谷間動向@紐育。

2月18日(木)
10:00 ロンドンや香港のお偉方と、今抱えている数十億単位の仕事に関するテレビ会議。今でもテレビ・電話会議は大の苦手なので苦痛。

11:00 時差ボケに因ると思われる頭痛と闘いながら、招待状や手紙等の整理と出張精算に明け暮れる。今年はハナから出張が多くてタイミングがどうも合わず、招待されたニューヨーク裏千家武者小路千家、Y氏の初釜に悉く行け無かったので、初春の気分が出ない。

18:00 飛行後の身体が硬直して居る為、ダウンタウンに在る行き付けのマッサージに行き、Aおばさんの熱いマジックハンドに久し振りに癒される。

20:00 家で納豆豆腐とヨーグルトを食べ、カラヤンのパーフェクトなマーラー5番「アダージョ」を聴きながら、優しく撫でる様な筆致の古井由吉の「雨の裾」を読んでる内に、ソファーで寝落ちする。マーラー古井由吉で眠る悦びは代え難い。


2月19日(金)
4:30 時差ボケで超早起き。入浴後貯まったメールを整理しながら、日本から持って来た吉富のお干菓子で一服頂く。

9:00 出社し、名誉会長のオフィスで名誉会長+VIPクライアントとの3人での、某重要作品を巡る電話会議。この作品を扱えれば、もう今の仕事に未練は無い位の勢いのモノだが、それが何かは教えて上げない(笑)。

13:30 中国政府が経営するオフィス近所の四川料理店「W」で、今日が社員としての最後の日と為る英国人中国美術専門家のNを囲んでのランチ。余りの空腹に自らの掟を破り、担々麺や餃子迄食べて仕舞う…何て弱い人間なんだ、俺ってヤツは(涙)。

17:30 社内でNのフェアウェル・シャンパン・パーティー。N位人格穏やかで尊敬出来る男は中々当社には居ないのだが、そんなNの将来に皆で乾杯。Nは或る意味、当社アジア美術部門の「良心」だったので、彼の退職は本当に残念…が、人生の選択決定は何時か必ず、何処かで為されねば為らない。


2月20日(土)
7:00 夜中に何度か起きた末、起床。重い頭を振りながら珈琲を淹れ、クラシック・ギタリスト益田正洋のCDを聴きながら、出さねば為らない書類に取り掛かる…気が重い。

11:00 ダウンタウンに髪を切りに行く。担当のKさんが相変わらず明るくて世間話が弾むが、その所為か腹が減り、美容院近所の「S」で蕎麦ランチ…ミニ丼を付けなかった自分を褒めて上げたい。

13:00 その足でアジア・ソサエティーで開催中の展覧会、「KAMAKURA: Realism and Spirituality in the Sculptures of Japan」を観に行く。出展されて居る鎌倉彫刻は、アメリカ国内からだけのモノだけだが、決して悪くない展覧会。が、僕の所に出展依頼の来ていた、前に東洋仏教美術セールで某コレクターに売った胎蔵品付木造如意輪観音が出て居らず、残念…持ち主は断ったのか?然し観心寺蔵のモノを始め、如意輪観音と云う仏様は如何なる仏の中でも、矢張りセクシー。

15:30 UESから今度はチェルシーに向かい、PACEで始まって居る杉本博司「Sea of Buddha」展を観る。セラの鉄壁の如き楕円形のホワイト・ウォールに並んだ三十三間堂観音は圧巻。そして、以前クリスティーズでも放映した映像作品「Accelerated Buddha」(拙ダイアリー:「"Accelerated Buddha":杉本博司レクチャー@クリスティーズ・ニューヨーク」参照)の完成版も展示されて居て、「加速する仏」を正式に3Dで体感する…これは必見だ。もう一軒のPACEで開催中のIrving Penn「Personal Work」展も観たが、未だにアーヴィング・ペンをどう見るべきかで思い悩む自分に気付く…誰が何と云っても、間違いなく良い作家なんだけどなぁ。「Optician's Shop Window」が何しろ素晴らしい。

19:00 古くからのニューヨークの友人Aと、和食屋「T」で食事…久々のマスターHの美味い料理に舌鼓を打つ。不動産会社を経営して居るAは「これぞ遣り手」な人物だが、世代が一緒なので気が置けない。その後Aが顧客に呼び出されたので帰ろうとしたが、入れ替わりにこれも久々の常連T氏が入って来たので、「我々は何時永久帰国すべきか?」等の深刻な話を結局深夜1時頃迄して仕舞い、食べ過ぎと共に後悔する。


2月21日(日)
前夜のツケと旅の疲れで終日ダウンし、寝たり起きたりを繰り返す。そんな僕を癒して呉れたのは、芸新の「特集 This is 江口寿史!!」…若い頃余り漫画を読まなかった僕に取っても、「すすめ!!パイレーツ」「ストップ!!ひばり君!」「名探偵はいつもスランプ」「爆発ディナーショー」は、青春の1ページだった。彼の漫画のストーリー・テリング、そして何と云ってもギャグのセンスは、山上たつひこ鴨川つばめ、そして魔夜峰央に負けない。


2月22日(月)
10:00 マディソン街と5番街の間の顧客宅で、プライヴェート・セール向けコレクションの各作品の値段交渉。

12:30 交渉を一時中断し、その顧客とガゴシアン+MASAのコラボ和食店「Kappo Masa」でランチ…すき焼き弁当が中々イケた。

13:30 食後交渉を再開し、何とか合意を取り付ける。スゴい価格なので眩暈がするが、やるしか無い。

19:00 NYの大学に留学中の某美術館の娘さんYさん、世界最強ギャラリーのYさん、ファッション・ブランド・デザイナーT氏との4人で、ディナー@久し振りのチェルシー「B」。未だ21歳のYさんの「将来アートに関わりたい」と云う心意気に打たれる…これだから若い人と会うのは止められない。


2月23日(火)
4:30 時差ボケの為、起床。仕方無くお抹茶を二服頂き、高階秀爾「日本人にとって美しさとは何か」を読了。その間、日本の友人からのLINEで、アメリカの某超大手画廊が日本に出店する旨を知る…本当か?でも何故今頃?

13:00 霙混じりのチャイナタウンの「Y」で、荒川修作ファウンデーション・キュレーターと某IT系アート・カンパニーのロイヤーとランチをし、貴重な情報を得る。フレッシュな情報こそアート・ビジネスの宝。

15:00 会社に戻り、来週行われる重要プレゼンの資料をチェックする。この仕事は絶対に獲りたい。

19:00 寒さの為か体調が優れず、帰宅。時差ボケの上、念の為の風邪薬を飲んだからか、メールをチェックして居る間に寝落ちし、その間、靴を脱いで上がる何かのイベントに行ったのだが、帰りに余りの脱いだ靴の多さに他人の靴を履いたりして、自分の靴が中々見つからない夢を見る…不安の現れだろうか?


2月24日(水)
7:00 NBCニュースで、ネヴァダでトランプがまた勝利した事を知り、ウンザリする。今回の大統領戦は史上最低の候補者ラインナップで、実際誰が勝ってもサイテーだろうが、万が一トランプが勝てば「アメリカン・プーチン」と化す事必然…政治家の人材不足は世界的傾向だが、此処に極まれりの感有り。が、アメリカのせめてもの救いは、日本の様に党内の一回戦で負けても復活戦で勝って(比例代表もそうだ)、国民の審判の何も無い侭一国の宰相に為れるシステムでは無く、少なくとも党の代表戦時から一挙手一投足が国民に見られ、評価され、その中で1年間戦い抜いて「直接選挙」に因って大統領に為り、その「任期」を全うする、と云うシステム。これならば選ばれた大統領も選んだ国民も、「一票」に責任感と自覚が出ると云うモノだ。

12:00 国連勤務のコレクターと、オフィス近くのブラッセリー「R」でランチ。海老入りサラダを食べながら、上記大統領選の話や今の日本人の芸術的・哲学的リテラシーの低さ、教育と選挙制度の改革の必要性で同意する。

18:00 僕がCo-hostを務めた、イタリア在住の彫刻家安田侃の展覧会「Touching Time」@クリスティーズ(→http://www.christies.com/privatesales/2016/kan-yasuda-touching-time-february-2016)のレセプション。有力画廊やキュレーター、コレクター等が多数来場。安田氏曰く、「大きくて傷の無い、美しい大理石を切り出してスタジオに運び込めたら、僕の作品の半分は出来た様なモノだ」…ミケランジェロの時代から、イサム・ノグチやへンリー・ムーア、バーバラ・ヘップワース迄が取り続けた最高級の大理石場に、遺された石は少ない。有機的で美しい大理石とホワイト・ブロンズの作品を堪能出来るこの展覧会は、3月26日迄。

20:00 ロックフェラー・センター内のレストラン「S」で、安田氏とその御家族、イタリアからの石切職人やコレクター等を囲んで、総勢20名程でのセレブレイション・ディナー。安田氏は気さくで楽しい方で、食事中石切場を舞台とした世界から石を求めてやって来るアーティスト達の話を聞く。ムーアとノグチが犬猿の仲だったと云う話が秀逸。


2月25日(木)
7:00 朝のニュースで、3.11後3日で発表出来た筈のメルトダウンを、東電が「マニュアル見逃し」を理由に「5年」経って発表した事を聞く…と云う事は、隠されて居る事が未だ未だ有ると云う事…最低な話だ。

13:30 ロウワー・イーストサイドのShin Galleryでの展覧会「I Wanna Be Me」を、オーナーのHと共に観る。 僕の重要顧客でも有るHが最近オークションで購入した、バルテュスやダリ、デンマークの画家ヴィルヘルム・ハンマースホイ(拙ダイアリー:「道行く人よ、心して/目を留めよ、良く見よ」参照)、ペルーのアーティスト、テレサ・ブルガ等のフィギュラティヴ・アートで構成された展覧会は、グラフィティ・ケイオスの中に素晴らしい「人物画」が光る、Hならでは物だ。然しバルテュス、素晴らしい…この作品を持つHがマジに羨ましい。


2月26日(金)
9:30 再び出張へ向かう為、現在JFK空港のラウンジ。誘惑の多いパントリーでは、プレイン・ヨーグルトとフルーツだけを摂る…嗚呼、自分を褒めてあげたい!今回の出張では、今抱えている3つの大きな仕事に於いて各々重要な局面を迎えるのだが、僕が出来るのは全力を尽くす事だけ。


人事は尽くした…天命を待とう。