Vive la "Nouvelle cuisine française" !

恙無くフランスを出国し、日本にやって来た。

来日して数日、時差ボケと戦いながら某美術館館長や、重要顧客との食事兼打ち合わせを幾つか熟し、今関わって居る「大プロジェクト」を一歩一歩進めながらも、その間隙を縫っては展覧会鑑賞…先ずはサントリー美術館で開催中の「 没後100年 宮川香山」を訪れた。

宮川、別名真葛香山の作品はキッチュで海外でも人気が有るので、僕も幾つか売った事が有るのだが、残念ながら個人的には美術品的感動を余り感じない。が、そのテクニックには驚愕する他は無く、世紀末的装飾過剰な焼物は、当時の日本の時代性を映す鏡として見る事も出来るので興味深い。

その後ミッドタウンを後にすると、今度は国立新美術館へ向かい、ずっと楽しみにして居た「Miyake Issey展 三宅一生の仕事」を観る。

そして、何しろこの展覧会は素晴らしい…!「布の彫刻」とも云えるIsseyの作品の革新性には、今観てもこれだけ驚くのだから、70〜80年代当時、彼の作品を観た外国人の驚きは想像に難く無い。

また、藤原大と組んだ20世紀最後のプロジェクト「A-POC」も今観ても新鮮で、インパクト有るインスタレーションと共に、プログラミング+パーツ化のコンセプトの斬新さに改めて驚かされる。然し三宅一生と云う才能は、何と豊かで輝かしいのだろう…。

さて、此処で話はパリへと遡る。

あれだけ大規模なテロがブリュッセルで有ったにも拘らず、気が抜ける程出入国が容易だったパリだったが、美術館やレストラン、ホテルでのセキュリティ・チェックは厳しく、場所に拠ってはマシンガンを持った兵隊も。

そんな中、仕事後パリで数日の休みを頂いた僕は、前回此処に記した文楽やバレエ以外にもアート三昧…再訪したピカソ美術館ではMOMAで観た彫刻展を再見し、久し振りのルーブルでは何度観ても美しいミロのビーナスハンス・メムリンクの「キリストの復活」三連祭壇画や「老女の肖像」、フォンテーヌブロー派の「浴槽のガブリエル・デストレー姉妹」等、愛して止まない名作達を堪能。

特に、画中美しい貴婦人が浴槽の中で妹の乳首を摘んで居るフォンテーヌブロー派のこの美し過ぎる絵画は、僕に取っては昔から謎の作品で、今迄色々な解釈を読んで来たにも拘らず、僕にはこの絵の意味が未だに良く分からない(笑)…が、そんな不可解さもこの作品のミステリアスな魅力を高めて居るのだろう。

そして、パリのアートで忘れてならないのが「食」…今回もパリ在住の日本人フォトグラファーS氏や、パリ・オフィスのフランス人同僚GやOに推薦された旬のレストランで、アーティスティックな料理に舌鼓を打った。

先ずは某美術館学芸員がランチに連れて行ってくれた、モンマルトルはパレ・ロワイヤル近所の「C」。「C」はカジュアルな店だったが、恐らくは僕に人生最高のフォアグラの一皿を出した、恐るべき店だった!

序でにレストランに併設するフォアグラ・ショップも凄く、フォアグラ・プロフェッショナルとしての矜持を感じた上、味も最高だったのでパリ滞在中毎食此処で食べたい欲求に駆られたが、此処に通うには自分自身がフォアグラに為るのを覚悟せねば為らないので(笑)、泣く泣く諦めた。

次なる店は、オペラ・バスティーユ近所の「B」。此方は今最高に流行って居る「Le Crown Bar」(残念ながら、取れなかった…)と共にGの推薦で、「オペラやバレエの公演後、直ぐ行けばラスト・オーダーに間に合うし、然も美味い」との事だったので、バレエ鑑賞後ダッシュで向かう。

着いてみると、フランス人経営かと思いきやオーナーB氏はアルゼンチン人で、成る程ステーキが凄く美味しかったのだが、魚やイカ料理も濃過ぎない味付けが絶妙。すると食後、B氏が「紹介するよ」と連れて来たのが、若い日本人のシェフとパティシエ…これも成る程、日本人ならではの味だったのか、と納得したのだった。日本人シェフeverywhereで有る。

そんな日本人シェフのレストランと云えば、S氏推薦、最近ミシュランの星を取ったTシェフの凱旋門近くの静かな裏道に在る「P」もかなり素晴らしい。今回頂いたランチのテイスティング・コースは、アミューズ2品+小皿アペタイザーから始まる6品だが、最後の2皿が何と鴨と牛肉と云うボリュームタップリなコースで、味も格別な「P」…大お勧めです!

もう一軒行った日本人シェフの店は、モンパルナスの「T」。此処は以前S氏に連れて行って貰った店で、「P」よりも依り日本食色の強い料理だが、相変わらずの美味しさ…そして今回パリ滞在の最後の食事を彩ったのが、某美術館に隣接する「M」だ。

この店は同僚Gのお勧め店で、行ってみたら美術館の建物の一角だった為、最初は「ん、美術館のカフェなのか?」と訝ったが、豈図らんや今回パリでの最高のレストランで有った!

天井高の非常に高い、元宮廷画家のアトリエだった店内には現代美術が飾られ、料理もスライスしたフォアグラで野菜を包んで食べる一皿や、一見只のカルボナーラなのだが、パスタの代わりに玉葱を麺状に切った料理等、味のみならずアイディアや見栄え迄をも十二分に考慮された、「これぞヌーヴェル・フレンチ!」な料理の数々に感激一入。

その上、僕のテーブルに付いた若く眼の真っ青なウェイターのA君が、何と5月から虎ノ門のフレンチ料理店で働くとの事…フランス語が出来たお陰の、嬉しい出会いも有った「M」で有った。

今回のパリ滞在で再認識したが、矢張りパリは芸術の都…そして「食」も芸術の1つ。流石京都と匹敵する、世界最高の芸術と味の都で有る。

フレンチ・ヌーヴェル・キュイジーヌ万歳!


*お知らせ
来る4/30(土)PM3:30-5:00、朝日カルチャーセンター新宿にて、「江戸絵画の美を探る:若冲国芳・海外から見た奇想絵師たち」と云う講座を担当します。詳しくは→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/92fef51d-63d5-3c42-13b6-56b41d9fab74迄。