日々の癒し。

今回の日本での仕事はスロー…作品が余り見付からず、焦りが募る。

そんな時に筆者を癒してくれるのは、前回記した「食」もそうだが、忘れて為らないのが「音楽」と「書物」の存在で有る。

さて筆者は、何時も本を「併読」している…そこで、今筆者を癒してくれている書物達を紹介しよう。

先ずは島田雅彦の新作「英雄はそこにいる」(集英社)。

このスピード感溢れる「探偵小説」は、悪役が魅力満点。しかしこの作品の問題点は、そのスピードと個性から、併読中の他の作品に余りに戻り辛い事だろうか(笑)。

併読中の2冊目は、高橋悠治著「カフカ 夜の時間 メモ・ランダム」(みすず書房)。

本作は1989年に出版された作品に、「カフカ・ノート2」を加えて2011年に再版されたモノだが、後で記す「音楽」とも非常に相性が良く、癒し効果抜群。

もう1冊は、藤森照信著「藤森照信の茶室学」(六耀社)。

此方は未だ読み始めたばかりだが、赤瀬川原平氏の「ニラハウス」や細川護煕氏の「一夜亭」、また「高過庵」等を設計した、「お茶知らず」な著者の茶室観、巻末には磯崎新との茶室対談も有るので、これから読み進むのが楽しみな1冊だ。

そして読書中には欠かせない、最近癒され捲りの音楽はと云えば、フィリップ・グラスの「Glassworks」や高橋悠治のピアノに拠る「クセナキス/メシアン:ピアノ作品集」、そしてブーレーズの「Mémoriale/Dérive 1&2」と云った所か…。

また映画を観てから購入した、坂本龍一の「一命」と渋谷慶一郎「はじまりの記憶」のサウンド・トラック2枚も、最近大のお気に入り。

特に「一命」は、坂本が「三響会」(能楽大鼓方葛野流亀井広忠、歌舞伎囃子方山田流宗家山田傳左衛門、歌舞伎囃子方田中傳次郎の三兄弟)を起用し、しかしその「和」をほんの微かに聞こえる程に押さえてフィーチャーした匙加減が、誠に素晴らしい。

坂本氏はゲル妻とのパフォーマンスの時も、「音楽に『ドラマ性』を持たせる事に、かなり興味が有る」と仰有っていたが、このアルバムは嘗て武満徹を映画音楽に向かわせたのと同じ様に、その「可能性の追究」をひしひしと感じる作品と為っている。

音楽と書物。

原発等無くても平気だが、芸術だけは無くては生きて行けない…それが筆者に取っての、大切な日々の「癒し」なのだから。