女優の生き方。

てっきり忘れて居たが、気が付けば先月でこのダイアリーも丸4年を過ぎ、5年目に突入した。

時の流れは本当に早い…そして、我ながら良く飽きずに書き続けて居る物だと思うが、これからも暇で死にそうな時に読んで頂ければ幸いで有る。

さて、時差ボケと闘いながらも、9月のオークションのカタログ制作が始まった。

今回は300点を超す大きなセールだが、内容も家型埴輪から平安期神像や鎌倉期の十一面観音御正体、一休の墨蹟や白隠等の禅画、南蛮屏風、抱一や其一等の琳派絵画、重要浮世絵版画や新版画、是真の最高級漆絵画帖、自在置物や七宝等の明治工芸、そして甲冑に至る迄のバラエティに富んだ高品質セールと為って居る。

此れ等の古美術品は筆者の前に現れても、悲しいかな、ほんの数ヶ月の内に去って行く。これが美術商には無い「オークション会社の運命(さだめ)」だし、況してやアーティストでも無い自分に取っては、せめて学術的にもヴィジュアル的にも良いカタログを作る事で、素晴らしい美術品と云う形態の「歴史」を自分の歴史の一部に組み込み、且つ後世に残したい、と何時も思うのだ。

そんな先週末は時差ボケを利用して、家でのカタログ・リサーチをし乍ら、タイプの全く異なる2人の女優の主演映画を観て来た。先ず1本目は、先週からジャパン・ソサエティ始まった「Japan Cuts」からの1本、沢尻エリカ主演の「へルター・スケルター」だ。

岡崎京子原作、蜷川実花監督2012年制作の本作は、公開当時、主演沢尻の私生活での奇行と重なり大きな話題を呼んだので、知らない人は居まい…斯く云う筆者も別に沢尻ファンでも何でも無いが、若い友人U君を伴って、どんな物かとの興味本位でJSに乗り込んだので有った。

さてこの「へルター・スケルター」、ストーリーは良く有る話なので、筆者の興味は必然的に主演の沢尻と映像に特化した訳だが、先ず沢尻…これはもう上手下手を通り越して、美しい乳房を露わにしての体当たりの演技だったと云って良い。その点から考えると、沢尻は「この1本」で引退しても良い位の気持ちだったのでは無いかと思うが、どうも気合の上滑り感が強く、その意味でも無意味なエロ・シーンも多い。彼女は役に入れ込む余り、撮影中からその後迄役と私生活との区別が付き辛く為り、体調を崩したと聞くが、さも有らん、と云う感じだ。

また沢尻演じるりりこの部屋や、最後のアンダーグラウンド・バーの室内装飾等は一寸ゴシックが入って居てデザイン的には好感が持てたが、オペラやクラシック・ミュージックの多用、ショッキングなバイオレンス・シーン等は、明らかにキューブリックの「時計時掛けのオレンジ」の影響大で、残念ながら新鮮さに欠ける。

謂わば本作は、蜷川監督の写真家としての味は出て居るにしても、「映画作品」と云うよりは矢張り「ヴィジュアル・ブック・ヴィデオ」だと思う。役者陣も大森南朗や窪塚洋介がイマイチで、マネージャー役の寺島しのぶに拠って大分引き締まったが、時既に遅し。序でにラスト・シーンは、原作では海外の見世物小屋に出ている筈のりりこが、アンダーグラウンド・クラブの女王の様に出て来るが、個人的にはあれも安直で戴けない…「末路」が見たかった、からで有る。

その翌日は、気分を変えてクサマヨイとA姫と、今度はハリウッドの新作「パシフィック・リム(3D)」。

本作は「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロ監督に拠る大作怪獣映画で、主演はチャーリー・ハナム、そして闘うヒロイン「マコ」を菊地凛子が演じて居る。

此方は「ゴジラ」と「ガンダム」、「エイリアン」、そして「アルマゲドン」を足して4で割った様な作品だが、何しろ進化し続けるSFXが素晴らしく、物凄い。そして菊地は、2ヶ月間のブート・キャンプを経ての棒術やマーシャル・アーツの成果が出て居て格好良く、大熱演だ。

また本作で驚いたのは、マコの少女時代を演じた芦田愛菜の演技が非常に素晴らしかった事で、生意気だの何だの云っても、ハリウッド超大作の撮影での彼女のあの演技は凄い。しかし、何しろ劇中で起こり続けるロボットと怪獣(本作では、登場する怪獣は「Kaiju」と呼ばれ、英語と為って居る)の3D戦闘シーンには此方も力が入ってしまい、観終わった後、これだけ疲れた映画も最近では珍しい(笑)。

さて今回観た両作品、映画自体は残念ながら余り筆者の好みでは無かったのだが、気に為ったのが沢尻エリカ菊地凛子…この2人の日本人女優の、余りに対照的な「女優性」だ。

片や「ワガママ女優」として名を馳せ、「ハイパー...」と云う肩書きの男と離婚するのかしないのかすらハッキリしない女優。片や「バベル」や「Map of the Sounds of Tokyo」等での凄まじい体当たり演技と恋愛を幾つも経験し(沢尻の体当たりとは、レベルが違うと思う)、本拠をニューヨークに移し、「どんな役でも」と背水の陣で臨む心意気の女優。

何方が世界の舞台で活躍出来るかは云う迄も無いだろうが、この2人の最も大きな違いは、「上辺だけの女優」で満足するか、それとも「真の女優」に為りたいかと云う、チャレンジ精神の差では無かろうか。

その意味では、沢尻エリカは恰も「へルタースケルター」の「りりこ」の様に表舞台から消えて行くかも知れないが、菊池凛子の根性は「パシフィック・リム」の最後、「マコ」が海中から生還する様に、彼女をしぶとく生き抜かせるだろう。

「女優」とは、「才能」と「覚悟」の大きさの産物で有る。「パシフィック・リム」は、筆者に女優菊池凛子の「それ」を大いに感じさせてくれた作品でした。