「アート」より「あんこ」。

今日のダイアリーは、書き忘れて居たギャラリー展覧会の事から。

先々週末の昼下がり、テクテクとチェルシーへと歩いて行ったのだが、ハロウィンには未だ2週間も有るのに、道をには海賊だの魔女だの、スパイダーマンだののコスプレイヤー達で溢れ返って居た。

良く考えると、それは近所のJavits Centerで開催されて居た「コミック・フェア」の所為で、しかしそう考えると、日本のアニメとコミックの外人への影響力は物凄い…日本の古美術や伝統文化も、これ位注目を浴びれば良いのに…と、深く溜息を吐く。

そんなコスプレイヤー達を掻き分け乍ら向かったのは、22丁目の「Leslie Tonkonow」。写真家杉浦邦恵の展覧会「Photographic Collage: 1977-1981」を観たのだが、30年以上前の作品とは思えない杉浦の新鮮な感覚に、先ずは驚く。

次に向かったのは、ヘルズ・キッチンのご近所さん「Sean Kelly 」。此処では「'Pataphysics: A Theoretical Exhibition」と「From Memory: Draw a Map of the United States」と題された2つのショウが開催されていて、前者はデュシャンやボイスから、アイ・ウェイウェイ、ロドニー・グラハム、カテランやオノ・ヨーコ迄、30人近いアーティストの作品を通して「空想科学」を考える大掛かりな展示。

が、筆者がより興味を持ったのは、実はもう1つの「合衆国地図」(→http://www.skny.com/exhibitions/2013-09-13_from-memory/)の方で、この展示は当時ニューヨークに住んでいた、高橋尚愛(ひさちか)と云う日本人アーティストの1971年から72年に掛けての「企画」に基づく物だ。

それは、高橋が手作りの和紙を当時活躍していた22人のアーティストに渡し、彼の純粋な「思い出」として、1人1人に「アメリカ合衆国の地図」を描いて貰うと云う企画で、描き上がったその22枚と高橋自身の作品の計23枚のドローイング、そして高橋のアーカイヴからの資料で構成されて居る。

その22人のアーティストの名を挙げれば、これが又何とも凄いメンバーで、ジャスパー・ジョンズ、ジョセフ・コスース、ブライス・マーデン、ジェームズ・ローゼンクイストロバート・ラウシェンバーグ、サイ・トゥンブリー、荒川修作、ゴードン・マッタ・クラーク、メル・ボックナー等を含んで居るのだが、彼らの描いた「アメリカ合衆国地図」は、何しろ作家の個性が前面に出て居て面白い。

例えばコスースの作品は紙の右上部と下左部に「⚪︎」を描き、各々「New York」「Los Angels」と書かれただけの物だし、ボックナーはそれとは反対に各州をかなり正確に描き、マーデンも「如何にもマーデン」な太いチャコールの重ね描き、と云った具合なので有る。

筆者は、この60-70年代のニューヨーク・シーンに存在した高橋尚愛と云う作家の事を何も知らなかったのだが、ショーン・ケリーの資料に拠ると、この人はラウシェンバーグとフォンタナのスタジオ・アシスタントで有っただけで無く、マッタ・クラークのレストラン、「Food」のシェフでも有ったらしい。

その当時、英語スキルを持った数少ない日本人アーティストの中の1人が、自分と同時代にニューヨークに居た最先端のアーティスト達が、「自国をどうコンセプチュアルに捉えるか」と云う事に就いて興味を持った結果の作品集だが、40年経った今此れ等を見直す意義は大きいと思う。是非観て貰いたい展覧会だが、残念ながら19日で終了…もっと早く書けば良かった(反省)。

と、此処迄はアート・ダイアリーだったが、実はこの後が今日の本題…此処から先は全くアートとは関係無い、しかしアートに勝るとも劣らぬ「男のロマン」の話題なので(笑)、悪しからず。

さて、一昨日からアメリカ国内の某都市に仕事で来て居るのだが、今回の旅に出る直前、鶴首して居た1冊の雑誌が日本から届いた。

その雑誌とは、「BRUTUS」(マガジンハウス)の11月1日特集号「あんこ好き。」!

この何とも素晴らしいタイトルの特集号は、「男が甘い物好きで、何が悪い!」的な、或る意味「逆ギレ・マッチョ・スイーツ企画」とも云えるが、「孤独のグルメ」の主人公井之頭の如き(拙ダイアリー:「機上の『孤独のグルメ』」参照)、「酒を一切呑まない、甘い物大好き男」のワタクシとしては、この特集号に涎が出ない訳が無い。

それには理由が有って、こう云っては何だが、筆者は今から30年前の大学生の頃、友人と「東京・甘い物百選」を編集し、自分で楽しむに留まらず、女子学生に売り付けたりして居た程の、「甘いもん数寄」で有った(笑)。

その百選は、例えば赤坂トップスの「胡桃入りチョコレート・ケーキ」や銀座マキシムの「ナポレオン」等の王道ケーキから、舟和の「あんこ玉」や鶴屋喜信の「黄身餡練切」等の和菓子、キャピタル東急ホテル内「オリガミ」の「ジャーマン・アップル・パンケーキ(ヴァニラ・アイスクリーム乗せ)」や、当時帝国ホテル内に在ったカフェ「さいくる」の「カッテージチーズ・パンケーキ」等のセレブ系、代々木駅前「赤い三角定規」の「 パフェ」や渋谷スペイン坂「人間関係」の「スコーン」等の喫茶店系迄をも網羅した、もう垂涎物のリストだったのだが、惜しくも今は残って居ない。

そんな大の甘党の上、錚々たるメンバーの各界の「あんこ好き」の方々に混じり、何と光栄にも巻頭の「100人のマイあんこ。」の1人(no.75)に選ばれたワタクシとしては、自分のお勧め「あんこ」が載って居ると云う嬉しさのみならず、他の99人の「マイあんこ」を知りたくて、本誌の到着をウズウズして待って居た事は、想像に難くないだろう!

さてこの「100人のマイあんこ。」に筆者が挙げた「マイ・ベスト3」は、地元神田神保町の老舗「亀澤堂」の「豆大福」、千葉県は市川の「京山」の最中「武蔵鐔」、そしてこのダイアリーにも度々登場する新宿のママちゃん中華料理店「玉蘭」の「餡饅」(此れ等を選んだ理由は「BRUTUS」参照)。

しかし上記の3つに絞るには、これはもう大変な苦労が有った訳で、他に最終候補に残った「マイ・ベストあんこ」を挙げれば、小中高の同級生T君が継いで居る上野「うさぎや」のどら焼き、敬愛するK氏が継承する京都最古の生麩屋「麩嘉」の麩饅頭、麻布十番「浪花屋総本店」の鯛焼き、地元「竹むら」の粟ぜんざいや「さゝま」の久寿桜、「たねや」の生水羊羹、「麻布かりんと」のかりんとまん、神楽坂「紀の善」の抹茶ババロア等だった。

しかもこの中で「紀の善」の「抹茶ババロア」はダークホースで、その理由はと云うと、この傑作スイーツ「抹茶ババロア」では「あんこ」は主役では無いが、恰もデ・ニーロ主演映画でのハーヴェイ・カイテルの如き超重要な脇役で有る。

そして、このプルプルモッチリとして甘過ぎない抹茶味のババロアを、十二分に引き立てて居るカイテル級存在感の有る「あんこ」の美味しさは、「あんこ」がシテでもワキでも演じられる万「能」役者的「甘味」で有る事を、見事に証明して呉れて居るのだ!

そう云った意味では、デザートが超充実しているホテル・ニューオータニの中華「大観苑」の「小豆入りココナッツミルク」も…と続けたいが、良い加減キリが無いので、今日はこれ位にして置いてやる(田中慎弥風に:笑)。

しかし、この特集のお陰で「食べたい」、そして「探したくなる」あんこが増える事、必然。

花より団子…もとい、アートよりあんこ(笑)。


◎筆者に拠るレクチャーのお知らせ

●「特別展 京都 洛中洛外図と障壁画の美ー里帰りした龍安寺襖絵をめぐって」

日時:2013年11月16日(土):15:30-17:00

場所:朝日カルチャーセンター新宿教室

サイト:http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=220110&userflg=0

問い合わせ:朝日カルチャーセンター新宿教室(03-3344-1941)迄。


奮ってご参加下さい。