Absolutely Stormy !

いやはや、カタログ編集が終わった直後程、リラックスする週末も無い。

そんな土曜日の夜は、先日日本で友人に紹介され、2日前にニューヨークに来て住み始めたばかりと云うメイク・アップ・アーティストのAさんと会う事に為ったので、今中国で高層ビル建て捲くりの建築家K君を呼んで、クサマヨイと4人で「B」でディナー。

そして翌日の日曜はと云うと、昼間から我々地獄夫妻はテレビの天気予報を小まめにチェックしながら、いそいそと「夜の準備」をして居たので有った。

それはこの晩、友人の現代美術家インゴ・ギュンターの招待で、彼のボート「アクアホリック号」でのクルーズ・パーティーに行く事に為って居たからで、事の次いでに「1週間経っちゃったけど、お互いのバースデー(筆者は30日、インゴは31日)も祝っちゃおうか」と云う話に為ったからだ。

其処で思い出すのは、何と云っても去年の事(拙ダイアリー:「嵐の中の、『102歳のバースデー・パーティー』@Aquaholic号」参照)。あの日も「嵐」だったが、今年も「ストーム」の予報とは…このドイツ人と日本人のコンビは、さぞかし日頃の行いが良いのだろう(笑)。

船の定員も有るので、お互いにアート系の友人数人を招き、文字通り「雲行きの怪しい」曇天の下、夕方6時前にPier 40に集合…そしてアクアホリック号は「嵐の前の静けさ」の中、出航した。

自由の女神」に向けてインゴが舵を切るアクアホリック号の船首には、筆者を始め「こりゃあ、ゴキゲンだ!」と何とも懐かしい、だが今は誰も使わない「'70年代的死語フレーズ」を連発した(笑)アーティストI氏夫妻や、新任ギャラリー・ディレクターのT女史等が座り込んで、最初は余裕で頬を撫でる涼風を楽しんでいたが、西の方から雲が徐々に厚みを増すと風も強まり、それに因ってハドソン河は白波が立つ程にうねり始め、アクアホリック号のバウ(船首)が波に突っ込み始めると、我々は海水の混じったハドソン河の水を頭から全身に浴び、ずぶ濡れに為ってしまった。

そんな中、クサマヨイからバースデー・プレゼントに貰った「ピンク」のシャツも「深紅」に変わって仕舞い、文字通り「水も滴るイイ男」に為った筆者始め男性陣がそそくさとキャビンに戻ったのに対し、船首に残った女性陣は、その後も荒れ狂う波を満喫…ニューヨークの逞しき女性陣恐るべし、で有る。

さて、上下左右に酷く揺れながらも、やっと「自由の女神」周辺にアンカーを下ろしたアクアホリック号だったが、静かに停泊出来たのも束の間、雨は激しさを増し、見えていたマンハッタンの夜景も、そして直ぐ其処の「自由の女神」すらも全く見えなくなる程、空は見る見る内に真っ黒に為り、我々は「恐怖の時間」を迎える事に為った。

叩きつける様に激しく降る雨と、ビュービューと唸る風。そして時折稲妻が走る真暗闇の中、木の葉の様に揺れる船体…前年同様、乗る前から既に具合の悪そうだったアーティストM君や、日頃良く喋るのにまるで能面の様に表情が動かない女優Rさん、翌朝日本に帰る予定の時差ボケ能役者Kさん等、軋む船体と落雷の音に、思わず柱や手すりにしがみ付く乗客達は、その余りの自然の猛威に緊張し、自然と言葉が少なくなり…そうなモノだが、現実にはその逆で、皆眼は恐怖に怯えるが故に饒舌に為り、そのお陰で気分の悪かった人達に取っては、船酔い退治の効果も有ったらしい。

が、こんな時に皆が思い出すのは、拠りに拠って映画の「パーフェクト・ストーム」や「タイタニック」(笑)…これではまるで、嘗て筆者が「機内」で見た「Apollo 13」や「United 93」的状況では無いか…世の中には、その時こそ思い出したり観たりしてはいけないモノが有ると云うのに、一体何たる事だ(笑)。

乗客全員、家に帰れるのは1ヵ月後か、はたまた帰る事叶わずか…と覚悟をしていたが、しかし「八甲田山」では無いが(ウ〜ム、極めて古い:笑)、天は我等を見放しては居なかった!嵐の真っ只中に入ってから、20分程過ぎた頃で有ろうか…西の空に居座って居た厚い雲は徐々に薄く為り始め、その空に美しい夕焼けを見せ始めた。

そして未だ暗い空では有ったが、雨はその力を弱め、少しずつ暗闇が引き始めると、徐々に灯りを点したマンハッタンの摩天楼が姿を現し始め、自由の女神のトーチもその赤い炎をクッキリと浮かび上がらせたので有る。

一気に安心した乗客達は「今だっ!」とばかりに、揺れの落ち着いた船内でワインが酌み交し始め、さっき迄暴風雨にさらされていたとは信じられない位に静かに為ったハドソン河を独り占めしながら、涼しくなった海風に体を委ねる(後で聞いたら、平静を装っていたキャプテン・インゴも、実はシャレに為らんと焦って居たらしい…何てこった!:汗)。

そして巨大なバースデー・ケーキが運ばれると、インゴと筆者の「独日連合軍」はハッピー・バースデーの大合唱の中、キャンドル代わりに点けられたスモーカー達の「ライターの炎」を、願いを込めて吹き消した。

その後は小雨が降り続いた為に、残念ながら船上バーベキューは中止と為り、頃合を見計って11時頃ピアへと戻る事に。そしてピアに着くと、皆名残を惜しみながら解散…の筈が、そこでこの日は終わらなかったので有る。

スリル満点の航海を終え、ピアを出て歩き始めた我々を待っていたのは、バーベキューを食べなかった為の「空腹感」…皆で協議の上、24時間営業のダイナーか何処かに行こうと云う事に。

しかし候補に挙がった店に行く途中、再び激しい雨に見舞われ、仕方無く其処に在った「チーズ専門店」に雪崩れ込み、10人程居たメンバーの半分は「マカロニ・チーズ」を、そして残りの半分は「バーガー」を注文し、日曜の深夜にこんな高カロリーなモノを食べると云う「犯罪的行為」に及んでしまったので有る!(笑)

結局其処でも、「生温い男」問題等で深夜1時の閉店迄盛り上がって仕舞い、筆者に取っては文字通りの「波乱含み」の1年の幕開けと為った、「笑い」と「友情」そして「カロリー」満載の、嵐の航海の一晩と為りました。

しかし、何で毎年「嵐」なんだろう?(笑)