外国人に拠る「冷え寂び」の極致。

オークションも終わり、ビジネスも少しスローには為ったが、アフター・セールやプライヴェート・セールで、バタバタしている今日この頃。

そんな昨日のニューヨークは、トルネードの所為で久々の暴風雨…詰まり読書に最適な夜だった訳だが、最近手に入れた、そんな夜のお供に相応しい2冊のお気に入りの写真集が有るので、今日はそれ等を紹介しよう。

先ず1冊目は「Living in Style New York」(Henrichemont:teNeues, 2010)と題された、インテリア写真集。

正直云って、筆者はそれ程インテリアに興味が有る訳では無い。なのに思わず買ってしまったのは、英・仏・独・伊・西の5ヶ国語でのキャプションの付いたこの写真集に掲載されて居る、ニューヨークの高級アパートメントに飾られた「アート」の所為で有った。

それはニューヨークで日本美術を売る者として、「ロフトやハイ・シーリング・アパートメントに、日本美術を如何にフィットさせるか?」と云う、非常に重要な課題を胸に秘めて居るからで、それ故インテリア・デコレーターの顧客も多い訳だが、日々そのプロモートの仕方を試行錯誤しているのだ。

さて、本写真集に選抜されたアパートメントは、アッパー・イースト&ウエスト・サイド、ハーレム、グラマシー、チェルシー、ソーホー、ガーメント・ディストリクト等各地域から選ばれ、ミニマルから過剰装飾された部屋迄、見ていて飽きない。

そして掲載アパートメントに登場する、現代美術ならばウォーホルやリキテンスタイン、ブリジット・ワイリーやルイーズ・ブルジョア、ゴームリーやダグラス・ゴードン、近代美術ならピカソデュシャンイヴ・クライン、更にビザンティンのモザイクや中国陶磁器、古代ローマ石像やトライバル・アート、そして無名作家の作品をも含めての数々の美術品を眺める事に因って(コーディネイトの良し悪しは常に有るが)、アートと云う物が如何にニューヨークの人々の生活に溶け込んでいるかを知る事が出来る。

掲載アパートメント中、マリーナ・アブラモヴィッチの、映画(拙ダイアリー:「アブラモヴィッチの『レゾン・デートル』」参照)にも出て来たミニマルなソーホーのアパートメントや、彼女のギャラリスト、ショーン・ケリーのそれは別格としても、先ず個人的に注目したのは、匿名の「Skyline Views」アパートメント。

部屋自体は、イースト・リヴァーを見下ろす良く有るタイプの高層アパートメントだが、その窓際に有るのは、巨大な窓から見渡す天空に、恰も浮かんで居るかの様に見せる為に作られた、アクリルの台に置かれた古代ローマ彫刻のトルソ…そしてリビングやダイニングの壁には、現代彫刻と共に飾られる誠に素晴らしい「ビザンチン・モザイク」…この部屋のオーナーは、何と趣味が良いのだろう!

そして筆者が注目したもう1軒は、「Gramacy Park Treasure」アパートメント。

グラマシー・パークを見下ろすアパートメントのリビングの壁には、フラットに貼られた金地の「藤袴図屏風」、またガンダーラ仏と共にダイニングに飾られた「波濤に烏図襖」と縄文土器、そして廊下のローマ彫刻とこちらも金地の「群馬図屏風」とのコーディネイション迄、これからの若い日本人にも見せたい、日本美術をインテリアとして楽しむ好例で有る。

今回の下見会でも、桃山の「鼓胴」をアクリル台に載せて浮かせて見せたり、ホワイト・ウォールに襖を貼り付けて、その隣にポツネンと木造仏像立像を置いたりして「現代空間」的展示に努力したが、この「日本美術のインテリア・コーディネイション」は、これから筆者が強くプロモートして行きたい一分野なのだ。

多くの若い日本人は、未だ「アートと暮らす楽しみ」、そして自分で「インテリア・コーディネイトする楽しみ」を知らない…何方か、書籍か何かで一緒に企画しませんか?

さて2冊目は、何しろ物凄い「これでもか」の写真集。

アート・ディーラー且つコレクターで有り、多くの修復家やデザイナーを抱え、リアル・エステイトも手掛ける「総合アート・カンパニー」の長、Axel Vervoordtに拠る、何と「侘び」をテーマにした作品写真集「Wabi Insperations」(Paris:Flammarion, 2010)で有る。

しかしこの本は、凄過ぎる!もう冒頭から最後迄、「外人(ベルギー人)が、此処まで徹底するのか!」と唸る程の「冷え寂び」…しかも所謂日本の「侘び寂び」では無く、彼自身の持つ思想的・地理的原景を元に再構築された、観る者其処に居る者に冷徹な迄に沈黙を迫る彼の「Wabi」が、これでもかと徹底的に迫って来るのだ。

本作の中に登場する、著者の家に飾られるアートも見応え十分で、モノクロームの白髪一雄から始まり、ピカソバスキア、トォンブリ、カプーアやロスコ、フォンタナ、マンゾーニ、そして当代楽吉左衛門や辻村史朗、李朝白磁壺迄、その徹底した「冷え枯れ」空間の為に厳選された作品ばかり。

そして僧院の様な家屋も、真に素晴らしいデザインなのだが、ワタクシにはきっと住めない…下らない冗談等、発するのが躊躇われる程に鋭く「冷え寂び」ているからで、こんな精神性の高い家に住んだら、日々下らん事しか考えていない筆者等「激鬱」に為るのが関の山だからだ(笑)。

最後に、文中に記される老子アインシュタイン吉田兼好吉原治良フランク・ロイド・ライトプラトー等の、著者をインスパイアした名言の数々の中から、著者の「Wabi」精神を端的に表現しているこの言葉で、今日はお仕舞いにしよう。


"Every something is an echo of nothing."  by John Cage