「ゴダール」と「クリントン」、必要なのは…?

仕事で体が疲れた時には、当然頭も疲れて居る。

なので、「ジョーカー」や「ジェイソン」、「ブギーマン」や「スクリーム」に扮した人達が街を闊歩して居た先週末は、体を休めながらも頭をリフレッシュさせる為に、ダウンジャケットを着込んで冷え込んだ街に出掛け、仕事に関わり無いアートに触れた。

先ずは映画。今月12日に終了した「第51回ニューヨーク・フィルム・フェスティヴァル(NYFF51)」の「オフィシャル・セレクション」は、以前此処で紹介した様にスパイク・ジョーンズの「Her」だけしか観れ無かったが、「監督特集」は未だ続いて居て、今回の「監督」は何とジャン=リュック・ゴダール

ゴダールと聞いては黙って居られないワタクシ…が、何しろ出張も多く忙し過ぎて、やっとスケジュールが合って観れたのは、「Hélas pour moi(ゴダールの決別)」と「Soigne ta droite(右側に気をつけろ)」の2本だけ…そして先に観た1993年度作品の「決別」は、実はビデオでしか観た事が無く、今回の35mmでの映画館上映を楽しみにして居たのだが、その期待は全く裏切られず、何しろ映像が凄まじく美しい!

恐らくは、ゴダールのステュディオが在ったスイスのレマン湖が舞台と為って居て、その「光」と「水」、場面転換の時に挿入されるアウト・フォーカス・カット、女、鳥と人の声のユニゾン、劇的な音楽、固定された人物、木立や家屋、そして若き日のジェラール・ドパルデュー迄、その全てが美しい。

話の方は、どうもギリシャ神話(ゼウスの浮気)が元に為って居るらしいが、2度観ても正直良く分からない。しかし最後の最後で、ドパルデューが役名の "Simon Donnadieu" とサインするシーンが有って、此処だけは予備知識が有ったのだが、このファースト・ネームの "Simon" が "Si mon"、そしてファミリー・ネームの"Donnadieu" が "donné à Dieu" を意味していて、要は "Si mon (corps) est donné à Dieu" (もし我が肉体が神に捧げられたら)と云う事らしい…相変わらず難解で困った物だが、極めて美しい映像は一見の価値が有る。

そしてもう1本の「右側に気をつけろ」。ゴダール本人も出演して居る1987年度作品だが、此方も訳の分からないコメディ・タッチのストーリーで、ドストエフスキーの「白痴」が1つのベースに為って居る事と、音と光、そしてイメージに関する映像だと云う事しか筆者には理解出来ない。

が、本作には極めて魅力的な2人の女性が出て居て、それが大いなる救いなのだが(笑)、先ず1人目は「Cicada」役を演じるジェーン・バーキン(拙ダイアリー:「フランス『っぽい』女優讃歌」参照)。この時バーキンは41歳…出番こそ少ないがその魅力は全く衰えて居らず、何ともアンニュイで可愛過ぎる!

そしてもう1人は「本人役」で出演し、巨匠ゴダールに拠って2枚目のアルバムのレコーディング風景を本作に収録されている、男女ポップ・デュオ・グループの「Les Rita Mitouko」のカトリーヌだ。

因みにこの変わったバンド名は、女優リタ・ヘイワースとゲランの香水「ミツコ」から取られて居るのだが、その「ミツコ」とは東京は牛込の骨董屋の娘、青山光子(1874-1941)、後にハンガリー貴族クーデンホーフ=カレルギー伯爵夫人と為った女性の事で、骨董目利き青山二郎の母の従兄弟に当たる…此れは閑話休題

それは兎も角、何しろ本作品の略全編に溢れる彼等の音楽と、ヴォーカルのカトリーヌ・ランジェの此方もアンニュイなルックスと「Un Soir, Un Chien」等での歌声がもう最高で、この「右側に気をつけろ」は、或る意味「Les Rita Mitouko」のPV作品と云っても良いのでは無かろうか?

と、以上読んでの通り「ゴダール」に就いて記して来たが、此処で今日の「ダイアリー・タイトル」を今一度思い出して頂きたい。

クリントン」と聞いて、元アメリカ大統領を想像した人は真面目な人、また「パンケーキの美味い店」や「ヘルズ・キッチン地区の新しい名称」を想像した人が居たなら、このダイアリーの通と云えるかも知れない。

が、残念ながら何方もハズレで、「孫一の事だから…」とファンクの大御所「Parliament」、或いは「Funkadelic」を想像した人が居たら大正解…このダイアリーでもお馴染み、「B.B.King」での「George Clinton & P-Funk All Stars」のライヴを観て来たのだ。

さてこの晩は、最近「実はファンク好き」と判明した若いカップルを誘ったのだが、夜8時開演とは云え、ファンク・バンドが定刻にライヴを始める訳も無く、通常開演時間から出て来る迄1-2時間待ちは当ったり前なので、「『ファンク』前と云えば、『焼肉』だろう!」とタイムズ・スクエアの「Gyukaku(牛角)」でたらふく食べ、時計を見ると9時半前。

「丁度良いんじゃ?」と、人が外迄溢れる程超満員のB.B.Kingに乗り込むと、何と演奏はもう始まって仕舞って居て、しかもステージに眼を遣ると、我らがジョージ・「クリントン」はサイケな格好でも七色のドレッドでも無く、普通のダブル・スーツに普通の髪型、帽子を被り、「司会者」みたいなオジサンに為って居てガックリ。しかし…しかし、彼の迫力有るヴォーカルと、入れ替わり立ち代りステージに登場するメンバー達の演奏は相変わらず凄かったのだ!

何しろジミヘンばりのギター(が、マイケル・ハンプトンに至っては「何らかの事情」で立って居られず、ステージにベッタリと座り込んで弾いて居た為、「勝新」的三味線奏者にしか見え無かった:笑)、タイトでヘヴィーなベースとドラムス、ボゴーダーを含めたキーボード(バーニー・ウォレル!)、そして何と云っても女性ヴォーカリスト達の実力が凄過ぎて、もう体が動くのを止められない。

Rakim等、数々のラッパーやヴォーカリストをゲストに迎えながら、「Dr. Funkenstein」や「Give Up the Funk」、そして「Knee Deep」等を、怪しげな煙が立ち込める中踊り狂う超満員の観衆が大合唱し、筆者も2時間踊り叫び続けた末、焼肉を食べ過ぎた罪悪感とそのカロリーをも見事に消化したのだが、序でにゴダールを観た後の哲学的言説や芸術的映像美迄、完璧に吹き飛ばして仕舞ったので有った…。

中学生時代からの「初期ゴダール・ファン」としては頂け無いが、疲労困憊の筆者が必要としたのは、ゴダールよりも圧倒的に「クリントン」の方だったのでした(笑)。


◎筆者に拠るレクチャーのお知らせ

●「特別展 京都 洛中洛外図と障壁画の美ー里帰りした龍安寺襖絵をめぐって」

日時:2013年11月16日(土):15:30-17:00

場所:朝日カルチャーセンター新宿教室

サイト:http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=220110&userflg=0

問い合わせ:朝日カルチャーセンター新宿教室(03-3344-1941)迄。