謹賀新年。
人生51回目の今年の新年は、日本で迎えた。
正月恒例の家族食事会、神田明神での昇殿参拝を済ませると、日本滞在最終日2日の夜は銀座で、文化人類学者のM氏とトリュフや高麗人参等の「フレーヴァード小籠包」を頬張り乍ら、夢や呪い、「コックリさん」に就いて話す。
そして漸く長期出張から、スノー・ストーム直後の極寒（マイナス14度！）のニューヨークに帰って来た…と云う事で、正月早々訳の分からんダイアリー・タイトルかも知れないが、今日は日本での最後の日々に観た、2本の映画作品に就いて。
先ずは、昨年の「第51回ニューヨーク・フィルム・フェスティヴァル」で観たくて観たくて仕方なかったにも関わらず（拙ダイアリー：「NYFF51ダイアリー」参照）、チケットがどうしても取れずに叶わなかった、ジム・ジャームッシュ監督の新作「Only Lovers Left Alive」。
本作の主演は、大好きな「怪優」ティルダ・スウィントンと、ウディ・アレンの「ミッドナイト・イン・パリ」でスコット・フィッツジェラルドを演じて居たトム・ヒドルストン、そして脇を固めるのが名優ジョン・ハートだ。
その主人公達は、中世以来数百年の年月を生きながら、シェイクスピアやヘンデルと云ったアート・シーンのスーパースターの影で暗躍し、21世紀の現代に於いては人間を「ゾンビ」と呼びながらも、静かに、そして密かに暮らす知的なヴァンパイア達。
そしてその舞台と為る街は、「流石、ジャームッシュ！」なデトロイトとモロッコ…朽ちて行く街程、ヴァンパイアに相応しい生息地は無いのでは無いか…。
ネタバレに為るので詳しくは記さないが、これも如何にもジャームッシュな、相変わらず静かに進む奇妙な「ラヴ・ストーリー」（主人公2人の役名も、「アダム」と「イヴ」だ！）と陰鬱なシブい音楽、医師役のジェフリー・ライトの台詞に鏤められた過去の名作へのオマージュ迄、全く気（と、眼と耳）の抜けない本作だが、光るのは矢張りスウィントンの存在だろう。
スウィントンは、鬼才デレク・ジャーマンに見出された英国女優だが（英国女優、万歳！…拙ダイアリー：「国の宝」&「フランス『っぽい』女優讃歌」参照）、ハイ・ファッションで非常に知的な上に、何しろ摩訶不思議な雰囲気の魅力を持って居て、その役柄は今回のヴァンパイアや大天使ガブリエル（「コンスタンチン」）、魔女（「ナルニア物語」）のみ為らず、リアルな役柄でも何処か両性具有的で、現実離れした美しさと透明感を持つ、稀有な女優なので有る！
美しくも孤独な、そして徐々に追い込まれて行く吸血鬼カップルの物語…スタイリッシュな秀作で有った。
そしてもう一作は山田兼一原作、市川海老蔵主演の田中光敏監督作品「利休にたずねよ」。
千利休には市川海老蔵、その妻宗恩に中谷美紀、大森南朋が秀吉を演じ、脇も長次郎を柄本明、古渓宗陳を中村嘉葎雄、そして映画での父子初&最後の共演と為った故市川團十郎丈が武野紹鴎を演じる、重厚なキャストだ…が、劇中、彼らが実際に手にする「本物」がまた凄い。
先ずは何と云っても「茶碗」…楽家所蔵の長次郎の黒楽「万代屋黒（もずやぐろ）」を始めとし、同じく長次郎作品の赤楽「小手巻（おだまき）」、三井家伝来の井戸茶碗「春日」や熊川茶碗「山路」。
その上茶杓も利休作、ロケーションも今日庵や南禅寺、大徳寺や園城寺等の「本物」が使われ、作品に重みを付けたが、劇中光ったのは海老蔵の所作だ。
海老蔵の茶道所作の指導には、武者小路千家家元後嗣の千宗屋氏も協力されたと聞くが、海老蔵のそれに対する努力は並大抵で無かったに相違なく（恐らく勘も良いのだろう）、その後本人も道具に興味を持ち始めたとも聞くが、それも然も有らんで有る。また余談だが、その千氏自身も某役で出演されているので、氏を映画の中で見つけ出すのも一興かも知れない。
さて、劇中利休が秀吉に対し「私が額付（ぬかづ）くのは、『美』だけで御座います」と云う。
また「Only Lovers…」のアダムは、名作ギターのコレクションをして居るし、音楽やインテリアの趣味も非常に煩く、不純物の無い「最上級の『血』」を高額を払って入手する。
古今東西、そんな美の追求は常に「魔道」で有り、それは美術品や女（男）、趣味、生き方等、全てに於いてナルシスティックで究極的、時に退廃的・破滅的ですら有る…その意味で「吸血鬼」と「茶の湯者」は、美の「求道者」として似ているのでは無いか？
で、こんな物語を思い付いた。
桃山時代のキリシタン大名が、ヨーロッパから来た実はヴァンパイアの女性に恋に落ち、本人もヴァンパイアと為ってしまう。そして名物茶道具を蒐める傍ら、表向きはキリシタンながら、キリスト教反対勢力と結託し、血を井戸茶碗で回し飲みし乍ら「吸血茶の湯者」に為って行くが、最後はヴァリニャーノ等に成敗されて仕舞う…でも、一寸「魔界転生」入って仕舞って居るかな？（笑）
と云う事で、本年も何卒宜しくお願い申し上げ奉りまする。
