「パブロフの犬」的名碗観賞。

日本に来て、数日が経った。

来日の際、飛行機の席をアップグレードしたにも関わらず、強い向かい風の為に飛行時間が30分以上延びた事と、アップグレードした席が不運にも泣き続ける赤ん坊の真後ろだった事で14時間半略眠れず、極度の時差ボケが未だに治らない。

その体調不全な来日の翌朝、筆者がいの一番でした事はと云うと、他でも無い…雑誌BRUTUSの「あんこ特集」で筆者が「マイ・ベストあんこ」に挙げた、地元神保町の「亀澤堂」に「豆大福」を買いに行く事だった(笑)。

行ってみると、亀澤堂の店頭には「BRUTUS『あんこ特集』で、当店が取り上げられました!」との看板が出て居て、微笑ましくも、何故か自分も誇らしい気持ちに為る(笑)。そして早速店に入り、豆大福を買おうとすると、その隣に何と「新商品」が並んで居るでは無いか!

それは「豆大福・こしあん」で(亀澤堂の通常の豆大福は「粒あん」で有る)、オヤジさんに聞くと、BRUTUSで取り上げられて以来30代男性の客が増え、「諸般の事情」で「こしあんヴァージョン」を作ったとの事…勿論早速買って食したが、「こしあんヴァージョン」もマジ美味しいので、是非お試し有れ!

そんなあんこ物以外にも、旨い寿司屋「S」や洋食「O」、蕎麦処「M」等で英気と体重を養いながら、時差ボケの中重要顧客に会い続ける中、先週末は朝日カルチャーセンターで講座を開催。

ボストン美術館展」「白隠展」に続き、朝カルでの3回目の講義と為った今回は、現在東博で開催中の「京都展」の関連講座として、本展に展示中の筆者が「里帰り」させた龍安寺襖絵(拙ダイアリー:「里帰りする『襖絵』」参照)を中心に、美術品の「在るべき場所」や「日本美術品の『流入』」等に関して、90分間話させて頂いた。

そして今回も拙ダイアリーの読者の方を始め、編集者やギャラリスト、主婦や学生さん迄多くの方に聴講して頂き、和気藹々な楽しい講義と為った。

この場を借りて、来て頂いた方々に深く御礼申し上げます…有難うございました!

その日の講座後の夜は、アーティストやギャラリスト等の友人達と、ニューヨークの藤高晃右君が関わった、新丸ビル7Fで開催していた在米日系人アーティストの展覧会「Japanese Artists in New York」の音楽イヴェントへ。が、音楽そっちのけで観た照屋勇賢氏の作品「Cut Up Price」がかなり気に入り、欲しく為る…もう病気だ(笑)。

翌日曜は顧客に会いながら、その合間に筆者の様な「茶碗ラヴァー」には垂涎物の、桃山期から現代迄の「名碗」達に会いに都内4館の美術館へ…なので、以下は学術的重要性等はさて置き、その4つの展覧会で個人的に「欲しいっ!」と思ったモノを記して行くので、悪しからず。

先ず訪れたのは、五島美術館。現在開催中の「光悦 桃山の古典」展では、光悦の書状や和歌巻下絵、そして蒔絵や茶碗等、光悦所縁の品々所狭しと出品されているが、「不二山」(門外不出だから仕方無いとも思うが、やっぱり本展で観たかった…)と「加賀光悦」が出て居なかったのが残念至極。

が、素晴らしい作品も勿論多く、「欲しいっ!」と思ったのは、例えば重文の「群鹿蒔絵笛筒」(あんな細い蒔絵曲面に、あれだけ繊細な青貝、金、鉛を象嵌とは恐れ入る)とやはり何度観ても素晴らしい「乙御前」、そして「祇王」。

次に向かったのは根津美術館で、此方は「戦国武将が憧れたうつわ 井戸茶碗」を開催中。

この展覧会は茶人千宗屋氏も図録に文を寄稿して居る、何しろ物凄い展覧会で、筆者に至ってはもう目移り激しくも「パブロフの犬」の如く、涎ダラダラ状態(笑)…しかし、これだけの数の「井戸茶碗」が一堂に介し、ジックリ観れる機会は空前絶後では無いか!

さて、元来「高麗茶碗」好きの筆者としては、本展で「欲しい」茶碗を選ぶのも大変だったのだが、強いて挙げれば大井戸では静嘉堂文庫の「越後」と北村美術館蔵の「雨雲」、小井戸では泉屋博古館六地蔵」と個人蔵「はつ霞」(「老僧」は出て居なかった…残念!)、青井戸ではMIHOの「少庵」と云った処。そして個人的に「俺は『小井戸』が好きなんだなぁ…」と実感したのも発見だった。

頭の中でその小井戸を掌に包み込み、口辺に優しく口を付ける…あぁ、何と云う快感…それにしても、欲しい…「お前」が欲しいっ!(笑)

井戸茶碗に後ろ髪を引かれ、垂れる涎を拭きながら青山を後にして向かったのは、虎ノ門菊池寛実記念智美術館での展覧会、「現代の名碗」だ。

此処には、より現実的な(笑)「欲しいっ!」茶碗達が並んで居たが、其の中でも金重有邦作「伊部茶碗」と当代楽吉左衛門作「焼貫楽茶碗 銘 望舒」、そして三輪壽雪「鬼萩花冠高台茶碗 銘 命の開花」が断トツに素晴らしい。井戸よりほんの少し現実的な(値段の)現代茶碗だけに、展示を観る筆者の目の色も変わって居たに違いない(笑)。

そして閉館ギリギリに飛び込んだこの日の「トリ」は、三井記念美術館の「国宝『卯花墻』と桃山の名陶」展。

この展覧には筆者に御馴染みの茶碗も出て居て、その意味では再びリアルに「欲しい!」作品も有ったのだが、其の中でも矢張り国宝志野茶碗「卯花墻」は外せず、更に鼠志野檜垣文茶碗「銘 さざ浪」や「織部幾何学文沓茶碗」も堪ら無い!

はてさて、4館に並んだ「欲しい」名碗達のお陰で、丸1日お預けを食ったパブロフの犬の如く、涎は枯渇し、口内がサハラ砂漠並みに乾き切ったワタクシ。

仕事も終え、家に戻って大好きな「たねや」の栗あんこ菓子「栗子みち」を頂き、カラカラに為った喉を潤す為に、美術館で観た名碗には程遠いが、しかし「オキニ」の茶碗で一服点てて頂いた…そして、そのお茶の美味しかった事!

欲し過ぎる「名碗」達のお陰の、至福の週末でした。