重力とファンク。

のっけから何だが、日本航空と云う企業は何と厚顔無恥なのだろう。

増便される羽田発着の国際便数が、全日空と著しく異なる事に対して「不公平だ」と国交省に大クレームをしているらしいが、盗人猛々しいとは正にこの事だ!

己の不始末で潰れかかり、何千億円(都合6千億円+と聞く)も国民の血税を注入された上、この7年間税金を一円も払わずに居る癖に、売り上げがJALよりもかなり少なくとも税金を払い続け、しかも潰れずに頑張っている居るANAに対して「不公平だ」とは、どの面下げて云えるのだろう?

NTTドコモも似ているが、この辺の「緩さ」が如何にも「日の丸」的企業JALで、本当に腹立たしい。生き延びさせて貰っただけでも感謝すべきなのに、利権も欲しいとはチャンチャラ可笑しいが、「だから、ダメなんだ」と思わないその体質自体が腐って居る…こんな企業の便には、絶対に乗らない。

さて文句はこれ位にして、最近スゴい映画を観て来た!

その映画とは、此方でつい数日前に封切られたばかりの新作「Gravity: 3D」(→https://m.youtube.com/watch?v=ufsrgE0BYf0)。

監督は「大いなる遺産」「天国の口、終わりの楽園」のメキシコ人監督アルフォンソ・キュアロン、主演はサンドラ・ブロックジョージ・クルーニーだが、決してラヴ・コメでは無い(笑)。劇中生きている登場人物はブロック(この女優の出ている作品で初めて良いと思ったし、初めて「適役」と思った!)とクルーニーを含めて3人で、死者を入れてもたったの5人…その上台詞も非常に少なく、音楽も殆ど無い…何故ならそれは全編「宇宙空間」が舞台だからだ。

ネタバレになるので、正直大した物では無いが、ストーリーは此処には記さない。が、何しろ映像が信じられない位にリアルで美しく、本作の「映画芸術に於ける『CG』とは、こう云う事を云うのだ!」的な凄い映像を目の当たりにすると、恰も素晴らしい出来のドキュメンタリーを観て居る様な気に為る程に、凄い。

然も、例えば「アバター」や「スター・ウォーズ」の様な絵空事とは違って、現実味溢れる「人間の現場」としての宇宙で次々と起こる「最悪の事態」には、3D眼鏡を掛けて居る事すら忘れ、「宇宙酔い」した気分に為った位だ。

そして筆者に取ってこの「Gravity」のCGの凄さは、中学の頃、キューブリックの「2001年宇宙の旅」を初めて劇場で観た時の驚きに匹敵する。それは、CGの本当の凄さとそれが映画芸術の中で使われる意味は、優れた人間ドラマやリアリティの中にこそ有るべきと思っているからで、CGが売り物の大概の映画には「ふーん、凄いねぇ」と云った感慨しかない筆者も、この作品には称賛を贈らざるを得ない。

「どうやって撮ったんだ?」の連続の本作…何しろ出来るだけ大画面の劇場で観て、そしてその驚愕映像の美しさとリアルな恐怖に「酔って」頂きたい。

さて映画も良いが、今度は音楽。

ニューヨークと云う街の持つ大きな魅力の1つに、「音楽」が有る事を否定する人は居ないだろう。それは多種多様な人間に拠る、多種多様の、然もトップ・クオリティの音楽に何時でも触れられるからなのだが、「ジョン・ゾーン坂本龍一」を観た翌晩向かったのは、自宅から徒歩10分、タイムズ・スクエアのど真ん中に在るライヴハウスB.B.King Blues & Grill」…"Rufus featuring Sly Stone"を観る為で有った!

「ルーファス」と云うバンドを知らない人の為に簡単に説明すると、ルーファスは70年代から活躍中の、シカゴ出身R&Bファンキー・バンド。70年代後半から80年代に掛けて、この晩は居なかったケヴィン・マーフィー(白人:Keyboard)と、この夜も超カッコ良かったトニー・メイデン(黒人:Guitar)を中心に、ロックとR&Bを掛け合わせたファンキーな曲とタイトな演奏で有名だったが、何と云ってもヴォーカルのチャカ・カーン(拙ダイアリー:「セクシー・オバンの逆襲」参照)の存在が大きい。

そして、スライ…このビッグ・ネームを知らない人は居ないと思うが、此方も簡単に。スライはテキサス出身で、今年70歳。60年代後半から70年代半ばに掛けて大活躍した「Sly & The Family Stone」をラリー・グラハムやジェリー・マルティニ等と結成、一大ブームを巻き起こす。

しかしその最盛期から麻薬中毒だったスライは、バンド解散後ソロに為るも服役を含めて廃人同様に為り、80年代半ばに復活。が、コカイン所持で再逮捕後され、その後隠遁的生活を送るが、ここ6-7年はレコーディングやライヴにも出演している、何しろ「ファンク」と「サイケデリック」の音楽シーンに多大な足跡を残した大ミュージシャンなのだ。

さて開演予定の8時過ぎ、超満員の「B.B.King」に着くと、もう席もスタンディング・エリアも満員で、ステージへの期待がヒシヒシと伝わって来た。だが、案の定1時間待っても誰もステージに顔を出さず、待ちくたびれた頃を見計らって(笑)、9時半前に漸くルーファスが登場…「これぞ、ファンキー!」な演奏が始まった。

隙っ歯がお茶目なトニーのギターに拠るタイトなカッティング、(何と!)日本人女性キーボーディストのグルーヴィーなシンセ、そしてスゴウマ女性ヴォーカリスト2人のパワフルな歌声が、「Everlasting Love」や「Once Get Started」、「Ain't Nobody」や「Do You Love What you Feel」等のヒット曲で、観衆を乗せ躍らせる。

そんな中、曲が「Everyday People」に変わり、金髪を逆立て、真っ白なコスチュームに身を包んだスライが滔々ステージに姿を見せると、その熱狂は最高潮!そして大歓声の中、スライがキーボードの前に座り、ボゴーダー越しに歌い始めた…が、音が出ない!

曲が「Dance to the Music」に移った後も、アンプマンやバンド・メンバーがシンセとボゴーダーをフィクスしようと試みたが、スライは両手で「お手上げ」ポーズをするのみ…筆者の耳には、確かに微かに「音」が出ていた気がしたのだが、気の所為か?真相は闇の中で有る(笑)。

結局演奏は15分程中断され、その後スライは訳の分からないラップをしたり、ハモンドを演奏したりして居たが(これは中々良かった)、再び「お手上げ」をすると突然引っ込んでしまい、一寸した白けムードの中それでもルーファスは演奏を続け、11時半前に尻切れトンボ的にライヴは終了。

会場の照明が点き、客達は何と無く不完全燃焼な感じで帰り始めたのだが、暫くするとスライのアシスタントの女性が出て来て、帰ろうとする我々を引き留めると、何と再びルーファスがステージに登場!

そしてスライの名曲「I Want to Take You Higher」をノリノリで演奏し、最後は観客も大合唱してのハッピー・エンディング。勿論スライは出て来やしなかったが(笑)、ルーファスが何処か出来の悪い親父の為に一生懸命にプレイする孝行息子の様で、涙ぐましかった。

結局スライをステージ上で観たのは都合30分位で、満足な演奏も無かった…しかしその存在感は重く大きく、筆者を含めた全ての観客に取って、ルーファスの素晴らしいパフォーマンスと、廃人の淵から蘇った「ファンク・レジェンド」を観た歓びは大きかったに違いない。

「重力」とかけて、「ファンクのレジェンド」と解く…その心は「生還した時に、重く感じる」。

お後が宜しい様で(笑)。


◎筆者に拠るレクチャーのお知らせ

●「特別展 京都 洛中洛外図と障壁画の美ー里帰りした龍安寺襖絵をめぐって」

日時:2013年11月16日(土):15:30-17:00

場所:朝日カルチャーセンター新宿教室

サイト:http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=220110&userflg=0

問い合わせ:朝日カルチャーセンター新宿教室(03-3344-1941)迄。


奮ってご参加下さい!