NYFF52ダイアリー:クローネンバーグの新しい地図、「Maps to the Stars」。

9月も何と今日で終わり…。

今年も既に3/4が終わって仕舞ったなんてとても信じられないが、そんな先週金曜の夕方、中西部への出張から帰って来た。

が、中々疲れが取れない…その最大の理由は「年」に相違無いが、もう一つには、我ながら未だ信じられない事ながら、遂に始めた「炭水化物ダイエット」が有るやも知れない(笑)。

これは先日お茶会で久し振りに会ったギャラリストY氏が、以前より可也りスマートに為って居て、その秘密を尋ねた時の答えが「炭水化物を止めただけで、18キロ落ちたんだよ」だったから…僕はそれに完璧に感化されて仕舞ったので有る。

この「ロー・カーボ・ダイエット」、実際やり始めて未だ1週間も経って居ないのだが、確かに体重は落ち、然し野菜・肉・魚は確り食べて居るので、大好きな「おかき」や「デザート」を食べられない以外は(お抹茶を飲む時のお菓子だけは頂く)、それ程不満は無い。

はてさて何時迄続くか乞うご期待だが、結構真剣なので知人友人の皆様にも、真摯なご協力をお願いしたい(笑)。

さて本題…先週末の動向はと云うと、フィリップスの写真セールの下見会を観に行ったり、SPに取り巻かれる客の横のテーブルで、日頃彼女の父親も相当な数のSPに取り巻かれて居るで有ろう友人、顧客夫妻やアーティストと「MAD(Museum of Art & Design)」に入って居る「Robert」で、皆が美味しそうなパンをパクパクと食べるのを横目で見ながらブランチしたりと色々有ったが、何と云ってもメイン・イヴェントは「NYFF52:第52回ニューヨーク・フィルム・フェスティヴァル」。

毎年この頃開催される「NYFF」は、何しろ世界から選抜された質の高い映画が一度に観れる素晴らしい機会なのだが、それと共に会場に現れるセレブの姿や上映後の監督との質疑応答を楽しんだり、そして何よりも、ニューヨーク市民の中でもハイ・エデュケーショナルな人々が映画を楽しむ、お祭り的で華やかな雰囲気を満喫出来るのが素晴らしい!

…とは云う物の、映画業界関係者でないワタクシに取っては、観たい映画の上映日時が自分の空き時間と中々上手く合わない訳で、儘ならない。が、今回先ず幸運にも観る事が出来たのが、デヴィッド・クローネンバーグ監督の最新作「Maps to the Stars」で有った!

リンカーン・センターに趣き、超満員のアリス・タリー・ホールに入って座ると、暫くしてフィルム・コミッティの女性が登場、クローネンバーグ監督と脚本家、製作者達、そして主演のジュリアン・ムーアを紹介する。

そうして彼らの挨拶後始まった本作は、ネタバレに為るので詳しくは書かないが、著名作家&スクリプト・ライターで有るブルース・ワーグナーとクローネンバーグのコンビに拠る、ハリウッドの映画・ドラマ業界を皮肉り倒しながら、セレブな業界の家族の日常に萌芽する「狂気」を鏤めた、クローネンバーグ「らしい」作品に仕上がって居たのだ!

主演は、母親に強烈なコンプレックスを持つ、売れなくなった女優にジュリアン・ムーア、セレブ御用達のいかがわしいトレーニング・コーチにジョン・キューザック、そしてその娘役に最近メキメキと才能を開花させ続けて居る、ミア・ワシコウスカ…そして、何しろムーアとこのワシコウスカの演技がスゴい。

僕に取ってムーアは、数居るアメリカ女優でも最も好きな女優の1人なのだが、この役で今年度カンヌ映画祭の主演女優賞を獲得したのだから、その演技も素晴らしいに決まって居る。

そして未だ24歳のワシコウスカの演技は、僕に取ってはジャームッシュの「Only Lovers Left Alive」(拙ダイアリー:「吸血鬼と茶の湯者」参照)以来だったのだが、例えば「Stoker」や「The Kids Are Alright」(ムーアとの共演!)で見せた、超繊細な演技力は天才的の一語…何れ近い将来、彼女は間違い無くアカデミー賞を取る事だろう。

また重要な脇役として出ているのが、クローネンバーグの前作「コズモポリス」(拙ダイアリー:「サイバー・キャピタル、ロスコ・チャペル、そして狂気」参照)で主役を務めたロバート・パティンソンで、前作ではストレッチ・リムジンの「リア・シート」で中国株を操作したり愛人を抱いて居たりした彼が、今度はストレッチ・リムジンの「運転席」に座る運転手役…如何にも「クローネンバーグ組」らしい、粋な図らいでは無いか(序でに、美しきサラ・ガドンも出演して居る!)。

ところでこの「Maps to the Stars」には、実は根底に流れる一筋の道が有って、それは或るフランス詩人の「詩」で有る。

劇中、いかさまトレーニング・コーチの息子でTVスターの息子が、親に隠れて読んで居る詩が、レジスタンスの闘士でダダイズムとシュール・レアリスム運動の立役者の1人、ポール・エリュアール(1895-1952)が第二次大戦中に書いた「自由」(「Liberté」→http://www.geocities.jp/oshimahakkou/nenpu/jiyu2.html)で有る事は、絶対的に無視出来ない。

そして本作のタイトルで有る「Maps to the Stars」は、ロスに行った事の有る人ならご存知の通り、バス・ツアー等で入手出来る「スターの邸宅を記した地図」の意味を持つのだが、同時に「『死』、或いは『自由』への道程」の地図をも意味する。

真骨頂で有る「日常に潜むエクストリームな狂気」を、ワシコウスカとムーアの凄まじい演技で描いたクローネンバーグの新しい「地図」…是非ご覧頂きたい。