「善き言葉」、「佳き話」と「良き食事」、そして「よきセール」?

最近、小説家平野啓一郎氏がTwitterリツイートしていた素晴らしい「言葉」が有る。

「思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。」By マザー・テレサ

何と的を得た、厳しい言葉なのだろう!…そう、誤った思考は誤った言葉を生み、誤った言葉は誤った行動を生む。その誤った行動は誤った習慣を、誤った習慣は誤った性格を、そして誤った性格は誤った運命を生むのだ。

そして、「私」のたった一瞬の誤った思考は、例えば世界を滅亡させる程のポテンシャリティを持つ、と云う事だろう。

況してや人の思考や言葉は一人歩きをするし、自分の運命を誤らせるだけならいざ知らず、他人のそれ迄を誤らせる可能性が何時も有ると云う事を、胆に命じなければならない。

今後、我が家に飾られている某作家作のポートレイト作品(実はその作品のモデルは「ジョージア・オキーフ」なのだが、今でも何人かは「マザー・テレサ」だと思い込んでいる:笑)を見る度に思い出さざるを得ない、流石マザー・テレサの「善き言葉」だ。

さて下見会、で有る。

土曜日は、朝からの大雨と「Lobor Day Parade」の道路閉鎖で静かな午前中だったが、昼前から「M.V.I.P.(最重要顧客)」達が続々と来場し、嬉しい悲鳴を上げた。

結局この日は一日中、個人コレクターが夫婦で来たり、大物コレクターの代理人としてのディーラー達やアドヴァイザーとしての学者達、そして美術館迄が一編に来場し、全く気の抜けない1日と為ったのだが、そんな中、ランチを共にした女性顧客から、心休まる一寸「良い話」を聞いた。

それは何年も前、彼女がロンドンに仕事で行ったときの事…彼女は友人にアスコットの「Ladies' Day」に誘われたそうだ。

競馬等全く経験が無かった彼女も、テレビや雑誌で女王や上流階級の女性達が正装して着飾り、大きな帽子を被って見物する事だけは知っていたので、自分も一寸贅沢をしようと、綺麗で大きな帽子をハロッズで買い、友人とアスコットに出掛けた。

アスコットのパドックでは、大きなサングラスを掛けた当時未だ存命だった皇太后や、ピンクの大きな帽子を被った女王を間近に見たり、女王所有の馬に賭けたりして、彼女はその夢の様な1日を満喫したらしい。

話はそんな「夢」から「現実」に戻る、そう彼女がアメリカに戻る日の、ヒースロー空港ブリティッシュ・エアウェイズのカウンターでの事。

何時もエコノミー・クラスに乗る彼女は、毎回必ず同じ番号の席に座るのだが、この日は残念ながらその席が既に塞がっていた。落胆した彼女は気を取り直し、どの席にしようか考え始めたが、ふと手荷物で持ち込もうと思っていた「帽子」の事を思い出した。

「こんな大きな帽子、機内に持ち込めるかしら?」

彼女は、別の席を探していた女性係員に、大きな帽子の入った箱を見せて、そう尋ねた。

すると大きな帽子の箱を見た係員は、彼女に目を戻すとニッコリと微笑んで、然り気無く云ったそうだ。

"Well, I now think that you should fly with "business class !"

帽子のお陰でアップ・グレードされた彼女は、大きな帽子を大事に抱えて家に戻り、帰りの機内をも含めたその時のロンドン滞在を、今でも大事な思い出として記憶しているとの事…何とも「英国的な」佳い話では無いか!? 

さてさて、忙しく神経がささくれ立ちがちな下見会中に、こんな心安らぐ話を聞いた晩は、現在コロンバス・サークルでインスタレーションを「建設中」のアーティスト、達さんとコウスケ夫妻&ハナ、クサマヨイを交えて、チェルシーの行き付け「B」で遅いディナー。

ファッション・ウィークと云う事も有って、今が旬な有名デザイナー、トム・ブラウンやモデルらしき女の子の姿も有った「B」は、相変わらずの大混雑だったが、筆者はこれも相変わらず超ウマの「雲丹のガーリック・オイル・パスタ」(「ハーフ・サイズ」ですから…念の為:笑)とシンプルな「チリアン・シーバスの網塩焼・焼野菜添え」を、皆はカラブリア・ワインと「ツナ・タルタル」、鶉や鴨、「飛び子」や「イカスミ」のパスタ等の「良き食事」を楽しんだ。

そして昨日は、マシューの「厳島住吉祭礼図」に関するレクチャー、そしてレセプションも無事終わり、夜は元MET学芸員のW女史、某国立博物館学芸員のKさん、老舗古美術店店主のS氏との食事と、後でマシューも加わって夜中まで続いた、これまたファッション関係者で賑わう「バワリー・ホテル」での飲み会も楽しんだが、肝心のオークションは、愈々明日。

筆者に後必要なのは「よきセール」だけだが(笑)、歴史と共に、明石城(1618-1628)→東京(19世紀末-1959)→パリ&アメリカ某所(-1996)→ニューヨーク(1996)→日本(-2012)→ニューヨーク(現在)と流転してきた、長谷川等仁作「雪景水禽図」(旧明石城襖絵:二曲屏風三隻)は、今度は一体何処に行くのだろう?

期待と不安に苛まれる下見会も、後1日で有る。