「頑固オヤジ」と「軟弱言論テロリスト」。

西へ西へと向かう、暑くも楽しい旅を終え、東京に戻った。

帰京翌日は、マヨンセを伴いシアター・コクーンでの「ABKAIーえびかい」へ…この公演は市川海老蔵の自主公演で、歌舞伎十八番「蛇柳」の舞踊版と、宮本亜門演出の新作歌舞伎「疾風如白狗怒涛之花咲爺物語」(はなさかじいさん)の2演目を観る。

会場は立見客も出る大盛況で、美人キャスターYMや有名写真家SKの顔も見えたが、内容はと云うと、個人的には中途半端なモノで、少しガッカリ。鑑賞後、階下の「デュマゴ」で、編集者W女史と今月末に予定されている某雑誌のNY取材の打ち合わせを皆でした後、マヨンセとザ・ミュージアムでやって居た「レオナール・藤田展」で藤田の美しい白の初期作を観、気分転換を諮った。

そして翌日は、友人達との再会を楽しむ。

先ず昼は、クリエイターF氏がディレクターを務めている展覧会をF氏夫妻と一緒に解説付きで観賞後、一緒にサバ味噌やハヤシライス等のランチに舌鼓を打ち、夜は夜で、アーティストNやM等総勢9人で、歌舞町の行きつけママちゃん中華「G」で宴会。

「G」は何時も通り空いていたが、相変わらず「此処は何処?」的な不思議な店で、ウォン・カーウェイの映画の中に入り込んでしまった様な錯覚に陥る。

中年の男2人が大声で中国語で話しながら飲んで居たり、黒人が1人で黙々と「牛肉とジャガイモの煮込み」を食べてたり、日本人のゲイ・カップルに写真を撮って貰ったり、背後の中国屏風が急に音を立てて動いたり…しかも紹興酒のボトルを5本空け、あれだけ飲んで食べても1人3500円…ママちゃんからの肉まんや大盛酸辣湯のサービスも嬉しかった、大盛上りの夜と為った。

そして今日のダイアリーは、此処からマヨンセの実家の在る萩に行った時に遡る…今回も色々と美味しい物を頂いたのだが、一番印象に残ったのは何と云っても「頑固オヤジの寿司」(笑)だろう!

さて、何時も行くG寿司が最近どうも予約が取れず、仕方が無いので人伝に聞いた寿司屋「Y」へと向かったマヨンセと姉のH、そして筆者は、行く前から「彼処のオヤジは頑固だからね〜」と云う噂を聞いては居たのだが、果たしてその噂は本当で有った(笑)。

その昔ビールのコマーシャルに出たのか、若き頃のオヤジらしい男がポーズを取って、最高の笑顔で微笑むポスターが壁に貼られたカウンターに座ると、座敷に陣取って居た客達は、何故か怪訝そうに我々をチラ見した…が、その理由はほんの数分後に判明する(笑)。

カウンター席に座った筆者が、先ずはオヤジに「今日は何がオススメですか?」と尋ねると、仏頂面で「チッ」と舌打ちをしたかと思うと、「こんなに暑いと、魚は獲れねぇんだよ…」とぶっきら棒に云い、序でに「しかも大潮だしよ!」と付け加えたのだ。

それを聞いたマヨンセが「大潮」を「赤潮」と勘違いし、「この辺も赤潮が出るんですか?」と頓珍漢な質問をしたから堪らない…オヤジは「フッ…」と鼻で笑うと、「赤潮じゃねえよ、大潮だよ!」と上から目線で答える。

その後、筆者が「魚見ても分からないので、今日は何が有るか教えてください」と下手に出ても、「今の若い奴に分かるのは、エビとマグロと穴子位だ!」と怒られ(この間、50になったんですけど…)、東京から来たと知ると「築地なんてのは、魚を集める場所で、釣れる所じゃねえ…獲れるのは穴子位だろ?」と怒鳴られる。

然し、その頑固オヤジの握る寿司は流石に旨く、コリコリとしたヒラマサや小粒で旨味の深い雲丹等のネタも新鮮なのだが、問題はその握りの大きさで、東京の高級寿司からすると何と三貫分は有ろうかと云うネタの大きさなのだ…が、より驚くべきはその値段で、あれだけ食べて、しかも頼んで居ない「鯒素麺」迄食べたのに(笑)、何と1人3300円で有った(東京の一流寿司店なら、戴いた巨大大トロ1貫だけで、その値段に為って仕舞うに違いない)!

帰り際、筆者達がニューヨークからの客だと判ると、今鰻の稚魚が唯一大量に穫れ、ゴールド・ラッシュの様相を呈しているニュージャージーの話に為り、頑固オヤジに「獲れたら、送りますよ」と云ったら、初めてニヤッと笑い、ポスターの中の男がオヤジ本人と最終的に証明されたのが印象的だった(笑)。

そして萩でのもう1つのトピックが、土産処「しーまーと」での出来事だ。

東京へ帰る日の午前中に訪れた、萩に行った時には必ず買い物に行く土産物処の「しーまーと」だが、この日は土産を買う人達に混じり、見慣れぬ者達の姿が目に付いた。35度に垂んとする日中、白シャツに黒のスーツを来た大勢の男女が、耳にイヤホンをし何やらブツブツ云いながら歩き回って居るので有る…そうだ、彼らは「SP」だ!

と云う事は…と思っていたら、誰からとも無く「安倍首相が来るそうだ」との声が聞こえ、成る程、大雨災害の被災者見舞だな、と分かった。よし、若し我々が買い物中に総理が来たら、公衆の面前で「憲法第96条改正反対」を叫ぼう…これは千載一遇のチャンスでは無いか!

が、残念ながら、首相は我々の買い物タイム中には現れず、新聞一面に載る機会を逸してしまった…と思った…その時は。

買い物を済ませて家に戻り、義父母と義姉に挨拶をすると、タクシーでマヨンセと空港に向かったのだが、途中有料道路で車が事故炎上したらしく大渋滞に為って居て、迂回する羽目に。が、心配した搭乗時間にも何とか間に合い、結局無事に羽田行き飛行機に乗る事が出来た。そして乗った機内の3列前には、「サンスポ」を読む見憶えの有る男の姿が…何と、安倍首相では無いか!

しかしコソコソ搭乗し、満員の乗客に挨拶一つもしない首相には、かなりガッカリ…もし一言でも「皆さん、帰省お疲れ様でした。故郷は如何でしたか?」位云えば、此方も「総理もガンバレ!」位は云うのに、こう云う処が「『国民の』大統領」オバマとのエラい違いで有る。

況してや、「憲法第96条」を改正するとは何事か!百歩譲って安部首相が真っ当な人物だとしても、自民党政権がいつの日か危険な人物・党に敗北し政権を奪われた日には、議員過半数だけで憲法改正出来てしまう様に法改正した事を、必ずや後悔するに違いない…そんな事も彼は分からんのか?

てな理由で、「しーまーと」で出来なかった「憲法第96条改正反対」を、今度は「全日空689便」で叫ぶ千載二遇(笑)の大チャンスだったのだが、翌朝の新聞一面で、首相の周りの席を取り囲むSPに取り押さえられ、顔を歪める筆者の写真を見た時の義父の困った顔や、母の涙を思い、断念。

今日は萩と云う土地柄独特の2題…「頑固オヤジ」と、我ながら情け無い「軟弱言論テロリスト」の一席でした(涙)。