アーティスト達との夜、悟りへの道。

先ずは報告から。

一昨日、朝日カルチャー・センター新宿で開催された筆者の講座「渋谷の『白隠』と海を渡った『白隠』」は、多くの受講者の皆さんのお陰で、無事終了した。

今回も大学生から年配の方まで、多くの方が熱心に聴講して下さり、此方も気合が入りました!皆さん、有難うございました!

さて今日の本題。日本到着翌日の金曜は、朝からオフィスで打ち合わせを数本こなし、夜は時差ボケの体を引き摺って、飲み会に参加。

この飲み会は、先日ニューヨークを去ったアーティスト西野達氏が、親しい友人をMさん宅に招いた物で、参加者は達っつぁんとMさん、来日中のコウスケ&アネタ&花、アーティスト加藤泉氏やキュレーター窪田研二氏、ダンサー山崎広太氏を始め、元ヘルツォーク&ド・ムーロンの建築家で現在代官山で事務所を開いているI氏、その他アーティスト、ギャラリー関係者やミュージシャン等、総勢15名。

Mさんの美味しい手料理と皆が持ち寄った料理を楽しみ、絶景の夜景を眺めながらの相変わらずの「達節」と段々「下」に向かう話題の中(笑)、日本・ニューヨーク・ベルリンを繋ぐ人々の爆笑の飲み会は、深夜迄続いた。

そして翌日はと云うと、講座前の酷い緊張を解す為に(実は、筆者は上がり症なのだ…:涙)、先ずは根津美術館に赴き、国宝「那智瀧図」を観る。

この作品は、恐らくは現存する神道絵画の中でも最も重要な物だと思うし、大好きな作品だが、修復後、何か画面が平板に為ってしまった様な気がするのは、気の所為だろうか?しかし何度観ても、離れて観ても、この構図の素晴らしさと有難さは不滅だ。

久々に拝見した「那智瀧図」を観覧し、漸く心を決めると新宿へ。

今回のレクチャーは、筆者がニューヨークで扱った白隠作品凡そ20点や、海外コレクション中の白隠作品、そして出品者やバイヤーの国籍プロファイル、アメリカでの白隠作品所蔵美術館等を紹介しながら、白隠さんの「メディア・アートとしての絵画」が如何に現代の外国人に迄通じ愛されたかを考え、そして白隠さんの言葉を自ら噛み締め自省しながら、何とかレクチャーを終える。

レクチャー後は、「偉そうな事を云ったのでは無いか…」「皆さん、本当に満足して頂けただろうか…」等と不安を抱えながら、今度はその足で恵比寿へ。

実は前日、或る人から「孫一さん、そう云えば明日恵比寿の『MEM』で、平野さんと澤田さんが対談するらしいですよ!」との情報を得ていたからなのだが、作家平野啓一郎氏とアーティスト澤田知子さん、そしてMEMの石田氏は皆旧知の方達なので、これは面白そうだと駆けつけた訳だ。

ナディフ上階のMEMに着くと、先ずは皆さんにご挨拶…そして澤田さんの新作展「Skin」(〜2/24迄)を拝見する。

今回の新作展は、今迄の様に澤田さん自身をフィーチャーした作品では無く、国産ストッキング・メーカーの女子社員達に澤田さん自身が選んだそのメーカーのストッキングを履いて貰い、オフィスで足モデルの様にポーズを取って貰った下半身だけを撮影した(勿論「着衣」ですから、逮捕されません:笑)、新境地を開くシリーズで有る。

色取り取りの、時にはセクシーだったり、時には可愛らしかったりするストッキングに包まれた日本人女性の足は、「ストッキング」と云う日本高度経済成長の証、女性がオフィスでストッキングを履いて働くと云う「近代フェミニズム」、そしてストッキングと足だけで想像されるその女性の個性や、「第二の皮膚」に包まれた生身の女性の足と云うエロティシズムと云った、数々の要素を顕現させる…しかし凄いのは、そのストッキングの選択や足のポージングだけで、「澤田知子作品」と云う事が分かる所だ!

そして、澤田さんや平野氏と談笑していると人が集まり始め、愈々対談がスタート。

対談は「変装」と自己複製のアートで知られる澤田さんと、最近の「分人」著作でも知られる平野氏の共通する「アイデンティティ」に纏わる話を中心に行われたが、興味深い話満載のアッと云う間の1時間。

イヴェント後は打ち上げに乱入させて頂き、皆で楽しい食事…アートから文学、映画、果ては憂国論迄(ヤッパリ…:笑)、ナチュラルな美味しい料理を肴に、最高に楽しい夜を過ごしました!

しかし、家に帰ってもレクチャーで話した「動中工夫勝静中百千億倍」や「一大事申今日只今心也」、そして「上求菩提 下化衆生」と云った文々が頭に渦巻き、「偉そうな事を人様に話しても、俺自身未だ未だでは無いか…」と落ち込み、中々寝付けず困った。

が、一体この俺に何が出来よう?

悟りへの道程は未だ遠いが、唯一出来る事とは、一秒一秒唯本気で生きる事だけで有る。