真の「癒し」。

驚くべき事にデトロイト市が財政破綻し、連邦破産法第9条の申請をした。

デトロイトと云えば、筆者には忘れられない想い出が2つ有って、それはデトロイト美術館で観たディエゴ・リヴェラの大傑作壁画(拙ダイアリー;「デトロイトの産業」参照)と、「9.11」発生のその日その時間、ニューヨーク到着1時間前に載っていた筆者の飛行機が、数時間空を彷徨った末緊急着陸したのがデトロイト空港で、それから2日間市内のコンヴェンション・センターらしき所に缶詰に為った事だ(拙ダイアリー:「私にとっての『9・11』前・後編」参照)。

前世紀にあれだけ栄華を誇った街も、今では目を覆いたくなる惨状…「盛者必衰の理をあらはす」とは良く云った物だが、リヴェラの壁画もさぞかし皮肉に、何とも悲しく見えるに違いない。

それに付けても、今年のニューヨークは暑い!

「華氏100度超え等、当たり前!」状態に為って居るが、せっかく日本を脱出して来たのに…と云うのは贅沢過ぎだろうか?その上オフィスの中、特に筆者のオフィスはかなり寒く、上着を着なければ凍え死ぬのは必須、2時間に1度は外に出て体を温めねば身体が硬直し、血行が悪くなって気分が悪く為る。この街の「外と内の気温差」は、何故こんなに極端なのだ?

そんな中、大変なカタログ作業は続いて居るが、その作業の中でも最も苦しくも楽しいのが、オークション出品作品の調査の為に古い文献やカタログを当たって、過去の所有者や展覧会歴を調べる事なのだが、何十年も、いや百年も前の文献にその作品の所載や来歴を見つけた時の悦びは一入で、たった100年の間でも、戦争や地震、火事等の災害から良くぞ生き残って来た!と思うのだが、この悦びだけは経験の有る人にしか判らないだろう。

そして日本美術の中でも、特に海外での研究が先行していた浮世絵や柿右衛門等の輸出陶磁器、19世紀から万国博覧会に出品されていた明治工芸品、戦前のボストンやドイツでの日本古美術展に出品された仏像や屏風等、如何に日本の美術品が世界で愛されて続けて来たかが分かり、悦びを通り越して誇らしくすら為るのだ。

それでもクライアントとのエスティメイトや出品条件の最終交渉や、コンサルタントとのアトリビューションに就いての議論、別冊カタログのデザインやプロモーションの打ち合わせ、会議への出席をし乍ら、他のアプレーザルや等の仕事もしているのだから堪らない。

筆者の身体や脳は、通常朝6時過ぎにはトップ・ギアで働き始める。そしてその後1日中、時には慢性的な時差に振り回されながらも、持っている身体的技術の全てを集中的に駆使して仕事や会議をこなすので、夜も7時に為るとその機能を停止し始める…。

そして、疲れて果てて家に戻った後、己の疲弊した脳と身体を癒してくれるのが映画や本、好きな茶碗で飲む一服の抹茶で有り、そして音楽なのだが、最近その「癒し」効果の極めて強い音楽を、その作曲家自身から贈られた。

その音楽とは、ニューヨーク在住の作曲家にしなあやのニュー・アルバム「Flora」。

東日本大震災に因って家族も被災した仙台出身のにしなは、被災地から離れては居ても、当然彼女自身深く傷ついた。彼女のこの初の「セルフ・プロデュース・アルバム」は、その震災以来の2年間の未だ何も解決して居ない状況下で出逢った人々や、傷ついた心の支えに為ってくれた人達、或いは自身がこよなく愛するアグネス・マーティンの作品や、昨年ニューヨークで一大センセーションを巻き起こした草間弥生の展覧会等、インスパイアされた人や物事をモティーフとして、「女性の声」だけで構成される。

この「女性の声」だけで創られた全6曲は、何しろにしなの優しさと「存在」への感謝の念に溢れて居て、個人的には特に「White Flower」や「Flora」に大層癒されるのだが、何れの曲も表面的にただ綺麗で透明なだけでは無く、奥底に確りとした力強さと希望を感じる音楽なのだ。

さて、最近「福島第一」のニュースを聞く度に、それでも原発推進する自民党政府は一体何を考えているのかと思う。今この瞬間にも起きている汚染水の海流出問題を見ても、もう東電と云う「責任逃れのプロ」的一企業に任せておける事態では無いのでは無いか?

公海に高濃度汚染水が流れ込んでいると為ると、これはもう東北だの日本だのの問題では無く、国際問題化して居るからで、こんな状況を国として無責任に放置して居て、何がオリンピックだ。

真の「癒し」とは、優しさだけでは絶対的に足り得無い…其処には力強い「信頼」と、確固とした「希望」が無くては為らない。況してや、被災者への「癒し」となれば尚更だ。

にしなの音楽には、彼女自身が今迄被災地に対して取って来た「行動」がその根底に有るが故に、その両方が兼ね備えられたのだと思う。

そしてその「真の癒し」を持つ彼女の無敵の音楽の力は、これからも被災地の人々を、そして我々をも癒して呉れるに違いない。


PS:Aya Nishina「Flora」は、7月30日世界同時発売・・・是非御一聴あれ!