アジノモト。

日本での最後の日々は、体調を崩しながらの恒例「人間ドック」で終了。

僕が毎年受けるのは、胃と大腸の内視鏡、各種血液検査、エコーやレントゲンを中心とした2日間に渡るドックなのだが、今回は僕の行くK病院が移転して、ほんの少し家から近く、そして新しく為った事も有って、少し気が楽だった。

ビルの13階に移ったドック・センターは機能的且つ綺麗で、夜なら確実に幽霊が出そうな古い建物だった昔とは大違いだが、骨董をやって居る身としては「味」が無くなったとも云える…いや、人の健康や命に味もヘッタクレも無いか(笑)。

さて胃の内視鏡検査前には相変わらず、後でフラつく鎮静剤注射を受けるかどうかで悩んだが、一緒に隣で待って居た僕より年配のオシャレ系オジサマが、若い看護婦相手にその注射を受けたく無い理由を、詰まらない冗談と朝っぱらから少々「口説き」の交じった軽い口振りで長々と喋って居るのを見てウンザリし、今回は即決で受けるのを決める。

そうして2日間のドックは、お陰様で大事も無く終了したのだが、何よりもショックだったのは体重が「回復」して仕舞った事で、それに伴い血液検査の成績も結構悪く為った事だ…にも関わらず、この新しく為ったセンターの同階には、何と「ホテル・オークラ」のレストランが新しく入って居て、ドック受診者も此処でドック用食事を摂るのだが、流石に美味く、特に肥満を気にする病人の敵に思える。

が、以前このドックで出て居た、如何にも病院の食堂のオバちゃんが作る様な手作り感一杯の「ご飯・味噌汁・エビフライ」の食事を何故か懐かしく思って居る自分に吃驚する…これも「味」(勿論食べ物の「味」の事では無い)を求める性なのだろうか?

そんなこんなで、思ったよりは寒くないニューヨークに戻って来たのだが、ANAの機内では日本行きの際に観た、「家政婦のミタ」の残り3話を観て満足…このドラマ内での松嶋菜々子は、昔の弾ける様な美しさを巧く遺しつつ、「年齢」を上手く使った味の有る美貌で未だ魅力的だった。

然し今回の機内での最大の収穫は、2組のアーティスト…先ずは某アーティストのMVに出演して居ても、名前も顔も出て来ない、キレキレのダンスと色白でバランスの取れた美しい容姿に瞠目する、女性ダンサーだ。

そのMVとは今人気絶頂の星野源の新曲「時よ」の事で、星野とその女性ダンサーが地下鉄駅構内を縦横無尽に踊り廻ると云った内容なのだが、ポップな曲に乗って踊るこの女性ダンサーがマジに素晴らしい!

ネットで調べてみると、矢張り「誰だ、彼女は?」と話題に為って居る様だが、どうも彼女の正体は「Q'ulle」と云うユニットの「まなこ」と云う名のダンサーらしく、調べて実際顔を見てみると、これ又中々の美少女では無いか!ウーム、これからの活躍の期待大で有る。

そしてもう1組とは、打って変わってオトナのバンド「METAFIVE」。

高橋幸宏が中心と為り、2014年に一夜限りのバンドとして誕生したこのユニット…メンバー構成は或る意味かなりズルく(笑)、コーネリアスこと小山田圭吾電気グルーヴの「まりん」砂原良徳、テイトウワ、アノニマス権藤知彦、そしてインテリ・ミュージシャンのレオ今井と高橋と云う、一癖も二癖も有る連中ばかり。

僕が機内で観た、バンド名を「METAFIVE」と決める迄は何と「高橋幸宏とクールファイブ」(笑)と名乗ったと云う彼らのヴィディオ・クリップは、「Don't Move」と云う曲(→https://m.youtube.com/watch?v=7LBUEYGfisQ)だったのだが、これが何しろカッコ良い!

随所にフィーチャーされる小山田のカッティングや権藤のユーフォニア、幸宏のドラム、流石オックスフォード卒な今井の英語ヴォーカルが、砂原とトウワの産み出すテクノ・バックと共にファンキー且つグルーヴィなサウンドを畝らすこの「Don't Move」は、懐かしくも新しい、それこそ芸達者なオトナ達が生み出す「味」満載の、ダンサブル・テクノ・エレクトロ・ファンクなのだ!

さて此処で、嘗て聞いた話…京橋の老舗骨董店Mでは、一番若い丁稚さんが店の掃除を毎朝行う。そんな老舗一流骨董屋の店内は、塵一つ落ちて居ないのが当たり前なので、掃除後は番頭さんが必ずチェックするのだそうだ。

或る日、入ったばかりの丁稚さんは番頭さんから褒められたくて、もう一生懸命に掃除をし、店の2階に続く階段の真鍮の手摺迄ピカピカの磨き上げ、番頭さんの検分を待った。が、掃除の仕上げを点検した番頭さんは、丁稚さんを誉める処か丁稚さんを呼び出し、こう怒鳴ったと云う…

「この野郎、手摺をピカピカにしやがって…『アジ』が無くなっちまったじゃないか!」

老舗骨董店やMETAFIVE、松嶋菜々子の持つ「アジ」を、来月20歳に為るまなこちゃんは未だ持って居ない…が、あの才能なら将来「味」の出る事必然。

そして最近「アジ」の無い薄っぺらな物事や人ばかりの日本で、この教訓は大きいと思う。「味」とは、古き良き、そして秀逸な技や作品が持つ過去の「名残り」の事で、この「アジ」を今の日本人や日本のアートの大半は大事にして居ない。

だが才能の有る若い日本人は多い…そんな彼らには将来「アジ」が出る様に努力して欲しい。そう、現代美術、今の音楽、現在活躍する若手俳優こそ、「アジの元」なのだから。

何年、何十年か後に「アジ」の出る物こそが、「本物」なのだ。