有終の美を飾る「KAZARI」。

第88回アカデミー賞が決まった。

下馬評通り主演男優賞はディカプリオ、主演女優賞はラーソンだったが、個人的に意外だったのは作品賞の「スポットライト」と監督賞のイニャリトゥ。特にイニャリトゥの2年連続監督賞受賞は驚きつつも凄い記録で、これはジョン・フォードマンキーウィッツに次ぐ、66年振り3人目の快挙らしい。

その反面残念極まりないのが、「マッドマックス」のジョージ・ミラー監督が受賞出来なかった事。「イニャリトゥなんか、昨年獲ってるんだからもうイイじゃん」と思うし、確かにこの「デスロード」は最多6部門受賞したので、優れた作品で有る事は証明された訳だが、肝心の監督賞・作品賞を逃したのは本当に悔しい…まぁ、こんな事で「ミラーの世界」は終わらないと思うが。

そんな中今回機内で観たのは、ダニー・ボイル監督の新作「スティーヴ・ジョブズ」。

淡々とした会話劇+スピード感溢れる作風、そしてシニカルな台詞が流石ボイル作品と云う感じで、アカデミーにもノミネートされた主演のファズベンダーに拠るジョブズの演技も良いが、何と言っても「オフィス・ワイフ」役のケイト・ウィンスレットがかなり良い。

また、アーロン・ソーキンに拠る脚本が極めて素晴らしく、この作品にジョブズの生涯記録映画を期待した観客を見事に裏切り、それは物語が3回の「新製品発表」前の舞台裏のジョブズに特化し、その舞台裏での神経質なジョブズを通してのみ、彼の生き様を描いて居るからだ!ダニー・ボイルの描く、軽く、然し深いスティーヴ・ジョブズの面影…オススメです。

と云う事で、再びの来日をすると早速関西へと出張し、先ずは「大美特別展」へと向かう。会場は結構な賑わいで、流石一流ディーラー達に拠る3年に1回の展示即売会。その中でも一際眼を奪われたのは、矢張り谷松屋戸田商店のブースで、静けさと雄弁さ、手持ちの良さが際立つ長次郎の恐るべき黒茶碗「マキワラ」、豪快で大振りの志野茶碗や重美瀬戸百合首瓶、そして病草紙迄、溜息の出る作品ばかりだった。

そんな余韻も冷めぬ侭、翌日は世界中の同僚達とオークション出品の為の重要なプレゼンを終えると、顧客に美味しいおでんをご馳走に為り、翌日東京で有るこれまた大仕事のミーティングの為に、最終の「のぞみ」で帰京。

そして恒例の展覧会サーフも開始。先ずは水曜日…母と寿司屋「K」でのランチ後、日本橋高島屋で始まった「永楽歴代展」を一緒に観るが、会場に溢れる和服のオバサマ・パワーに圧倒され、気もそぞろ。

その夜はヒカリエの小山登美夫ギャラリー始まった、佐藤翠「Secret Garden」展のオープニングへ…佐藤さんの作品は、以前資生堂ギャラリーでの展覧会で観て居たのだが、「クローゼット」シリーズやカーペットがアーティストの脳内で抽象化された油彩の新作、視線の角度に因って絵の変わる、美しくも不思議な鏡にペイントされた作品等を堪能する。

木曜日からの再びの京都出張では顧客を訪ね歩き、夜は昨年の名誉な大仕事の入金を漸く果たしたクライアントと、祇園町で食事…「胡麻豆腐最中」等超美味で気の利いた懐石のコースで、お互いに乾杯。その後一緒にカラオケへと向かうが、気分が良かった所為か腹が減り、昔から大好物の「S」の小さく羽の付いた餃子を出前で「30個」頼み、歌いながら完食して仕舞ふ…最低だが、美味過ぎる(笑)。

また久々に訪れた細見美術館では、「春画展」を再観覧…が、永青文庫には出て居なかった蹄斎北馬の本間二枚折屏風が展示されて居て、ビックリ。この作品は、恐らくは現存する「最大の春画」では無かろうか?

然し僕に取ってのより大きな驚きは、翌日訪れたMIHO MUSEUMで始まった展覧会、「かざりー信仰と祭りのエネルギー」だった!

実際過去2回、僕は「Kazari」と題された展覧会を観て居て、それは2002年にジャパン・ソサエティーで開催された「KAZARIーDecoration and Display in Japan, 15th-19th Centuries」と、2008年にサントリー美術館で開催された「KAZARIー日本美の情熱」展。

そして今回、そんな過去の記憶を蘇らせながら訪ねたMIHO MUSEUMの展覧会は、その記憶と予想の双方を覆すスゴイ内容だったのだ!

展覧会は仏教美術的「かざり」=「荘厳」から始まるのだが、何しろ先ずこのセクションが素晴らし過ぎるラインナップ…法隆寺の重文木彫飛天や鳳凰、華鬘や瓦、各種両界曼荼羅、鎌倉仏画愛染明王が素晴らしい!)や経巻、金銅光背等の大変なラインナップが並び、その後は「お待たせ!」静岡県美本+プライス本の若冲のダブル「鳥獣花木図屏風」の部屋や、洛中洛外図や祭礼図、超絶欄間や岸駒の最高級「虎図」楽屋襖迄、観客を一時も飽きさせない、息をも吐かせぬ展示と為って居る。

MIHO MUSEUMの館長辻惟雄先生は、今月末で退任される為(新館長は熊倉功夫先生)、これが館長としての最後の展覧会。

そんな辻先生の有終の美を「飾る」、MIHO MUSEUM一館開催の「かざり」展…必見です!