分野を跨ぐ「コレクターズ・アイ」。

福島の汚染水流出は、大問題だ。

1リットル当たり8000万ベクレルの高濃度汚染水が、何と300トン…こんな量の流出に今迄気付かなかった等と云う事が、有り得るだろうか?

土壌や海に染み出す汚染水と、それを気付きもせず対策も講じる事の出来ない東電と政府…何ら解決出来ず、責任も取らない侭東京オリンピック招致等片腹痛いし、世界に顔向け出来無い。責任を取らない国、日本…もう嘘はウンザリだ。

それにしても暑い…その酷暑の東京に戻ってから最初の週末は、展覧会巡りから。

先ずは、根津美術館で開催中の「曼荼羅展 宇宙は神仏で充満する!」。何しろシブい展覧会だが、のっけから重文「大日如来像」(12世紀)で始まるこの展覧会、素晴らしいラインナップで有る!

この「大日如来像」を始め、密教美術からは「愛染曼荼羅」や13世紀の「愛染明王像」、南北朝期の厨子付き「大日金輪・如意輪観音像」、浄土曼荼羅の「兜率天曼荼羅」、そして筆者の大好きな垂迹美術からは「日吉山王本地仏曼荼羅」や「春日宮曼荼羅」、そして「春日社寺曼荼羅」等、もう見処満載。

そしてこの曼荼羅展を観てふと思ったのが、現在国立新美術館で公開中のパワーズ・コレクション中の「200 Campbell Soup Cans」と、その日本美術コレクション中の曼荼羅図を同時に展示したら、どれだけ面白い展示に為ったか、と云う事で有る。

例えばポップ・アートと日本古美術と云った、分野の全く異なる作品を「同時に」展示するのは難しいかも知れないが、しかし1人のコレクターの眼が蒐めた作品は、同時に飾り観る価値が有るだろう。

青山を後にし、次に向かったのは初台…東京オペラシティ・アートギャラリーで開催中の「アートがあれば II」展。

此方の展覧会は、2004年に開催された「アートがあれば」展の第2弾で、前回同様9人の日本人現代美術コレクターの収集品に光を当て、作品を通じてコレクターやアート・マーケットの姿を浮かび上がらせる試みで有る。

さて、この展覧会を観て思ったのは、日本の現代美術コレクターは、少しずつ姿を変えて増えて来て居ると云う事で、高橋龍太郎氏や宮津大輔氏の様に「メジャー」に為ったコレクターの「次」或いは「別」の世代のコレクター達は、その両氏のコレクションや収集スタイルを見ているが故に、自分のコレクションの個性を大事にしている様に感じる。

作品は村上や奈良の小品から、西野達の写真作品「マーライオン・ホテル」や流麻二果「四つのお願い」等の友人達の作品、そして海外作家作品迄、謂わば「手の届きそうな」作品が多いので、中々楽しめたが、矢張りコレクターと云うのは好きな作家・作品傾向が偏る(当然と云えば当然だし、其処が良い処でも有るのだが)物だと、改めて確認した展覧会で有った。

そして筆者の勝手な欲を云えば、前述のパワーズ・コレクションの様に海外コレクターに多いのだが、異分野に跨るアート・コレクションを、1人の「コレクターズ・アイ」を通して見たい。

規模の大小は兎も角、今でもそう云ったコレクターは日本にも存在して居るのだが、某筋に拠ると、日本を代表する現代美術某大コレクターも最近日本古美術に興味を持ち始めていて、自身の現代美術コレクションを古美術に買い替えて居るらしい、との噂も聞くので、1人の「分野を跨いだコレクション」で展覧会場を一杯に出来る日も、そう遠く無いのかも知れない。

この事に関連付けて、序でに云えば、来月15日クリスティーズ・ニューヨークの「アジアン・ウィーク・レクチャー・シリーズ」に於いて、現代美術家杉本博司氏が「Accelerated Buddha(加速する仏陀)」と題されたレクチャーを行う。

これは常々、現代美術と日本古美術の「架け橋」、或いは「伝道師」とでも呼びたい、複数分野に亘る大コレクターで有る氏に、日本古美術の素晴らしさを世界の現代美術コレクターに対して語って貰いたいと思って居た筆者の企画なのだが、10月からイヴ・サン=ローラン財団で開催される同氏の展覧会に出展される、同タイトルのヴィデオ作品の上映を含めたこのレクチャーは、当社の現代美術・写真、そして日本美術部門の顧客をクロスオーバーして魅了する、誠に興味深いイヴェントに為ると思う。

そんな訳で、日本古美術と現代美術の相性の良さはこれから益々世界に喧伝され、その双方を目利きする世界のコレクターもこれから増えて行く事を、筆者は信じ、願って止まないのだ。

さぁ、明日明後日は東京下見会。

南蛮屏風、鎧、乾山、懐月堂、写楽北斎暁斎、是真、そして男神像と如意輪観音像を展示する…頑張らねば!