黄昏の茶会、深夜の歌会。

突然だが、今気に入っているバンドが居る…その名は「Echosmith」。

このEchosmithは2009年にロスで結成された、女性ヴォーカルとギター・ベース・ドラムスの男性3人の4人組バンドだが、その一寸80年代ニュー・ウェーヴっぽい懐古的なサウンドとギターの音、そしてメロウなヴォーカルと非常にイマっぽいテイストが加味されて居て、心地よいオシャレな音楽に仕上って居ると思う。

後で知って驚いたのだが、このEchosmithのバンド・メンバーは何と全員「兄妹」で、長男で有る21歳のギターを筆頭に、18歳の次男がベース、ヴォーカルが17歳の長女、そして15歳の三男がドラムスだと云う…流石のコンビネーションの筈だ。

現在ヒット中の曲は、「Cool Kids」(→http://m.youtube.com/watch?v=SSCzDykng4g)…そのサウンドは若々しくは有れども、決して子供っぽくは無いので是非御一聴有れ。

さて「Asian Art Week」は先週金曜日に終わり、結局クリスティーズは4日間開催された6セールで、$43,480,025(約47億4000万円)を売り上げた。

今秋のトップ・ロットは明時代の七宝深鉢で、30万ー50万ドルのエスティメイトに対し、何と262万9000ドル(約2億8670万円)での落札…中国景気は相変わらず、で有る。

そんな先週末は、チェルシーに在る現代美術家杉本博司氏の茶室「今冥途」で催された、武者小路千家ニューヨーク支部「随縁会」の設立5周年+「今冥途」開設3周年の記念茶会にお呼ばれ。

僕ら地獄夫妻がご一緒したこの日の最終組は、6時からのスタート。相客はコロンビア大学で平安文学を教えるシラネ教授や、メトロポリタン美術館日本美術学芸員ジョン・カーペンター氏、ギャラリストの吉井氏夫妻等の総勢9名…シラネ教授が畳上で正客と為り、お茶がそろそろと始まった。

その前の回まで、暑さの為に降ろされて居たと云う茶室のブラインドは全て開け放たれ、大きな窓の外には少しずつ暮れ行くチェルシーの街並みや、ハドソン河で放水する水上警察の船などが見える。

眼を茶室の方に移すと、寄付の床には杉本氏のヴェニスでの新作「サンタ・マリア・デル・ジリオ」が掛かり、その下には何かガラス蓋の付いた箱の様な物が…。

そして本席の床には、利休から織部に宛てた消息軸が掛かり、その下には古銅花入に時の花。釜は霰らしく水指は黒田泰造、茶入れは見覚えの有る「野風」、茶杓は道安の作との由。

名古屋は「すや」の栗羊羹を頂き、千宗屋若宗匠が静かにお茶を点てた主茶碗は、杉本氏が最近見つけた雨漏手っぽいタップリとした呉器割高台(命「銘」はこれかららしいが、その肌合いの類似から「M」と名付けると云う噂も…)、替はルーシー・リーの黄釉茶碗銘「古月」。

時と共に陽が傾くと、窓外は赤く彩られたマンハッタンとハドソン河へと変わり、茶室内も何とも云えぬ良い雰囲気と為る。

お隣に座った杉本氏に「吹雪も良いけれど、夕暮も素晴らしいですねぇ…」と、3年前の「今冥途」の茶室披きの日の事(拙ダイアリー:「雪の日に、茶事をせぬは…」参照)を思い返しながら語り掛けると、氏は一言、「人生の黄昏時にピッタリな、これぞ所謂『トワイライト・ゾーン』ってヤツだな」と笑って応えられた。

そうして黄昏時の茶会は無事終了し、道具拝見の段に為ったのだが、其処で驚愕の事実が…先ずは本席の床の利休消息の日付が、何と「9月20日」だった事。この茶会が行われたのは9月19日、日本時間では既に20日だったからだ!

もう1つの驚きとは、上に記した寄付の床に置かれて居た「箱」で、そのガラス蓋を開けると、中には何とも可愛らしい「天使」が横たわって眠って居るでは無いか…そして杉本氏が徐に箱脇のゼンマイを回すと、アンドリュー・ロイド・ウェバー作曲の「メモリー」(「Cats」)が流れ始め、天使の首が少し持ち上がると、その目をユックリと開き、暫くするとまた目を閉じて頭を落として行ったのだった!

何と良く出来たオルゴール、いや「オートマタ」と呼ぶべきか…この天使の動きは計算し尽くされ、且つ美しく優美で、然も何処と無く生々しくてセクシーだ。聞くと、氏がほんの数日前に蚤の市でウン百ドルで買って来たそうな…蝋人形から始まり、文楽やラヴ・ドールと最近「人形」に凝っている氏の直近の「成果」で有った。

茶会の後はギャラリスト夫妻と4人でミッドタウン・イーストに向かい、かなり美味しい中華「M」でたらふく頂いたのだが、ふと携帯を見るとテキスト・メッセージが入って居て、それは「歌会」のお誘いだった。

「歌会」と云っても、和歌や連歌の類いでは無い…コリアン・タウンに在る日系カラオケ店での、風雅且つ高貴な「歌会」の事だ(笑)。

そして10時過ぎ、「歌会」は僕を含む5人のメンバーで始まり、「Let's go 陰陽師」から梓みちよ、「ヨイトマケ」や「雪の華」、AKBや「討入り」を経て、最後は「傘がない」や「ハイ、それまでよ」の「『骨董』版替え歌」迄、日付けが変わるまでタップリと続いた。

黄昏時の美しい茶会と、深夜の楽しい歌会を堪能した「メモリー」深い(笑)1日と為りました。


PS:その翌日、「傘がない」の替え歌歌詞が送られて来た…その成果は今年のクリスマス・イヴに。