「和」と「洋」、そして「男3人」の歌声。

おいおい、気が付けば今年ももう1ヶ月切ってるじゃないか…責任者出て来い!

とか云って居る間に、健さんに続いて文太さんが亡くなって仕舞った…81歳だった。これで本当に「映画スター」の時代と「昭和」が終わった気がする。長身痩躯のインテリで、下駄を履いて歩いて居た文太さん…「仁義なき戦い」を心底愛する文太ファンの1人として、ご冥福を心よりお祈りする。

そんな先週末は、和洋の全く異なる種類の「歌声」を楽しんだのだが、先ずは「洋」と云う事で、土曜日に向かったのは久々のサントリー・ホール…ホセ・カレーラスのコンサート「郷愁」で有った。

「Three Tenors」も観て居ない僕に取っては、このカレーラスのコンサートは必見も良い所で、何故ならカレーラス白血病を患って以来、彼の年齢の事も有って、今迄のマイルス・デイヴィスやJB(ジェームズ・ブラウン)の時の様に「(縁起でもないが)気が付いたら、一度もライヴを観る事の無い侭死んで仕舞って居た」と云う事態を避けたかったからだ。

サントリー・ホールに行ってみると、少々空席は有った物の、着飾った女性客で一杯。然しこの光景を見て思ったのは、この価格帯のチケットを買って来る女性達の旦那さんや彼氏は、この日この時一体何処で何をして居るのだろう…?と云う事だった(笑)。

そして、カレーラスの出身国で有るスペインの歌曲をフィーチャーして始まったコンサートは、最初の数曲が不調で、正直「ホセ、大丈夫か?」と思わせた物の、その後は段々調子が出て来て、コンサートの後半から5曲を超えたアンコールに掛けては、カレーラスは実に美しくも力強い歌声を披露し、流石!なコンサートと為った。

そんな「洋」の歌声を満喫した翌日は、今度は「和」…僕が向かったのは、矢来能楽堂で開催された「第7回 広忠の会」。

葛野流大鼓の亀井広忠師の個人会で有るこの会は、観世・宝生・喜多の各流派の能楽師をフィーチャーし、その各流派からの若手実力派シテ方を揃えての3回連続公演だったが、僕が行ったのはその真ん中の第7回。

そしてこの日僕が最も感動したのは最初の演目、宝生流シテ方辰巳満次郎師と亀井師の「一調」、「三井寺」で有った。

この「三井寺」の謡は非常に難しい謡だと思うが、満次郎師はこの「三井寺」を情緒たっぷりと謡い上げ、亀井師の緊迫した大鼓とのコラボは、ピアノ伴奏で朗々と歌うカレーラスのパフォーマンスに勝るとも劣らない物で有ったのだ!

西洋歌曲と謡曲の発声法等は、当然全くの別物に違い無い。がしかし、素晴らしい歌(謡)い手に拠るハイ・クオリティな歌曲と謡が与える感動は、全く同等に聴く者の心に響くので有る。これこそ、古今東西の「最高品質芸術」に共通する、所謂「感動の『琴線』」なのでは無かろうか。

そんな「和と洋」の感動の歌声を堪能した週末を過ごした後の月曜日の夕方は、雑誌「婦人画報」で連載中の「謎の料亭 味占郷」の撮影にお邪魔する。

さて、一見僕には全く関係の無いこの雑誌撮影に伺った理由は2つ有って、それはこの「味占郷」のご主人と女将を存じ上げて居る事と、この回のゲストで有った作家ご夫妻と親しくさせて頂いて居るからだったのだが、僕のこの日の幸運は「味占郷」の美味しい料理のご相伴に預れた事。

そしてその後は、残ったメンバーで単なる憂国飲み会と為ったのだが、最終的には料亭主人、作家氏と僕の「男3人」で、今年のクリスマス・カラオケ忘年会で料亭主人と披露する事に為って居る「替え歌」の練習を兼ねた「自宅カラオケ」と為り、各人の熱唱とその合間に交わされた芸術・憂国談義で、夜半前迄盛り上がったのだった。

結果、折角聴いたホセ・カレーラスと辰巳満次郎師の美声の余韻は見事に吹っ飛び、脳裏にこびり付いて残ったのは、40・50・60代の酔った素人男性3人(正確には酔って居たのは2人で、1人素面)のシャウトし捲くった歌声のみ…。

あーあ、で有る(笑)。