アンティーク・フェアで観た、白髪一雄と杉本博司、そして青木克世。

先ずは告知から。

明日10月24日(水)午後6時半より、ニューヨーク日本クラブにおいて、現在コロンバス・サークルで絶賛公開中のパブリック・アート「Discovering Columbus」のアーティスト、西野達さんの講演会が催されます。筆者もモデレーター兼ゲスト・スピーカーで登場しますので、是非ご来場下さい。詳しくは日本クラブ(→http://www.nipponclub.org/upcomingevents.php#386)迄。

さて、大統領選も後10日余り…昨晩はオバマロムニーの、最後のディベートをテレビで見た。

細かい所はさて置き、強く感じた点が2つ有った…それは先ず、オバマが如何に辛抱強い人間かと云う事だ。

思い返せば、彼がアフリカン・アメリカンとして初の大統領に為って以来、この4年間は試練の連続だったろうと思う。そして、何故昨晩のディベートでそう強く感じたかと云うと、オバマ疲労の色が余りに濃かったからで、彼の顔や全身から漂う強い疲労感の出処は、彼が米国大統領として費やした4年間と云う時間で有り、ロムニーに拠る、その4年間に対する終わりの無い批判で有ろうと思う。

何回かのディベートを見ながら、オバマロムニーに対して「…なら、お前がやってみろ!」と何度云いたかっただろうか、と思う…経験せずに批判する方が当然容易だからだが、それにしてもオバマは我慢強い男だと感じた。

そして2つ目は、両者が国民に対して行った「ラスト・スピーチ」で有る。

これは、明らかにロムニーのスピーチの方が、如何にも「覚えて来ました」的にスラスラと澱みがなかったのに対し、オバマのスピーチの方がそうで無かった分、筆者には「本気な感じ」を与えたのだが、何れにしても、日本の総理大臣にも「任期」を設けて、ヴィジョンを明確にさせ、一定期間完全責任を負わせ、任期を全うした時点で評価する、と云うシステムを早急に導入する必要が有る、と感じた事だ。

そうすれば選ぶ側の国民も、例えば4年なら4年その人物に国を託さねば為らなくなるのだから、もっと慎重に自国のリーダーを選ぶと思うし、選ぶ責任も感じるのでは無いか。

何れにしても、彼らのメッセージ性の高い、断固としたスピーチを聞いていると、熟く日本の政治家等「何か有ったら、辞めりゃ良い」と云った、「全く無責任な『責任の取り方』」しか取れない輩ばかりだと思う…本当に情け無いったら有りゃしない(怒)。

現在、支持率47%対47%で五分の2人…一時も目が離せない大統領選になる事だけは、確かだろう。

では本題…ニューヨークの アートの秋も本番、昨日はパーク・アヴェニュー・アーモリーで開催中の「The International Fine Art & Antique Dealers Show」を観に行った。

このフェアでは、例えばエジプト、ローマ・ギリシャの古代美術から、キリスト教美術、オールド・マスターや印象派絵画、アフリカンやトライヴァル・アート、そして極く僅かだが日本や中国美術を含めたアンティークを扱うディーラーが、自らの専門分野のアンティーク作品や、「自分の眼で選んだ」現代美術作品を展示販売する。

しかし出展しているディーラー達は、何れもその道では一流なので、モノも中々に素晴らしいのだが、会場には「俺は一流なんだぜ」的なスノッブな臭いも立ち込めて居て、余り長居したくない様な雰囲気が有るのも正直否めない(笑)。

さて、そんなフェアでの筆者のお目当ては、先ずは何しろ「Axel Vervoordt」のブースで有った。

先日此処でも記したが(拙ダイアリー:「外国人による『冷え寂び』の極致」参照)、このAxelと云う人の趣味は本当にシブい。今回の展示でも、ソファや本棚が置かれた書斎風のブースに、エジプトやギリシャ、ローマの古代美術、そして「Shungongoshin」と題された、かなりクオリティの高い白髪一雄の作品を観る事が出来る。

また彼のブースから一歩外に出ると、その白の外壁には杉本博司の「放電場」シリーズの大作が掛かり、相変わらず「モノトーン」を基調とした「Axel好み」とでも云うべき、妥協の無い展示が楽しめた。

「Axel Vervoordt」を後にし、世界各国から集まった家具や宝石、カーペットやアール・ヌーヴォー&デコ、近代絵画や彫刻ギャラリー・ブースを、ブラブラと観て歩く。すると、或るブースの前で可愛らしい小品が眼に留まり、筆者の足を止めさせた…そしてそれは非常に長い角を持った、見るからに木彫を漆で仕上げた小さな座った牡鹿で、まるで日本の春日「神鹿」の様…その上、状態も非常に良い様に見える。

ブースの他の辺りを見渡すと、このギャラリーはローマ時代の物を多く扱って居る様だったが、「これは一体何処の国のモノだろう…?」と首を傾げていたら、店の人間が寄って来て云うには、何と中国は戦国時代の物だと云う。

戦国時代の木彫漆の作品で、こんなに状態の良い物が存在するのには驚いたが、云われてみれば日本のモノとは異なっているし、アジアの物と云われればそう云う気もするが、何しろ作行きが誠に素晴らしい。ぶっちゃけ「欲しいっ!」と思ったが、怖くて値段は聞けなかった…(笑)。

後ろ髪を引かれつつも「鹿」を後にし、再び歩き始めると、今度は「白い作品」で埋め尽くされた、非常に装飾的な展示のブースを発見。

サイン・ボードを見ると、このブースはご当地ニューヨークはブリーカー・ストリートに在る「Todd Merrill & Associates」と云うギャラリーだったが(初めて知った)、此処に展示されていたのは、筆者には馴染みの在る「白陶製髑髏」と「白陶製壁面インスタレーション」…現代美術家、青木克世の作品達で有った。

展示されていたのは、「Predictive Dream」(髑髏)シリーズからの2点、そして「Labylinth」(壁面)と云う作品だったが、こう云った世界のトップ・ディーラーやコレクターが来るで有ろうショウで、彼女の作品がフィーチャーされるのは、個人的に非常に嬉しい。

嘗て一度、外国人顧客に「Predictive Dream」を探す様に頼まれ、彼女の作品を求めて「レントゲン」の池内氏を訪れた事も有ったが、その時は残念ながら作品が無かった…が、この青木克世と云う作家の作品は、こう云った海外での「ハイ・ブロウ・デコラティヴ」な世界でも充分通用すると思うので、将来が非常に楽しみで有る(日本では、こう云う事を云われても嬉しく無いかも知れないが、此方では「アートと暮らす」と云う意味で、現代美術家に取ってもこの「デコラティヴ」マーケットは、甚だ重要なのだ)。

そして、白髪一雄と杉本博司、青木克世…この3人の日本人戦後・現代美術作家を、世界のトップ・ファイン・アート&アンティーク・ディーラーの「眼」が選んだと云う事実は、一考に値すると思う。

それは、「世界のアート・マーケットの大部分を、現代美術『以外』の『過去のアート』が占めて居る」事実、そして「現代美術は、ほんの数十年で『現代美術では無くなる』」と云う事実を踏まえれば、アンティーク・デイーラーの現代美術に対する「眼」を、決して侮れる事は出来ないからだ。

そしてそれは、例えば杉本博司が嘗て古美術商で有った事や、また先日東京国立近代美術館で開催された「ポロック展」で、唯一日本の個人から出品された作品が、某目利き「古美術商」の所蔵品だった事、指定品を多く所蔵する京都の細見美術館の館長が、嘗て現代美術画廊を経営していた時に村上隆の展覧会を開催したり、リキテンスタインの大名品を都現美に入れた事等を知れば(当時は「マンガの様な絵を、こんな高額で!」と批判されたが、今ではその5倍払っても買えない)、何と無く理解されるのでは無いかと思う。

一流の古美術作品を見ている人は、「どんな古い時代の作品も、制作された時は『現代美術』で有った」と云う感覚で作品を見る。そして何十年、何百年、はたまた何千年経っても、その「普遍的現代性」を失わない作品だから、現在迄様々な淘汰から生き延び、今のアート・マーケットの大部分を賄う程の市場を形成している、と考える。

日本のバブル経済崩壊後、多くの画商が倒産したが、骨董屋が潰れたと云う話は殆ど聞かない…古い物を見て現代美術を見抜く目を磨く事も、これからの美術市場を考えるのに必要な事かも知れない。