「杮落し」公演と「スーパー能」、そして「彷徨えるパンケーキ人」のリヴェンジ。

出張に次ぐ出張をこなし、流石のワタクシも疲労困憊…。

しかしそんな中でも、その翌日アエロフロートでシベリアへ発つ為、取り敢えず「今生の別れの盃」を交わした(笑)達っつぁん(アーティスト西野達氏)主催の飲み会@壁に「奈良美智の落書」も有るパンク居酒屋「T」や、かいちゃうとのディナー@目黒「M」、そしてその後移動したかいちゃう宅の茶室にて、骨董数寄の歌舞伎囃子方家元も加わってのお茶とモノ談義を愉しむ。

が、今回の弾丸日本出張中、筆者には仕事以外の大きな目標が3つ有ったのだが、先ずはその内の1つ目。「パンケーキ人」の皆様、お待たせしました…「彷徨えるパンケーキ人」リヴェンジ篇:「表参道ビルズ」の「リコッタ・パンケーキ」を食べて来た!

「…ん?この激務の中、良く時間が有るな?」と思うなかれ、時差ボケを利用しての朝イチ来店(8時半)実現させ、早速リコッタ・パンケーキを注文するが、待ってる間にも店にはドンドン人が入って来て、出る頃には階段2階分の人が並んで居た…平日の朝だと云うのに、で有る。流石の人気店だ。

唾をゴクリゴクリと呑み込みながら待った末、滔々出て来たのは3段重ねのふっくらしたリコッタ・チーズ入りパンケーキに、メイプル・シロップの入ったバターが乗り、バナナが脇に添えられた一品…見るからに旨そうだ!

そして可愛い店員さんの教えに従い、バターを確り溶かし、早速最初の一口を頂く。リコッタの混入されたフワフワのパンケーキにメイプル・バターが良く合い、これは旨いっ!…流石多くの人が勧めるだけの事は有る!

もう大の男が、原宿で朝から遮二無二パンケーキを食って居る姿は滑稽に違いない、との思いから物凄い勢いで食べたのだが、その可愛い店員さんに「僕はニューヨークから、『このパンケーキ』を食べに来たのです」と云うと感激したらしく、去年彼女がニューヨークを訪れた時の事等を話し、それも「ビルズ」のパンケーキの旨さを増幅させた一因なのだが、此処は店員さんも素晴らしい(&可愛い:笑)…パンケーキ・リヴェンジを果たした満足感で一杯の朝でした。

そして此処からが「2つ目と3つ目」の目標…それは新歌舞伎座の「杮落し公演」と、新作能世阿弥」の観劇で有った。

先ずは歌舞伎座…持つべき物は友で、この短い滞在中に何処かで取れる席を頼んで置いたら、幸いにも「盛綱陣屋」と「勧進帳」の「第3部」が取れた!

新しく為った歌舞伎座に6時前に行ってみると、物凄い人、人、人…しかし建物の外観は昔と殆ど変わらず、唯その背後に聳える高層ビルだけが目新しい。劇場内・客席に入って見てもその「既視感」は変わらず、以前との違いが少ない事に少々ガッカリするが、昔の歌舞伎座の雰囲気を残そうとの強い意識が垣間見えて、そこはかとなく悲しくも微笑ましい。

しかし1階中央の席に座ってみると、広く為ったその「席間隔」に驚く!この席間隔の拡大とエスカレーターが出来た事、そして恐らくは音響効果が良くなった事が、観客に取っての新歌舞伎座最大の改善点で有ろう…そして大拍手と共に「近江源氏先陣館 盛綱陣屋」が始まった。

佐々木三郎盛綱には仁左衛門、和田兵衛秀盛に吉右衛門、篝火に時蔵、早瀬には芝雀…特に仁左衛門の懐の深い重厚な演技が素晴らしかったが、染五郎の長男金太郎に拠る小四郎の可愛さと確りとした演技、そして子供ながらに武士道を極めようとする役柄に、微笑みと涙を禁じ得ない。

盛大な拍手で「盛綱陣屋」が終わると幕間に為り、上階のレストランへ…この時のエスカレーターが大混雑だった事だけが、この晩の難点だったが、食事も美味しく満足すると「勧進帳」が始まる。

ご存知歌舞伎十八番の内「勧進帳」は、能「安宅」をベースに九代目団十郎が完成させた、大人気演目の一。菊五郎の富樫に梅玉義経、そして弁慶には幸四郎。山伏に身を窶した家臣も、染五郎松緑勘九郎、そして左團次と流石に豪華!

杮落とし公演だけ有って、役者や囃子方長唄も緊張感溢れ力の入った舞台で、最後の弁慶の「飛六方」の際には満員の会場から万雷の手拍子も起こり、舞台・客席が一体に為った、気迫満点の、そして大立役者を2人失った歌舞伎も「何のこれしき、大丈夫!」と心底思える、誠に素晴らしい舞台で有った!

そして昨日の夜は国立能楽堂に赴き、新作能「スーパー能 世阿弥」を観賞。

この梅原猛作の「世阿弥」は、国立能楽堂開場30周年記念特別企画公演で、ポスターは横尾忠則作。内容は、自宅に居る世阿弥梅若玄祥)とその妻寿椿(味方玄)が、息子の元雅(片山九郎右衛門)の事を案じる所から始まる。父子は足利義教から疎まれ、命を狙われて居るからで、そんな折元雅とその庇護者越智(宝生欣弥)が訪ねて来て、元雅を伊勢に匿うと云い、親子は今生の別れを告げる(中入り)。

一月後、越智が世阿弥夫妻を訪ね元雅の死を告げると、夫婦は元雅の死の責任を取って死のうとするが、その時元雅の亡霊が現れ夫婦と語り合い、両親に死を思い止まらせ、世阿弥の心には新しい創作の息吹が生まれる。そして世阿弥は、其処に現れた禅竹(観世芳伸)、音阿弥(山階彌右衛門)と共に舞を舞い、「明日の能」を想うので有った…と云った物で有る。

ストーリーは正直何と云う事も無いが、この能は演出がスゴい…先ず、謡の詞章が「口語体(現代語)」。そして舞台上には草木と世阿弥の私邸、その門の作り物のみが置かれ、囃子方(笛:藤田六郎兵衛、小鼓:大倉源次郎、大鼓:安福光雄、太鼓:観世元伯)と地謡は正面右手の「御簾の間」に御簾を上げて陣取る。

そして客席が暗転すると、その御簾の間だけがライトに照らされ、通常は鏡の間で行われる「お調べ」が客の目前で始まり、その後も場面転換の為に数回の暗転が用いられ、世阿弥の妻も直面で演じ(現在能で有る為)、アイ(野村万作)は「語り手」として登場して、チャップリンの真似迄する。

以上全ては「実験」なので、これ等に特別なコメントは無いのだが、玄祥師の舞は流石の一言…が、驚くべきは、普段の能楽堂では中々お目に掛かれない演能中に鳴り響く携帯の着信音や、これまた演能中に「見えないんだよ!」「煩いわね!」と云った、客同士の大声での口論(!)が有った事だ。

特にそのお能の真最中での客同士の「口論」は、これだけ長い筆者の「能人生」でも初体験。終演後も、席が前後のその男女は大声で口論していた位で、本当に見苦しい事極まり無い…観客の方の改革も必要だろう。

そんなこんなで、筆者は今成田のラウンジ…今回は仕事(移動)も大変だったが、お茶有り、歌舞伎有り、お能有り、展覧会有り、そしてパンケーキ有りの、充実&披露困憊の1週間を経て、今から「地震放射能汚染の国」日本から、「テロと乱射の国」アメリカへと帰る。

あーあ、どっちもどっちだ…(嘆)。