、無理矢理「思わず遠くに来たもんだ」と口ずさみ、「海援隊」の気分でそれを誤魔化した(笑)。

そんな努力の甲斐が有ったのか、一泊の予定で行ったこの過酷な仕事も何故か1日で終わり、終電に近い「のぞみ」で東京に帰り着いて、今回の日本でのこの超ハードな1週間がスタートしたので有った。

快晴の中、家の近所の千鳥ヶ淵が花見客でごった返した昨日は、夕方からコンテンポラリーな茶会へお呼ばれ…写真家上田義彦氏が、現在ご自身の展覧会「Materia」を開催中している(拙ダイアリー:「『落下する水』と『Materia』、或いは『命』への讃歌」参照)、まるでニューヨークのチェルシーに在る様な巨大空間、「ギャラリー916」で開く「実験的茶会」で有る。

ギャラリーに着くと、先ずは室町水墨の掛かる待合的空間で、今回のお茶会のホストの上田氏と奥様の桐島かれんさん、そのご妹弟のノエルさんやローランド氏夫妻にご挨拶。

次々に集まって来た今回の茶会のゲスト達はと云うと、上田氏とこのギャラリーを共催している、京都造形芸術大教授の後藤繁雄氏を始め、クリエイティブ・ディレクターの永井一史氏や水口克夫氏、デザイナーの原研哉氏と佐藤卓氏、ファッション・プロデューサーの八巻多鶴子さんや「青草か」の数奇者永坂早苗さん等の、非常に「クリエイティブ」な方々で有った。

そして席を持つのは、武者小路千家の千宗屋若宗匠…この面子とこの空間、何とも楽しみでは無いか!

昨日4月8日は「花祭り」だった事も有って、上田氏の屋久杉を撮った作品「マテリア」が並ぶギャラリーの正面奥には、若宗匠に拠る牡丹が活けられた水盤に誕生仏が祀られ、2組に別れた客達が皆で鑑賞する。

そして左へググッと折れると、上田作品を床に見立て、若宗匠考案の立礼台「天遊卓」が斜めに置かれていた、ホワイト・ウォールの高い天井にも非常に収まりが良い。

そして、そろそろとお茶が始まった。

名古屋から到来の桜餅を頂き、茶を呑み干すと「溜まり」から桜の花弁文様が現れる彫三島や赤楽、ルーシー・リー等の各碗で美味しいお茶を頂く。

茶入も、この日にピッタリな黒漆地に螺鈿の桜の花弁が舞うデザインだったが、会が進むに連れてギャラリーの窓から射し込む西日が影を作り、上田氏の撮った屋久杉が、まるで実際に沈む太陽を見守る様に色を変え、息を呑む程美しい…。
巨大な茶室と化したコンクリート・ホワイト・ウォールのギャラリーの内外が、「屋久杉」と「桜」に彩られ都会のオアシスと変貌した、素晴らしい茶会と為った。

茶会後は場所を中華料理店に場所を移し、皆でディナー…アートや広告等、色々な話題が飛び交う食事会を楽しむ。話して居る内に出席者との色々なご縁が分かり、「やはりお茶はご縁だなぁ…」と感慨を新たにした。

帰りには若宗匠の所で、お茶をもう一服頂き、四方山話に花を咲かせた…が、「夜桜でも観に行きますか!」となり、2人で夜の千鳥ヶ淵へ。

お濠越しに見る皇居の森の上には、月がポッカリと浮き、桜の木のくねくねとした枝々と、怖い程満開の花の合間から観る月は、まるで若冲の絵画の様。

そして、お濠の両側からせり出す桜樹と風に舞うその花びら、水面に映った「月影」は剰りに美しく、当に都会の「幽玄」…まるで、この日の1日を物語って居るかの様で有った。