キース・エマーソンが亡くなった。
此処の処、デヴィッド・ボウイ、グレン・フライ、モーリス・ホワイトが立て続けに亡くなって、今度はエマーソン…「エマーソン、レイク&パーマー」等今の若い人は知らないだろうが、所謂プログレ、その分野ではピンクフロイドと共に初めて聴いた、ELPの「展覧会の絵」の衝撃は忘れられない。
僕の世代で云えば、例えばディープ・パープルのジョン・ロードがハモンドB3を提げて登場した迄は、ジャズやクラシックの世界に比べると、ロックの世界に於けるキーボーディスト(ピアニスト)の役割は、ギタリストやヴォーカリスト、いやドラマーやベーシストに比べても地味で、子供の頃からピアノをやっていたロック・ファンとしては内心忸怩たる思いが有ったので、エマーソンとロード、そしてリック・ウェイクマン(YES)の存在は、快哉を叫びたい程嬉しかった。
最近、昔憧れて居たミュージシャンが実は自分と同年代だった事に驚いたが(U2のボノはたった3つ上で、ボン・ジョビは1つ上でしかない!)、これから段々と好きなミュージシャンが亡くなって行くに違いない…なので、僕が大枚叩いて今週土曜日にPrudential Centerで行われる、THE WHOのコンサートの良い席を買った事を誰も責められまい(笑)。
ELPも観て置けば良かったが、Too late…エマーソンのご冥福を祈る。
と云う事で、日本を後にしてロス経由で向かったのはデンバー…今回も某コレクション中の作品を購入したいクライアントの為のビューイングだったのだが、今回のバイヤーはこれから出来る某重要美術館で、観る事に為って居る作品も奈良から江戸時代に渡る大物揃い、その為に担当キュレーター自らが遠方から出向いて来ると云う、こちらに取っても超重要な仕事だった。
そのロス行き機内では、ずっと観たかったトッド・ヘインズ監督のレズビアン恋愛映画、「キャロル」を観る。
この作品を観たかった理由は2つ有って、1つは本作品の原作が「太陽がいっぱい/リプリー」「アメリカの友人」のパトリシア・ハイスミスだと云う事、そしてもう1つは大好きなルーニー・マーラが出ている事だ。
観てみるとケイト・ブランシェットのマッチョネス(笑)と対照的に、本作で昨年度カンヌ映画祭女優賞を獲ったマーラの折れそうな演技が中々良くて、ストーリー自体は何て事無いが、背景やセット、ファッション等も含めて、匂う様な雰囲気の作品だった。
そして今回デンバーで泊まったのは、以前からずっと気になって居た、デンバー美術館のすぐ側に在るその名も「The Art」と云うホテル。
このホテルのオーナーは、デンバー美術館の重要なトラスティーで、現代美術の大コレクターだと云う…そしてその事実は、ホテルのエントランスに掛かった巨大なサム・フランシス作品から始まり、ロビーでエレベーターを降りた客を出迎えるキキ・スミスの彫刻、トーマス・ルフ、クリフォード・スティル、ルシェ、アルバース、バルデッサリ等「本物」が館内に展示されて居る事から、十二分に分かるので有る!因みに年間保険額は数千万ドルだとか…さも有らん。
そんなデンバーでの仕事も、ヴューイングと作品状態のチェックが行われ、夜はキュレイター氏とバッファロー・ステーキやスパイシー・アボカド・マグロ丼を食べたり、ジャニス・ジョップリン張りの迫力ヴォーカルのブルースを聴いたりして、無事終了。
デンバーを後にし、漸く戻ったニューヨークではAsian Art Weekが既に開幕して居て、僕は途中参加と為った訳だが、先ずはコロンビア大のM先生の企画での、T大のT先生&K大のY先生ご夫妻や、S美術館のI&U女史、G大のF先生等との楽しいメキシカン・ディナー@「R」や、トップ・ディーラーSを含めてのイタリアン「I」でのディナーを楽しむ。
またジャパン・ソサエティーで開催された、ドナルド・キーン先生をお迎えしてのレセプションにも参加したが、「93歳9ヶ月」にして飛行機で日本からお越しに為ったキーン先生、某漆芸作家から贈られた漆の机の漆が乾き切って居なかったらしく、被れて仕舞ったそうでお疲れでは有ったが、太平洋を往復されるとは、何とお元気なのだろう!
それと同時に、Asian Art Week中の展覧会サーフも好調…Sebastian Izzardでの肉筆浮世絵やKoichi Yanagiの雲谷派屏風、Hiroshi Yanagiでの仏手や不動明王像も良かったが、上記ジャパン・ソサエティーで始まった展覧会「In the Wake: Japanese Photographers Respond to 3/11」が実に素晴らしい。
本展は元々ボストン美術館の企画だが、ジャパン・ソサエティでは端正に、然し重厚な展示と為って居るのだが、畠山直哉や今回の出展作で正直見直したアラーキー、一部屋を占した新井卓のダゲロタイプの美しい作品群「Mirrors in Our Nights」、福島の村に移住し「村専属」カメラマンと為った志賀理江子の、土俗習慣や祭り等を撮ったフィールド・ワーク的作品群、横田大輔のレトロ感を残しながらも新しい「Site/Cloud」シリーズ等、どれもこれも素晴らしい作品ばかりで眼を瞠る。
そして「3.11」の悲劇を思い返しながらこの美しくも残酷な展覧会を後にし、2階に在るギャラリーからの階段を降りると、左手に白い樹と額装された手紙が展示されていて、それはヨーコ・オノの作品「Wish Tree」…紐付きの白い短冊の様な紙が積まれ、誰でも其処に希望・御願いを書いて樹に吊るす事が出来る。
僕は「福島が早く復興します様に。そしてオリンピックに使うお金が、福島に使われます様に…。」と紙短冊に記し、木の枝に結びつけた。
安倍首相がオリンピック誘致当時に使っていた、「オリンピックを復興の原動力に」とか云う既に誰も云わなく為った文言と、他の目的の為に湯水の如く使われて居る復興予算、そんな「嘘」こそが2020東京オリンピックに纏わる全ての不都合、スタジアム、ロゴ、陸上招聘賄賂等の諸問題を産んでいるに違いない…そう、神様は観て居るのだ。
ジャパン・ソサエティでの素晴らしい展覧会、必見である。