「舘鼻文楽」@カルティエ現代美術財団。

友人のアーティスト、オスカール大岩から、彼が参加している瀬戸内国際芸術祭に出展して居る作品の「光景」が送られて来た。

オスカール曰く、「今回の作品は、世界最大のドローイングかも知れない」と云う事なので、如何云う意味かと思って添付されて来たイメージ(→http://www.mymodernmet.com/profiles/blogs/oscar-oiwa-massive-dome-drawing?context=featured)を観てみると、「確かに!」と叫ぶ程スゴい…これは見に行かねば!

そして今春のクリスティーズ・ニューヨークのAsian Art Weekは、3723万9438ドルを売り上げ終了…トップ・ロットは乾隆時代の金銅十一面観音像で、10万〜15万ドルのエスティメイトに対して、285万3000ドルと云う高価格だった。

然しマーケットはセレクティヴと云って良く、品質が高くて高額な物は売れるが、中間層が難しい。これは景気の落ち着きを示している。

そんなAsian Art Weekが終わった土曜日、若い建築家の友人と向かったのは、ニューアークに在る大室内競技場「Prudential Center」。然しスポーツを観に行った訳では無い…昨年10月に予定されて居たのにキャンセルされて仕舞った、The Whoの結成50周年コンサート・ツアーだ!

今回The Whoのコンサートにどんな事をしてでも行きたかったのは、キースとジョンを失い、70歳を滔に過ぎたロジャーとピートの勇姿を観れるのは、これが最後かも知れないと思ったからだったが、行ってみると怪しげな煙(笑)も匂う会場は超満員で、席は前から6列目、もう興奮するなと云う方が無理と云う物で、周りを見渡限りアジア人は皆無。終いには隣近所の席の人達から、「君達は何処から来たんだ?The Whoのコンサートを前に観た事が有るのか?奴ら、もうサイコーだぜ!」等と声を掛けられる始末。

そして僕がリアル・タイムでThe Whoを知った、全米NO.1ヒットと為った1978年の「Who Are You」で幕を開けたコンサートは、超カッコいいサイケ映像をバックに、未だスリムなロジャーはマイクを回し続けながら信じられない声量でシャウトし、太ったピートは真っ白く為った髪と髭で腕を回し続けてギターを弾き、「My Generation」「See Me, Feel Me」「Behind Blue Eyes」「Pinball Wizard」等のヒット曲を、9時前から11時迄休み無しに演奏したのだった!嗚呼、本当に観て良かった…勿論Tシャツ、プログラム、CD、ジャンパー迄、確り買って帰りました(笑)。

そんなお気楽な週末が明けると、また大きなテロがブリュッセルで起こって仕舞った。

この悪夢の繰り返しを防ぐ手立てが、未だに見つからないのは何故だろう…この有様を見るとEUのテロ情報収集能力は、アメリカのそれよりもかなり低いと云わざるを得ない(…と、夫が外交高官のフランス人の友人女性に云ったら、「EUの情報機関は、毎日の様にテロの目を潰してるんだけど、全然間に合わないのよ!」と怒られて仕舞った。EUの名誉の為に云って置けば、それ程「テロの芽」は頻発して居るらしい)。

そして僕はベルギーでのテロを朝のニュースで観た当日の夜、NYを発ってパリにやって来たのだが、思い出すのは9.11の直後にロンドンに仕事で行った時の事。

その時のヒースロー空港のセキュリティーは、今迄の人生の中でも最も厳しくて、僕なんか怪しまれたらしく略パンツ一丁に為る迄検査されたので、今回はそれを見越して「勝負パンツ」を履いて行ったにも関わらず(笑)、出る時も入る時も人生最高に「簡単」だった。こんなんで大丈夫なのだろうか…?

てな具合でパリに着くと、重要な仕事を2つを熟す。先ずは6月にクリスティーズが初めてパリのオークション・ハウス「オテル・ドゥルオー」で開催する、高名為るオークショニア、Thierry Portier氏のコレクション・セールに出品される浮世絵版画をフィジカル・チェック。

19世紀末からパリに残るこのコレクションは、写楽歌麿・国政の大首絵を含む物で、味の有る作品揃い。然もその百数十年の内、コレクション中の版画が外に出たのは唯一度だけで、それは「ロートレック歌麿展」(1980)の為に日本に来た時の事だと云う。

版画と共にその図録を見ていたら、何と僕の父が文章を書いて居て、その時に版画を手持ちで持って来たThierry氏のお父さんで有るGuy氏が、僕の父に会っている事実が判明…ご縁以外の何物でも無い。

そしてもう1つの大仕事は、某美術館学芸員と購入の打ち合わせの食事。が、物凄く美味いフォアグラを食べて居る最中に、数百万ドルクラスの作品の購入希望を学芸員から伝えられ、ビックリするやら嬉しいやらで、何とも最高のランチと為った。

またアフター5は、オペラ・バスティーユで久々のバレエ「ロミオとジュリエット」を鑑賞…ガルニエでの「くるみ割り人形」がどうしても取れなかった代案だったが、非常に素晴らしい舞台で、感動頻り。その後フランス人同僚に勧められた行った「B」と云うレストランでは、食後に日本人シェフが出て来てビックリ…今のパリは噂通り、日本人シェフ花盛りで有った。

が、今回のパリの大目玉ハイライトは、カルティエ現代美術財団で開催された「TATEHANA BUNRAKU: The Love Suicides on the Bridge」だ!

この公演は、アーティスト舘鼻則孝が舞台や人形の衣装をデザインし舞台監督を務める、名人三世桐竹勘十郎師とのビッグ・コラボ・パフォーマンス。そのプレミア公演に招かれた僕が着くと、会場は暗く「小屋」的でミニマル。竿3本に大夫3人の舞台が始まると、フランス映画の様なモノクロームの映像が無音で流れ、これから始まる悲劇を想起させる。

勘十郎師の人形遣いは相変わらず絶品で、手指の表現がスゴい。花魁が三味線や五胡を奏でる場面では、人形の手指と竿の音とのユニゾンに観客席から流石どよめきも起こったが、最後の道行でも刺殺後の短刀が橋の手摺に刺さった侭だったり、赤布の血が流れたりと、演出でも観客を魅了した。

そして、舘鼻に拠ってエンボスされた皮が貼られた橋や 人形の履く高下駄、着物、ベルベットにシルクスクリーンされた金雲を持つ幕迄、木・皮・染色・漆等の日本の伝統工芸の粋を集めたデザインは美しく、フランス人も瞠目。

スタッフもさぞ大変だったろうと思うが、公演後はこの大仕事をやり遂げた舘鼻則孝氏に乾杯し、僕は来場者の1人としてNHKのインタビューを受けたのでした(使われるかどうかは分からない…が、この公演ドキュメンタリーは、BSで放送されるそうです…楽しみだ!)。

食事も文化も芸術も、愛して止まないパリ…滞在も残り僅かだ。


*お知らせ
来る4/30(土)PM3:30-5:00、朝日カルチャーセンター新宿にて、「江戸絵画の美を探る:若冲国芳・海外から見た奇想絵師たち」と云う講座を担当します。詳しくは→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/92fef51d-63d5-3c42-13b6-56b41d9fab74迄。