「インターステラー」とポゴレリッチから届いた、異次元への「招待状」。

戦後最低の投票率と為った、総選挙の結果が出た。

これで与党は全議席の2/3を取った訳だから、投票に行かなかった人及び自民に入れた人は、今後この「独裁政権」が憲法改正集団的自衛権行使による出兵をしても、景気が悪くなっても消費税が上がっても、原発事故が起きても、絶対的に文句を云えない立場に為った事を自覚して下さい…その点、僕は文句云えますからね。日本沈没です…もう知りませんよ(涙)。

で、此方はと云うと、先週木金曜日にクリスティーズの東京オフィスで開催された、「エルズワース・コレクション」の下見会が無事終了した。

今年の夏に惜しくも亡くなったボブ・エルズワースは、アメリカきっての東洋美術ディーラーで、1フロア全部を占める、26部屋も有る5番街瀟洒なアパートメントに住み(僕が人生で、唯一「道に迷った」事の有るアパートメントだ!)、大好きなタバコと酒、そして美術品に囲まれて生きた、映画スター並みにルックスの良い、慈善精神溢れる人だった。

来年3月のエイジアン・アート・ウィーク中のクリスティーズ・ニューヨークでは、5日間に渡り彼のコレクションセールが開催され、2000点以上が売却される予定…乞うご期待で有る!

そんな忙しい一週間だったが、前回お伝えした「白波五人男茶会」(笑)の翌日は、代官山の女王改めベルナール邸での鍋ディナーに参加。

この晩は女王、かいちやうの他に、以前ニューヨークでお会いした舞台演出家M氏を始め、建築家I氏、前夜に続き18時間振りの再会と為った陶芸家U氏、コレクターY氏、世界を飛び廻る植物ハンターのN氏と云う、超個性的な顔触れ。

そしてこの会は、小学生時代の夢が「裏千家の家元」に為る事だったと云う(笑)M氏対かいちやうのバトル(?)が繰り広げられ、その後さっくりと茶箱でのお茶が行われた末、深夜1時過ぎに終了。流石の僕も、連夜の長丁場でお疲れ気味です。

さて此処からが本題。今日は最近観て聴いて来た素晴らしい映画と音楽の話で、先ずはその内の音楽から…昨晩初雪の降ったサントリー・ホールで聴いた、伝説のクラシック・ピアニスト、イーヴォ・ポゴレリッチだ。

今年56歳のポゴレリッチは、22歳の時のショパン・コンクールで本選に行けなかったのだが、当時審査員だったマルタ・アルゲリッチが彼の落選に関して不満を表明し、辞任騒動が起きた程の「天才」青年ピアニストだった。

ポゴレリッチはその年、18歳の時からのピアノ教師と結婚するが、妻が96年に亡くなるとその後神経症を患い、2000年に演奏休止、完全なる沈黙の末数年前に復活した鬼才だ…そしてそんな彼の演奏は、今でも賛否両論真っ二つに為る程に、特異な物なので有る。

この夜のコンサートも演奏時間は30分近く延び、とても楽譜通りとは思えない、謂わば「現代美術」を観て居る様な演奏の連続だったが、特にリストの「ソナタ風幻想曲ー巡礼の年第2年『イタリア』からダンテを読んで」等は、もう涙無くしては聴けない程に、力強く美しかった!

ポゴレリッチのピアノは、尖って尖って尖って、それからそれを鎮めて鎮めて、にも拘らず最終的に鋭い突起が残って居る感じで、詰まりは彼は単なるピアニストでは無く、創造するアーティストなのだ、と思う。

そんな彼のピアノは、作曲家に拠る楽譜や普通のクラシック・ピアニストの「次元」を超えて居て、森羅万象に於いて「別次元」の存在を信じる者にしか、理解出来ないのでは無かろうか…ポゴレリッチ恐るべし、で有った!

で、今度は「映画」…それは、大好きな(&誕生日が一緒!)クリストファー・ノーラン監督の新作「インターステラー」。

ネタバレしたく無いので詳しくは書かないが、この作品のテーマは表面的には「親子愛」と云われて居る…然し、実際僕の胸に鋭く響いたのは、深く綿密に描かれた「時間」と「次元」に関する強い示唆だ。

宇宙飛行士で有る主人公が使命を帯びて向かった別銀河の惑星では、1時間が地球の7年に当たる。そして彼が地球に戻った時には、幼かった娘は自分より遥か年上の瀕死の老人と為って仕舞って居る様に、ノーランに拠って作品中繰り返される「時間」と「次元」に関わるシーンと言説は、ワープ等の科学的時間操作を利用しながら、人生に於ける「『有限な』時間」の重要性を訴え続ける。

さて僕の様に人間50を過ぎると、1年が信じられない位に早く過ぎ去って仕舞い、それは脳の「経験」の為せる技だと嘗て誰かに聞いたが、時折ふと自分の残り人生の短さを考えると、何とかして「時間」の速度を緩めたくなる…。

そして、僕が本作から学んだその唯一の方法とは、自分が今安穏として居る次元から、今迄全く経験をした事の無い事を体験出来る、「別次元」へと自分を運ぶしかないと云う事なのだ。

猛スピードで過ぎ去る「時間」の速度を落とす唯一の方法、それは自分に取っての「異次元感覚」を探し、それを手に入れる事。或いは偶然出逢った「異次元」を見逃さず、探求し大事にする事…そして「それ」は趣味でも仕事でも、人でも意識でも、はたまた骨董品(笑)でも良い。

最近幸運にも連続的に体感した、ポゴレリッチの音楽とノーランの「インターステラー」は、僕に宛てられた「異次元」への招待状と為った。

そしてこれは当に、貴方への招待状でも有るのだ。