「来月の覗き見」と「眠らぬ為の美食」。

来日してやっと一週間…相変わらずの時差ボケに悩まされて居る。

しかし、その時差ボケを糾す唯一の方法は、夜極力「人」に会い、極力美味いモノを食べる事だ(笑)。

と云う事で、右翼の街宣車が目に付くだけで、今時誰も祝ったりしない(嘆かわしい…)「建国記念日」の夜は、日本美術史家Y先生、禅僧H住職、現代美術家Nさんのお3方と、霞町に在る行き付けの隠れ家的レストラン「J」でイタリアン・ディナー。

シャンパンやワイン、ボッタルガやイカスミ、雲丹の3種パスタ、旨過ぎる「フィレ・ミラネーゼ」と共に盛り上がった話は、幽霊や現代美術から白隠迄多岐を極めたが、この晩皆が一番感嘆したのは、Y先生が我々に下さろうと取り出した、何種類もの展覧会招待券で膨らみ切った、財布の様なパスで有った。

「あれが全部、お金だったらなぁ…」と思わなくも無いが(笑)、あのパスの膨らみ具合と頂いた招待券の種類、美術館の在る地域等を見ると、如何にY先生が猛烈に活動されているかが分かる…先生には本当にご自愛頂きたい。

その翌朝は、朝から早速日帰り出張して「大・大名品」を再見し、顧客と鰻を食べながらの商談。東京に帰ってからの夜は夜で、モロッコ帰りのかいちゃうと久々にお会いした写真家U氏と3人で、「S」で美味しい季節の和食を堪能。

そして昨日は亡き父の一年祭(仏教で云う処の「一周忌」)の代わりに、母が少人数を招いて開催した昼食会が代官山の「O」で開催され、当然筆者も其処に…こんな食生活では、来週の人間ドックの結果が思いやられると云うモノだ(涙)。

さて、此処からが本題…今日は来月20日に開催される、筆者担当の「日本・韓国美術セール」のスニーク・プレビューをお届けしよう。

その3月のセール、お陰様で日本美術セクションの各ジャンルに名品が集まったが、先ずは最近世界的人気マーケットに為りつつ有り、ロシアや中国にも新規顧客が出て来た「明治美術」から。

「MEIJI」セクションのトップ・ロットで、次回オークションの「カヴァー・ロット」と為ったのは、正阿弥勝義1900年頃の大作「色絵象嵌糸瓜飾金物」(エスティメイト:30万-40万ドル)。

この作品は全長「120cm.」に及ぶ、金・銅・赤銅等を駆使した非常に手の混んだ大作で、糸瓜の葉に隠れた鼠を蛇が狙って居ると云うモティーフの、超絶「吊るし花瓶」で有る。類例は大英博物館と倉敷の安養寺にのみに存在しているので、その貴重性も高い。

また、今回出品される明治の超絶技工作品は決して金工だけでは無く、並河靖之の作品では恐らく最も大きいサイズの1つと思われる「七宝六角蝶藤文瓶」(同:4万-6万ドル)や、柴田是真の漆工・漆絵作品迄、盛り沢山。

平面アートの方も充実していて、先ずは、ボストン美術館から直接出品されている浮世絵版画。此方の版画は状態の優れない作品も多いが、何しろ廉価で全作品がウィリアム・スタージス・ビゲローとボストン美術館の来歴を持っているのだから、人気を呼ぶに違いない。

屏風では、赤星家・池田成彬旧蔵、嘗ての「帝博」のハガキにも為った狩野松栄作「猿猴花鳥図」六曲一双(同:12-18万ドル)や、書込みの凄い徳川田安家伝来の江戸初期「一の谷・屋島合戦図」六曲一双(同:10-15万ドル)、前回「旧明石城襖屏風」や「厳島住吉祭礼図屏風」を売却した個人コレクターからの第2弾コレクション・セールとして、「洛中洛外図屏風」(六曲一双、同:4-6万ドル)や横山大観の大作「松鶴図屏風」(絹本金地著色六曲一双、同:30-40万ドル)等が揃う。

更に、酒井抱一の「月次図(つきなみず)」十一幅対(同:10-15万ドル)…この作品は、元々十二幅対だったのが、現在「12月」の「雪中美人図」のみが別れてアメリカ個人蔵と為っている物で、残りの十一幅は「1月」の宮廷行事から始まり月毎の草花を経て、「雪中美人」に至る粋な構成と為っている、粋な作品で有る。

そして今回忘れてならないのが、海外オークションでは珍しい「禅&書」のセクションだ。

このセクションには数寄者好みの「大聖武」を始め、後深草天皇御宸翰や鎌倉期の禅僧鉄舟徳済の書、慈雲尊者の大幅や、今渋谷の「Bunkamura ザ・ミュージアム」で大好評開催中の展覧会出品作に負けない(と、思う:笑)、非常に珍しい白隠の作品「達磨大師乃曰く」(類品は沼津・大聖寺のみ)、中原南天坊、近代の山本玄峰や中川宗淵等の名禅僧の一行書、そして現代の俵有作迄、実にバラエティに富んだラインナップと為っている。

その他の分野でも、印籠や硯箱、そして素晴らしい細工の恐らくは「象彦」の先駆け作品と思われる漆飾棚(同:20-30万ドル)等の漆工品、クオリティの高い甲冑や兜の数々迄、見所満載だ。

また韓国美術では、何と云っても18世紀李朝、最大級サイズの白磁大壷(同:100-150万ドル)や朴壽根(同40-50万ドル)を筆頭に、こちらも金銅仏から近代絵画迄、選り取り見取り。

乞うご期待の来月のセールだが、最後に誤解が無い様に1つだけ云って置きたい。

それは、筆者が上で述べた様な美食を取る最大の理由は、最初に述べた様に「時差ボケに因る、眠気を覚ます為」と、「これ等の名品を売り抜く為の、体力作りの為」だ、と云う事だ。

…と云う事にして置いて欲しい…お願いですから(笑)。