エルトンへの感謝。

昨日、西海岸出張から最低気温5度のニューヨークに戻った。

素晴らしい作品を観、素晴らしいコレクターや学者達に出会った充実した数日間だったが、深夜の移動等の旅の疲れで、肉体的に疲労困憊。

が、出張中最後の食事(一昨日の夕食)に食べた、美人妻と共に何処と無くのんびりとやって居る、長髪で髭を蓄えた未だ若い日本人オーナー・シェフの握る寿司が非常に美味しく、翌早朝6時過ぎの迎えの車に乗るのもそう億劫では無くなったが幸い、到着したニューアーク空港からは、国際交流基金に勤める友人の送別会へと直行する。

さて、ニューヨークに戻る5時間半のフライトでは、毎度の事ながら碌な映画が無く、仕方なく「Short Program」のリストを見ていたら、懐かしいアーティストのライヴ・ヴィデオが2本入って居て、それはポール・マッカートニー&ウイングスの「Rock Show」と、エルトン・ジョンが昨年行なったイビザ島でのライヴで有った。

ポールとエルトン…「サー」の称号を持つこの71歳と66歳の2人のアーティストの音楽を、50年間の人生で何れ位聴いた分からない。だが、それは勿論「サー」やら「ナイト」やらの称号を貰う相当前の話で、この2人が「貴族」に為ったのを知った時には、「此奴等、本当に『ロック・ミュージシャン』なのか?」と憤慨し、蔑んだ物だ。

そして誰かが今の彼等を語る時には、「整形」や「金の亡者」、「ゲイ」や「色物」と云った形容詞が付き纏う訳だが、エルトンのこのライヴ・ヴィデオ「Elton John: Live in Ibiza 2012 feat. Pnau」を観て居て、エルトンとはやはり凄いアーティストで有ると云う事を再確認したのだった(勿論ポールも、だ)。

それは何故なら、このヴィデオでエルトンが1曲目に歌って居る「Your Song」を本当に久し振りに聴いて、不覚にも涙してしまったからだ。

「Your Song」(邦題:「僕の歌は君の歌」…しかし、何と可笑しなタイトルなのだろう!)は、言わずもがなのエルトン、いやポップ・ロック史上に残る大名曲で、個人的にはエリック・カルメンの「All by Myself」と共に、ほろ苦い(部分の)青春時代を思い出させる曲なのだが、バーニー・トーピンの歌詞の素晴らしさとエルトンの朗々とした歌声に、何時も感動を覚える。

その特に心を打つ部分が、この歌の最後の部分、

"How wonderful the life is while you're in the world."

これは、素晴らしい小説や映画を何十年振りかに読んだり観たりした時と同じ様に、青春時代に「こんなに単純な事」を気付かせてくれたこの曲を今この年になって再び聴いて、「いや、そうなんだ、全くその通りなんだよ…」と納得し、涙出来る程に素晴らしい曲だと云う事なのだ。

そう、エルトンの曲には何時も「愛」が溢れている。

そしてそれは、大好きな「Daniel」や「Sorry Seems to be the Hardest Word」、「Blue Eyes」や「Nikita」等を聴けば直ぐに分かるが、その彼の歌う「愛」が実は男性に「も」向けられた物だと云う事を知った時の衝撃は、未だ日本でゲイやバイ・セクシャルに関しての情報と認識が足りなかった時代の筆者には、図り知れず大きかったのだ。

が、そんなエルトンがローリング・ストーン誌で自らカミング・アウトをして、それでも「ナイト」や「サー」の称号を英王室から贈られた事実は、政界等ですら同性愛者のスキャンダルが出る英国のみならず、世界のゲイやバイ・セクシャル達に、或る意味「市民権」を得させたと云う功績も有るのでは無いかと思う。

そしてエルトンは、今でも「ピンボールの魔術師」的道化役を演じ続け、このヴィデオでも後半は自分の子分的バンドの持ち上げ役に徹して居たりして、嘗ての面影は無い…が、それでも「Your Song」を以てして、昨日再び「愛」の素晴らしさを教えてくれたエルトンへの感謝を込めて、今日は彼の歌う「愛」の歌詞を一部紹介してお終いにしたい。

その曲「The One」(→http://m.youtube.com/watch?v=85B_REWeNcM&desktop_uri=%2Fwatch%3Fv%3D85B_REWeNcM)は、エルトンが薬とアルコールの依存治療の為の更生施設から出てきた直後に発表した曲で、筆者が人生で初めてニューヨークに住んだ1992年、寂しさを紛らす為に毎日聞いて居た大好きな曲で有る。


And all I ever needed and was the one
Like freedom fields where wild horses run
When stars collide like you and I
No shadows block the sun
You're all I've ever needed
Baby you're the one


◎筆者に拠るレクチャーのお知らせ

●「特別展 京都 洛中洛外図と障壁画の美ー里帰りした龍安寺襖絵をめぐって」

日時:2013年11月16日(土):15:30-17:00

場所:朝日カルチャーセンター新宿教室

サイト:http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=220110&userflg=0

問い合わせ:朝日カルチャーセンター新宿教室(03-3344-1941)迄。