あれから「11年」…そして、素晴らしき「日本・韓国美術セール」の結果。

「あの日」がやって来ると、また1年が経ったと思う。

毎年9月11日の朝、一機目のアメリカン航空機がワールド・トレード・センターに突っ込んだ時間に行われる「Moment of Silence」(黙祷)と、跡地で遺族が順番に犠牲者達の名前を読み上げる追悼式の場面は、11年前の「昨日」を経験した者に取っては何度も見ても痛ましい。

そしてその「痛み」の質が、年月を経る事に因って変わって来ている事実と、テロ首謀者に対する「リヴェンジ」が行われた事実を、戦慄を以て思わずには居られないのだ。

そんな昨日の「9・11」、筆者担当の「日本・韓国美術オークション」が開催されたのだが、結果から云えば、ロット・ベースでは58%、ヴァリュー・ベースでは何と90%、総額911万6600ドル(約7億2千万円)を売り上げ、大成功を納めた!

満員の会場で開催されたセールのトップ・ロットは、世界最大級の大きさの「李朝染付龍壷」で321万8500ドル(約2億5000万円:エスティメイト・オン・リクエスト)、また高額第2位は「韓国のゴッホ」こと朴壽根作「木と三人の人物」で、60-80万ドルのエスティメイトに対して198万6500ドル(約1億6000万円)で有った。

日本美術での最高額作品は、3位に入った長谷川等仁作の旧明石城襖絵「雪景水禽図」の62万6500ドル(約5000万円:エスティメイトは25-30万ドル)、4位には18世紀の甲冑師明珍式部作の「鯱自在置物」が、6-8万ドルのエスティメイトに対して何と45万8500ドル(約3600万円)、「住吉・厳島神社祭礼図屏風」が39万8500ドル(約3100万円:エスティメイトは15-20万ドル)と、何れもエスティメイトを大きく超えて売却された。

またトップ10リストを見ると、9点が10万ドル以上で売却され、その内日本美術は6点。上記屏風や自在の他にも、某美術館が購入した18世紀の甲冑や小川破笠の漆工作品等が含まれて居り、日本美術各分野で、名品が高額で売却された事が分かる…誠に悦ばしい結果では無いか!

さて注目の「旧明石城襖:二曲三隻屏風」の行き先だが、日本からのビッドも有った物の、結局アメリカに残る事と為った…そしてそのアメリカでの落ち着き先はと云うと、残りの襖絵を持つ美術館ではなく、個人コレクターの元と為ったので有る。

今回売却された「三隻」は、嘗てその内の「二隻」がフランスに、そして「一隻」がアメリカに各々37年間に渡り滞在した後、1996年にニューヨークで再会を果たし、日本に16年間「里帰り」した末に再び「流失」、今またアメリカにその居を移す事と為った訳だ。

まるで「誰かさん」の人生を見る様だが(笑)、「襖」としての作品誕生からの400年に及ぶ歴史の中で、紙作品で有るにも係わらず、明石城の火災に始まり、地震を初めとする数々の天災や戦争を乗り越え、体裁を変え海を超えて生き延びて来た本作品の美しさは、その存在その物への敬意を無くしては語れない。

「流失」は「消失」とは違う…美術品が「消失しない事」の大切さを再認識させられた、素晴らしいオークションでした!