マンガノウセレナーデ。

矢張り起きて仕舞った…。

シリア空爆が決定されてから、近く米仏英独の何処かで必ずテロが起こると思っていたのだが、パリだった。

「9.11」を経験した者としては「悪夢」を思い出すしか無いが、今回日本に居て猶恐ろしかったのは、これだけの世界的大事件が起きて居るのに、下らんバラエティやアニメを平気で流し続ける日本のテレビだ。

しかし、この奇妙で吐き気を催す日本のノンビリ感は、一体何なんだろう?平和ボケ日本人と日本政府は分かって居ないのかも知れないが、日本は西側世界で最もテロを行い易い国で有る…オリンピックやサミットで何も起きない事を、心より願う。

さて先週日曜は、梅若能楽堂で「竹生島」を朝から観て、夜は成田屋の息子が初お目見えの歌舞伎座に行ったのだが、能を観た同日夜に歌舞伎を観ると云う愚行の所為か、「勧進帳」の緊迫感の無さを痛切に感じて仕舞う。

そして、この晩の歌舞伎座海老蔵とその息子の人気で超満員だったが、僕に取ってのハイライトは、幕間に駆け込んだ隣の文明堂カフェの「日之影栗のプリン」で有った事が、余りに哀しい…(涙)。

ので、事の序でに先週この絶品「日之影栗のプリン」以外に頂いた、「マロンちゃん」を此処に記して置こう。

先週は客飯が多かった為に、マロンちゃんもミニ・ストップの「和栗のモンブランタルト」以外はレストラン系が多かったのだが、先ずはKシェフが腕を振るう代官山の地中海料理レストラン「A」のモンブラン…電話で席の予約をした際、Kシェフが「孫一さん、何食べたいですか?」と聞いて呉れたので、取り敢えず「栗!」と云って置いたのだが(笑)、絶品モンブランをちゃんと用意して呉れて居て、美味なモン・サン・ミッシェルやコッペ蟹グラタン等と共に、至福の時間を過ごした。

その他には、西麻布の和食屋「N」の「栗胡桃無花果蒸し羊羹」や、六本木のイタ飯「C」の「栗のカフェラテ」が秀逸。

特に「栗のカフェラテ」は、コーヒーカップの底に貼り付いて居る栗のパンナコッタの上に、冷たいカフェラテを注ぎ、そのまた上のクリームにチョコ・スライス・スティックが差して有るので、運ばれて来た時には単なるカフェラテにしか見えない。

が、カップ底の栗パンナコッタをスプーンで掬い、エスプレッソの効いたアイス・カフェラテと共に頂くこのデザートには、正直ホッペが落ち捲って仕舞った…日本人の造る「マロンちゃん」の創造性の豊かさに、改めて感動するデザートで有る!(笑)

と、相変わらずの栗興奮状態を抑えつつ、此処からは展覧会サーフ・レポート。先ず向かったのは、品川キャノンギャラリーSで開催中の写真家上田義彦の展覧会「Materia 2015」で、此方は世界の自然に肉薄し、地球上の生命の根源を探る巡礼中のフォトグラファーの美しき「成果」に目を瞠り、ミッドタウンではサントリー美術館の「逆境の絵師 久隅守景」と、21_21 Design Sightでの「建築家フランク・ゲーリー展 "I Have an Idea"」を観る。

「こんな地味な展覧会に、どんだけ人が来るのだろうか?」+「何故『納涼図屏風』は国宝に指定されたのか?」の2大疑問が脳裏を離れ無かった守景展に対し、ゲーリー展の方はゲーリーその人の創作意欲と実践能力に驚き、荒削りなドローイングとモデルに感動頻り。

また上野の森美術館では、僕の顧客でも有るロジャー・ウェストン氏の肉筆浮世絵美人画コレクションの展覧会のレセプションが開催され、其処で数多の知人友人に会うが、僕が扱った作品が何点か展示されて居るの観るのは、何処と無く誇らしい。

翌日訪れた銀座メゾン・エルメスで開催中の展覧会、「Soleil Noir:ローラン・グラッソ展」も大層興味深い。この作家の作品は、ニューヨークのウチの近所に在るギャラリー「Sean Kelly」での展覧会で観て居て、その時は、喩えるなら作家平野啓一郎の「日蝕」的世界観の絵画に陶酔したのだが、今回の展示も素晴らしいヴィデオ作品と共に、観者を惹き付ける出来と為って居る。

が、観覧してからジワジワと、僕のハートにボディ・ブロウの様に効いて来たのが、白金アートコンプレックスは山本現代で開催中の松井えり菜の個展、「マンガ脳夜曲(マンガノウセレナーデ)〜絵画の続き〜」(→http://www.yamamotogendai.org/japanese/exhibitions)だ!

さてこの松井えり菜と云う作家は、例えば「変顔」等作品のインパクトも凄いが、本人に会ってみると、アーティスト自身の存在感もそれに劣らず凄い。

その松井が3年振りに開いた個展には、ボッティチェリグレコ、モロー等の西洋古典・近代絵画をモティーフとし、その絵画中の人物達に自分が恋い焦がれた「ベルばら」等の漫画の主人公の姿を見出した事に拠って、自身の中に眠って居た西洋絵画から強いの影響を抽出した絵画が並ぶ。

そして、その西洋古典絵画を見る際の観覧者の視点が、例えばボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」の場合、 ヴィーナスの目から顔、胸、そして全体と云う風に移る様を、漫画のコマ割を用いて然も「指」で表現する作品は実に斬新だ!「変顔」シリーズに続く素晴らしい新境地作品と云えると思う。

この展覧会は12/12迄開催…パワフルで繊細な、松井えり菜の作品を見逃すな!


ーお知らせー
*Gift社刊雑誌「Dress」にて「アートの深層」連載中。11/1発売の12月号は、恐ろしくも甘美な「趣味」、貴方を魔の道に誘う「蒐集」に就て。