NYFF51 Diary: スパイク・ジョーンズの「究極のプラトニック・ラヴ」。

昨日のアメリカ国内日帰り出張が、朝4時に起きて6時過ぎの飛行機に乗ると云う「オニ出張」だった事も有って、当にフラフラの状態だが、先ずは日本美術に関する素晴らしいニュースから。

一昨日、クリスティーズ・ロンドンで開催された日本美術セール「Asobi」で、ジョサイア・コンドル旧蔵の河鍋暁斎地獄太夫図」が、57万8500英ポンド(約9076万円)で落札された!

本作品の画題に就いては、拙ダイアリー:「聞きしより、見て美しき地獄かな」を参照頂きたいが(此方の「地獄太夫」は、ボストン美術館に収蔵された)、今回の「地獄太夫」は、暁斎の直弟子だった明治政府お雇い外国人建築家コンドルが、師の作品をコレクターから買い求めたと云う、その「来歴」の強さがこの価格に現れたと思われる…日本美術も高いモノは高いのだ!

と意気盛んな所で、今日の本題…先月末から今月に掛けて、多忙だったり観たかった作品のスケジュールが合わなかったりして、今年の「第51回ニューヨーク・フィルム・フェスティヴァル」を堪能する事が出来なかった。

そして今年の出品作品には、例えばジム・ジャーミッシュの新作「Only Lovers Left Alive」やコーエン兄弟の「Inside Llewyn Davis」、フィリップ・ガレル「Jealousy」や是枝裕和「Like Father, Like Son」(「そして父になる」)、アレキサンダー・ペイン「Nebraska」、ホン・サンスの「Nobody's Daughter Haewon」、そしてコーネルジュ・ポランボジュ(日本語表記がこれで良いか判らない)の「When Evening Falls on Bucharest or Metabolism」等、観たい作品が目白押し。

…だったのにも関わらず、結局「オフィシャル・セレクション」中で観れた作品はと云うと、今フェスティヴァルの「オオトリ」作品に指名されて居た、スパイク・ジョーンズ監督最新作品の「Her」だけだったのだ(涙)。

さて、その「Her」。主演はホアキン・フェニックスで、準主役はエイミー・アダムスルーニー・マーラ(2人共、大好き!)だが、「姿を現さない、もう1人の主役」が居て、その「姿の無い主役」をスカーレット・ヨハンセンが演じて居る。

フェニックス演じる主人公のセオドアは、近未来のロサンジェルスで「IT版『手紙代筆業』」を生業にして居る。長年愛し続けて居た妻(マーラ)との離婚交渉で心の痛手を負っているセオドアの書く手紙は、繊細で人の心を打つことで評判だが、彼の心を癒す女性は居らず、夜は3Dゲームするのが唯一の楽しみ。

そんな時、セオドアは新型の人工知能を搭載した個人向けシステムを手に入れ、早速アクティヴェイトを始めるのだが、その過程でコンピューターから人工知能からの「声を『男性』にするか、『女性』にするか」との質問に、「女性」と答えた時から彼の「恋」が始まる。

人工知能の「女性の声」は自らを「サマンサ」と名付け、セオドアのメールやスケジュール、創作した「手紙」等の管理をし始めるが、次第に人間的な感情が芽生え、延いては性的興奮迄もする様に為る。そして、2人は恋に落ちて行くのだが…と云った物語で有る。

しんみりと心に染み入って行く感じのストーリーだが、本作品ではキャスティングの妙とロケーションが光って居る。

それは孤独な主人公を素晴らしい演技で演じるホアキン・フェニックスや、これも中々上手い演技のセオドアの親友を演じるエイミー・アダムズと、妻役の超可愛いマーラもそうなのだが、何よりも人工知能の「声」にスカーレット・ヨハンセンを起用した事だ!

個人的には、ヨハンセンのルックスは全然好きでは無い…が、彼女の「声」だけを聞くと、直ぐ彼女のそれと判る程個性的且つセクシーで有るが故に、人工知能が自ら人間化して行き、個性を持つと云う事にリアリティが見事に生まれて来るし、撮影が上海で行われたと云う事も、「近未来のロス」と云う本作の舞台に妙なリアル感を持たせている。

そして、この映画のストーリーは余りにも切ない。

それは、今迄人魚(「スプラッシュ」)やマネキン(「マネキン」)の映画作品で、所謂人間と人間以外との「愛」が描かれて来たが、この「Her」では、実体が無く全く触れる事の出来ない「声」、或いは「知能」に人間が恋をし愛すると云う、「究極のプラトニック・ラヴ」の可能性とその破局が描かれて居るからなのだ。

人が誰かを「愛する」には、何が「最低限」必要なのか?

「ヴァーチャル」全盛の今の時代だからこそ考えさせられる、切なさ一杯の作品で有った。


◎筆者に拠るレクチャーのお知らせ

●「特別展 京都 洛中洛外図と障壁画の美ー里帰りした龍安寺襖絵をめぐって」

日時:2013年11月16日(土):15:30-17:00

場所:朝日カルチャーセンター新宿教室

サイト:http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=220110&userflg=0

問い合わせ:朝日カルチャーセンター新宿教室(03-3344-1941)迄。


奮ってご参加下さい!