不安を抱かせる「アート・フェア」。

相変わらずの時差ボケに悩みながら仕事をこなして居るが、こんなに寒いのにニューヨークは何と今週末から「夏時間」…そして今週末は、イヴェントも多い。

その木曜日…先ずは「Asian Art Week」の先陣を切る、柳孝一氏のギャラリー・オープニングへマヨンセと。

柳氏には珍しい19世紀浮世絵の抱亭五清・五龍共作の屏風一双、盧雪や狩野山楽の掛物、鎌倉期の持国天像等が展示された店内で、ニューヨークの日本美術に関わる常連達と歓談する。

その後は、其処で偶然会った友人のアーティストT君と共に、チェルシーのMiyako Yoshinagaへ、いざ!…日本からのアーティスト、流麻二果さんの個展「Line of Sight」のオープニングで有る。

吉永美也子さんは、日本人として唯一チェルシーで画廊を「長く」続けて居るガッツ有る女性で、その昔裏千家ニューヨーク所長だったの故山田尚先生を通して知り合ったのだが、その美也子さんの画廊で、これまた仲の良い麻二果さんの作品が観れる悦びは大きい。

ギャラリーに行ってみると、セクシーな色使いとブラッシュストロークも鮮やかな麻二果さんの作品が、集まった客達を魅了する。展示作品中には、最近資生堂の「花椿」に掲載された大作も含まれて居るが、これは作家中村文則氏の小説とのコラボ企画に使用された作品。

そのコラボ・ページは、掲載された「花椿」中でもとりわけ美しいページだと思うのだが、この企画も僕らの友人の資生堂クリエイティブ・ディレクター、高橋歩氏とも出会いが切っ掛けに為って居るので、人と人との出会いは当に面白い。

レセプション後は、近所のイタリアンで美也子さん主催の食事会…麻二果さんを囲み、キュレーターやコレクター達と非常に楽しいひと時を過ごした。

漸くの春の訪れを感じさせた土曜日は、時差ボケと腰痛で優れない体を引きずって、先ずはジャパン・ソサエティ・ギャラリー・ディレクター、手塚女史の解説付きツアー@「Armory Show」。

レクチャー後は、マヨンセと一通り会場を観たが、Galerie Daniel Templonが出して居たヤン・ファーブルのマーブル彫刻と、Whitestone Galleryの具体の展示を除くと、Modernも含めてハッキリ云って目に止まる作品も少なく、全体的に元気が無い。展示作品も作家の方向性が定まらず、中途半端な物ばかりに思える。

また「アートフェア東京」と日程が重なった所為か、日本のメジャーな現代美術ギャラリーが出展して居らず、寂しい限り…経費の事も有るだろうが、此処でも一寸「内向き」感を感じて残念。

PIER 94 & 92を出て今度はチェルシーへ行き、先ず向かったのはhpgrp galleryで開催中の「New City Art Fair」…此方は小山登美夫ギャラリー等、日本からの現代美術画廊がブースを出しているフェアだが、此方も「ウーム…」と云った感じで、どうも気持ちが乗らない。

其の後はPace Galleryで開催中の、「Mingei: Are You Here ?」と云う不思議な「現代美術『民藝』展覧会」やSonnabendを観、今度はソーホーでのフェアに移動…マーサー街でやって居る「VOLTA NY 2014」だ。

此方には日本からのギャラリーの出展も幾つか有ったが、一寸気に為ったのは帝塚山ギャラリーのタムラサトル作品。一寸不思議な魅力の有る「機械仕掛け」の作品群で、微かな火花を散らす作品等、こう云っては何だが「高級な工作」感が面白い。

また、夕食前に立ち寄ったチェルシーの「Independent Art Fair」も、ブースが仕切られて居ない所は展覧会的で面白かったが、作品のクオリティはイマイチ。

総じて今年の「アート・フェア」はイマイチ感一杯で、全体的にパワー・ダウンも甚だしいと云うのが、筆者の正直な感想だ。秀でたアーティストが中々居ないのは承知の上だが、カッティング・エッジなパワフルで面白い作品・アーティストが皆無では、如何ともし難い…。

と思って居た所、チェルシーの「B」で夕食を共にしたVictoria's SecretのデザイナーAが、レキシントン街で開催されて居る「Fountain Art Fair」が面白かったと云う。そして、この晩このフェアが深夜までパーティーをやって居ると云うので、騙されたと思って覗いて見たら、これが何と今回観た中でも最もパワフルなフェアで有ったのだ!

正直、買いたい作品が有った訳では無いし、韓国系のギャラリーが多過ぎる嫌いも有ったが、それはアーモリーも同じ事(中国セクションが有る)…だがこの「Fountain」には、「アートは『自由』で有るべし」と云った当たり前のパワーが、文字通り「泉」の如く溢れて居る様に感じた。

「売れ線狙い」すらハッキリしない作品と、適当な所でお茶を濁すアーティストで溢れて居た気がする今春のアート・フェア…客もその点正直だから、盛り上がりに欠けるのも仕方の無い処だろう。

アートフェア東京」の結果も気に為るが、ニューヨークの今回のこんなフェアを観て、現代美術の「今」に結構な不安を抱いて仕舞った週末でした。