秋の便りと「春の便り」。

此処の処、P.F.ドラッカー博士のご家族のアテンドで山口県に行って、一緒に展覧会ツアー先で有る山口県美の「山荘コレクション展」、毛利博物館では「山水長巻」や大井戸茶碗「常盤」を山口県美の学芸員E氏のご尽力で観せて頂いたりして、公私共に多忙だったのだが、その間隙を縫っての「マロンちゃん」活動も、時節柄繁忙期を迎えて居る(笑)。

それは例えば、家の目前に在るミニ・ストップの「プレミアム和栗モンブラン・ソフト」に始まり、超重要顧客と頂いたとらやの「栗ぜんざい」や椿屋珈琲店の「渋皮モンブラン」、お抹茶のお供のたねや「西木木」、またレストラン系では六本木の超ウマイタリアン「O」の「マロンパフェ」、そして極め付けは昨年時期を逸して食べられなかった、代官山「O」の「マロン・スフレ」だ!

「O」の「マロン・スフレ」は、例えばパレスホテル東京の「マロン・シャンテリー」や、ヴェニスに在るトラットリア、オリヴァ・ネラの「モンテ・ビアンコ」、駿河台下スタイルズ・ケイクスの「和栗モンブラン・タルト」や、中津川すやの「栗きんとん」、グラナダで食べた「ジェラート・マロングラッセ」、チェルシーはバスタパスタの「オータム・ジュエル」等と共に、僕に取って史上最高の美味マロン・スイーツの1つと云っても良いのだが、その中でも若しかしたらこの「マロン・スフレ」こそ、NO.1かも知れない。

実はこの「O」の「マロン・スフレ」は、今年は既に僕がお店にお邪魔した前の週に終わって居たらしいのだが、特別にムッシュ(シュフ)が作って呉れて、然も食べる段に為ったら何と2個も出て来て、ムッシュに云わせると「去年の分だよ」との事…有難いやら美味過ぎるやらで、涙が出る(笑)。

そんな中、ニューヨークの秋のメインセールズも終了したが、そのハイライトは何と云ってもクリスティーズがキュレイテッド・セール「The Artist's Muse」で売却した、モディリアーニの「横たわる裸婦」だろう。

本作は1億7040万5000ドル(約209億6000万円)で売却され、クリスティーズが今春売ったピカソに続く、オークションで売却された如何なる美術品の中でも史上2番目に高額な作品と為った訳だが、「うーむ、モディリアーニがか…」と云った感が拭え無くもない。

そしてセール全体は徐々にセレクティヴに為って来て居て、ウォーホルやピカソのBI(Bought In:不落札)も目立ち、今後は売り手市場型の高過ぎるエスティメイトを再考せねばならないだろう。

で、話は変わり、次は僕のエキジビション・サーフの件…日本を代表する2人の世界的コンテンポラリー・アーティストのショウを拝見したのだが、先ずは森美で始まった「村上隆の五百羅漢図展」。

この全長100mに及ぶ大作自体は既にガゴシアンで観て居たのだが、「円相」等の新作も有ったのでアート系の若い友人達と出掛ける…が、そのパワフルな色彩と「宗教的精神性と感動を排除した宗教画」に気圧され、食欲を全く無くして仕舞う(の割には、その後麻布十番の中華「S」で黒酢酢豚をムシャムシャ食べたワタクシ…:涙)。

もう1人のマスターズ・ショウは、千葉市美で開催中の「杉本博司 趣味と芸術ー味占郷/今昔三部作」で、此方は杉本氏+武者小路千家宗匠千宗屋氏+千葉市河合正朝館長の豪華トーク付き。

此方はディオラマ・劇場・海景の大判作品と、雑誌「婦人画報」に連載された「謎の料亭」企画「味占郷」で、杉本が自身のコレクション作品を使用した27の「床の室礼」を再現した展示…その中には僕が関わった作品も幾つか入っているので、是非ご覧頂きたい。

そして水曜の夜は小説家H氏と某美術財団理事Y女史と共に、その杉本博司の「舞台」を池袋のあうるすぽっとに観に行く…朗読劇「春の便り〜能『巣鴨塚』より〜」で有る。

この朗読劇は、近い将来「能」に為るで有ろう「巣鴨塚」のプロットとして杉本に拠って書かれた、A級戦犯として巣鴨プリズンで処刑された板垣征四郎の遺言を基にした作品で、作調は葛野流大鼓の亀井広忠、出演は余貴美子と杉本自身が朗読、シテ方喜多流大島輝久師が舞と謡を勤めた。

「春の便り」とは「ハル・ノート」の事…然し舞台が王朝時代に移されて居る事から、マッカーサーも「松笠の中将」として登場するのだが、今回の公演は朗読・舞・囃子・ビデオを用いた「トライアル・ヴァージョン」で、その意味では可成り興味深いモノ。

その意味では、「能」として未だ混沌とした感じが否めない…それは例えば「獄中漢詩」、「ピカドン」の視覚効果や玉音放送部分をどう纏めるか、に掛かって居ると思うが、何れにしても楽しみだ!(因みにこの「能」 の稽古が、何と桂屋家の稽古舞台で行われて居た事を、この日初めて知った…恐ろしい因縁で有る:笑)

公演後は東大の日本文学研究者C先生と秘書の方を誘って、5人で会場近くの中華料理店で会食。「春画展」の可否やアート・マーケット等に就いての、芸術一般に関わるリテラシーの高い会話に、久々に頭が歓んだ。

「春の便り」と、食欲、芸術、そして栗と云う「秋の便り」に、腹も頭も大満足な孫一の1週間でした。


ーお知らせー
*Gift社刊雑誌「Dress」にて「アートの深層」連載中。11/1発売の12月号は、恐ろしくも甘美な「趣味」、貴方を魔の道に誘う「蒐集」に就て。