エキジビション・フリーク。

ボストンで3人死亡、170人以上が負傷したテロが有った。

何者が犯人なのか未だ分からないが、何れにせよ「ボストン・マラソン」と云う世界の誰もが知っているイヴェントでの、そしてニューヨークばかりに眼が行っていた当局の裏をかいた凶行だろう。

その上、オバマ上院議員に毒物(リシン:劇薬で解毒剤が無い)が送られて来たりもして居る。またあの「恐怖に慄く日々」が始まるかと思うとウンザリするが、アメリカに住んでいる以上仕方が無い…物事には、必ずプラスとマイナスの両面が有るのだから。

そして、三國連太郎が90歳で逝った…筆者に取ってこの俳優は「名優」と云うより、唯「2つの役」としての役者でしか無い。それは市川崑監督作品「犬神家の一族」の犬神佐兵衛役と、云わずもがなの勅使河原宏監督作品での「利休」役だ。

1976年に「犬神家」が公開された時の衝撃を未だに憶えているが、あのダークで重い劇調の中で、犬神家の当主佐兵衛として「遺影」の中から全編を通して君臨する存在感、そして利休役もまた然り。映画「利休にたずねよ」で、海老蔵が三國「利休」に何れだけ迫れるかが楽しみだが、4回結婚した「役者の中の役者」のご冥福を心より祈りたい。

さて、ジャスト1週間と云う短い今回の日本滞在も、気が付くと半分以上が経過してしまった。

今回の出張は、地方のクライアントを訪ね作品を観て歩く仕事がメインと為って居て、老体に鞭打ちながら、既にこの数日で「1都1府5県」を廻って居る…もう一度云うが「この数日で」、ですから…(涙)。

が、そんな合間にも「エキジビション・フリーク」な筆者は、近美の「フランシス・ベーコン展」や京博の「狩野山楽・山雪」展、パルコ・ミュージアムでの「片桐仁:感涙の大秘宝展」、そして東博「大神社展」を観て来たので、今日はその展覧会雑記を。

先ずは「べーコン展」…期待を裏切らない展覧会で、質の高い作品が多い上に、人がそれ程多く無く観易い。そして世界の如何なる作家の中でも、今でもフロイドと共に筆者を最も興奮させる作家で有るベーコンの絵画は、今回も筆者の脳髄を直撃し、頭と身体の中の血管と云う血管を激走した挙句、先日もタクシーで「彼方の世界」の方(俗に云う「マル暴」)に間違えられた自分の強面に、ニヤニヤとした微笑みすら浮かべさせる処が不気味で凄い。

が、今回の近美の展覧会に於いて、筆者に取って作品その物よりも興味深かったのは、土方巽の「舞踏公演『疱瘡譚』記録映像」と「舞踏譜『ベーコン初稿』」、そしてウィリアム・フォーサイスの「重訳/絶筆、未完の肖像(フランシス・ベーコン)/人物像を描き込む人物像(テイク2)」(ペーター・ヴェルツとのコラボ)が展示されて居た事だ!

ベーコンと「肉体」の関係性に就いては、既に多くが語られて居るので省略するが、しかしこの東西の大御所の「動く肉体」が、ベーコンの絵画にオマージュを捧げている事実は、余りにも興味深い。

思えばベルトリッチの「ラスト・タンゴ・イン・パリ」のタイトル・ロールで、ベーコンの描く男女の作品が2点フィーチャーされ、一説に拠ると映画内のコスチューム・デザインもベーコン作品から取られて居るらしい事を鑑みた上で、今回の「ベーコン展」での土方、フォーサイスの両者のパフォーマンス、そしてベーコンの作品群を観ると、ベルトリッチを含めたこの4人の怖るべきアーティスト達が共鳴する「肉体」とその「歪み」、そして己の「肉体」内部に蠢く「アレ」が、如何に厄介なモノで有るかを痛感させられる、非常にクリエイティヴで素晴らしい展覧会で有った。

次に、京都で顧客訪問の合間に駆け込んだ「狩野山楽・山雪展」。幸いにも思ったより混んで居らず、特に襖絵・屏風等の大画面絵画を堪能…そしてその中でもズバ抜けて居たのは、矢張り「老梅図襖」と「雪汀水禽図屏風」、そして「長恨歌図巻」だ!

その凄さも見慣れたMETの「老梅図襖」はさて置き、重文「雪汀水禽図屏風」の金銀眩く装飾美の極致的作品は、波の盛り上げが本作の全ての語る…因みに本展図録の表紙も手で触ると波が盛り上がって居て、京博(山本先生!)の強い拘りが窺えた。

チェスター・ビューティーの「長恨歌図巻」も久し振りに観たのだが、 この作品と「老梅図」が海外に有ると云う事は、幸か不幸か?…しかし、本作の絹本裏彩色に因る色の凄さと緻密極まりない作画は、もう「日本美術品の最高級品クオリティ」としか云えない。この3作には、マジ参りました!

続いて、ハッキリ云って上に記したどの展覧会よりも人が溢れて居た、「ラーメンズ」の片桐仁に拠る粘土作品展@パルコ・ミュージアム…しかし侮る無かれ、これは単なる粘土細工展では無い。

いや凄いの何のって、流石多摩美出身の片桐、遮光器土偶をモチーフとしたペットボトル・ホルダー「ペットボ土偶」を始め、恐竜の骸骨頭部な「ドライヤー」や、一見「ん、これシャネル?」とも見える、カメレオン「バナナ・ホルダー」等々、ジョークとゴシック、キッチュとグロの間を彷徨う作品だらけだが、既製の工業製品をベースに使うアイディアと、その突き抜け感は何とも面白く、気持ちが良い。

展示の最後に在る、作者が作品と共に映る写真作品が「決め手」だと思うが、何しろ一見の価値ある展覧会だ…此方は22日迄なので、パルコへ急げ!

そして「大トリ」は、東博「大神社展」。これまた物凄い展覧会で、「神宮(伊勢神宮)」の式年遷宮を記念しての企画だが、何しろ御神宝の嵐…展示品は刀や鏡、漆や装束、勾玉、陶磁器、能面迄バラエティに富んで居るが、見処は矢張り「神像」と「垂迹絵画」だろう。

「隣の部屋に入ると、其処は神の世界だった」

川端ならそう表現するで有ろう程、神像が並ぶ「神像ルーム」…此れだけの数の神像を一度に観る機会は、何しろ非常に稀だ(「神仏います近江」以来か?…拙ダイアリー:「『近江の神仏』に会った、日帰り旅」参照)。

御馴染み松尾大社の重文男女三神像や、大好きな熊野速玉大社の国宝「熊野夫須美大神坐像」と「家津美御子大神坐像」を始め、個人的に思い入れの深い大将軍八神社の神像群(拙ダイアリー:「1200年振りの『大将軍』との再会」参照)、能面(女面)の元祖を観る様な南宮神社の女神像群、そして時代は鎌倉に下るが、リアルな作行の思わず首を垂れてしまう程に素晴らしい、若狭神宮寺の「小丹生之明神和加佐国比古神」と「小丹生之明神和加佐国比女神」等、これでもか!の逸品揃い。

更に絵画作品でも、これぞ国宝中の国宝「平家納経」から、最古の「春日鹿曼荼羅」と云われる陽明文庫本、そして元来三幅対の中と右との説も有る傑作中の傑作「吉野御子守神像」(個人蔵:チャンス到来!って、何が?:笑)と「子守明神像」迄、見処満載…いやはや、何とも凄まじいクオリティの展覧会で有った。

日本滞在も、残り後丸2日…大好きなラファエロ位は観て帰りたいが、「もっと美味い物も食いたいし、観劇もせにゃあ為らんしなぁ…」と、注文の多いエキジビション・フリーク・フロム・ニューヨークの巻でした。

デモミナサン、シゴトモチャントシテルンデスヨ…ネンノタメ(笑)。